SUZUKI GSX-R 1000R(L9)インプレッション

【IMPRESSION】
SUZUKI GSX-R 1000R(L9)
サーキットからストリートまでのオールラウンダー

このところは電子制御の台頭によって戦闘力競争が過熱しているリッタースーパーバイクたち。サーキット性能に傾倒していくライバルもいる中で、従来の姿勢を変えずにストリートでの扱いやすさを保持し続けるスズキのGSX-Rの戦い方とは。2019年型GSX-R1000R(L9)を丸山 浩がツーリングで語る。

取材協力:スズキ株式会社 TEL0120-402-253 https://www.suzuki.co.jp/
Report:丸山 浩/Photos:淵本智信


結局、乗れるスーパーバイクがイチバンなんだ

先日、GSX-R1000Rで新年の祈願に茨城・大洗へ行ってきた。都内を出発し、あちこち巡って走行距離は300km程度。メンバーは総勢20台弱、いわゆるマスツーリングを存分に楽しんできた。「おい待て、GSX-Rでマスツーはどうしたって辛いだろうよ」と訝しむ方もいらっしゃるだろうが、いやいやそんなことはない。コイツは昔っからツーリングOKなマシンなのだ。

ひとえにスーパーバイク、世界的最高峰レースカテゴリーに属するマシンといえど、そのキャラクターはさまざまだ。例えば戦闘力特化型。攻撃的なポジションと切れ味鋭いハンドリング、そしてゴリゴリのエンジンパワーの三拍子で、荒ぶるマシンを電子制御で調教しているタイプ。S1000RRやYZF-R1などだ。

GSX-R1000Rはというと、これらよりも乗りやすさや扱いやすさに振った性格。2019年までのCBR1000RRも同様で、最近だと意外にもZX-10Rがこちら寄りのキャラになってきている。

SUZUKI GSX-R 1000R(L9)02インプレッション

では乗りやすさが考慮されたスーパーバイク勢は何本か牙を削がれているのかというと、まったくそんなことはない。戦闘力特化型には確かに瞬発力があり、レースの予選などタイムアタックでは、マシンもライダーも完璧にハマりさえすれば頭ひとつ抜きん出たベストラップを叩き出してくる。

しかしどうだ、スーパーバイク世界選手権で近年覇権を握るのは、乗りやすさに舵を切っているカワサキだ。世界耐久選手権に至っては、スズキの獲得タイトル数の多いこと。となると乗りやすさ・扱いやすさとは、レースにおいても欠かせない武器と言える。

私自身、ここまで挙げたスーパーバイクたちを集めたサーキットアタックテストをさんざっぱらやってきたが、直近ではなんと全車のタイム差が1秒以内に収まるなんてこともあった。僅かに先を行ったのは戦闘力特化型で、コースイン直後から全身全霊の格闘の末にマークしたタイム。一方、乗りやすさ考慮勢はマシンポテンシャルを探りながら徐々にペースを上げて行った結果。仮にアタック回数を増やせば戦闘力特化型がさらにプッシュ出来た可能性もあるが、平均タイムは安定感のある乗りやすさ考慮勢にも分があろう。

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これらの示すところつまり、スーパーバイクたちの戦闘力差は非常に僅かであり、そのキャラクターの違いはタイムへのアプローチの仕方、ことファンライドにおいては演出として楽しむものと言っていい。ただし、楽しめるステージやその幅もキャラクターによって異なるのも事実。では、GSX-R1000Rはどんなバイクライフに適しているのか。そこをイメージしながら、この大洗ツーリングで走らせてみたわけだ。

ひと昔前は「スーパーバイクでコレ!?」と言いたくなるほど座布団だったシートもだいぶ薄くなったが、座り心地はキープ。ポジションも先代よりさらに前傾が強くなってきているものの、絞りが効いたハンドルは体に近く、シェイプされたタンク形状も相まって、コンパクトさはスーパーバイク随一。身長168cmの私で両足親指の腹がしっかり着くシート高は、公道でこそ頼もしい。とはいえ流石に街中や渋滞はね、辛いもんは辛い。

右左折Uターンに合流と、慎重に走るべきはスーパーバイクの宿命だが楽な方、市街地を抜けるまでの我慢。開けた道に出た後は、最高峰のスペックを堪能する時間が待っている。

高速道路、解放できるのはいいところマシンスペックの1/3かそれ以下か。曲がりくねった一般道、もちろんサーキットのインラップよりも遅い。それでも、ちょっとした加速で味わうエンジンフィールや、ちょっとしたコーナーで感じるハンドリングの完成度、たまのバンプで実感する足まわりの上質さ。技術の結集、最高峰の片鱗をつぶさに堪能するのが公道でのスーパーバイクの楽しみ方だ。

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GSX-R1000Rも今や当然のようにジャイロセンサーを備えたトラクションコントロールや、オートシフターなどの最新電制満載だ。遠心力で機械的にバルブタイミングを変化させるSR-VVTという独自のシステムも搭載している。しかしその味付けは、堅実のひと言に尽きる。

例えばシフトダウン。オートブリッピングは的確かつ最小限で、他車のような仰々しさはない。例えばVVT。他車の可変ファンネルやハイカムシフトのように、作動の瞬間パワー爆裂! 同時にトラコンが介入してインジケーター点滅! エキゾーストノートにも点火カットが伺える炸裂音が!……みたいな派手さもない。言ってしまえば地味なのだが、これこそがGSX-R1000Rの真骨頂。

電子制御はいわゆるリミッターであって、破綻を防ぐために作動する。その介在が希薄ということはつまり、素のままのマシンポテンシャルを操れていると感じさせてくれるのだ。低回転域から使えるトルクフルなエンジン、タッチの良いブレーキ、無理のないハンドリング。どれも突然破綻をきたすようなピーキーさはなく、イメージ通りにコントロールできる。 結果、幅広いスピードレンジで「止まる」「曲がる」「加速する」といったバイクの基本動作をシームレスにつなげていける。これこそがGSX-R1000Rの乗りやすさ・扱いやすさの正体なのだ。

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この特性はGSX-Rシリーズに脈々と受け継がれてきたもので、初めて確立されたのは2005年、1000のK5と呼ばれるモデルからだ。スーパーバイクとしては異例のロングストローク仕立てのエンジンは低速からトルクフルでコントローラブル。

そのオールラウンダーぶりは相当なもので、私もレースに使ったのはもちろんのこと、ワインディングタイプのクローズドコースで4輪とタイムアタックバトル! という(今思えば相当クレイジーな)映像企画でも、K5のGSX-Rを選んだほどだ。峠なら思い切り振り回せるミドルスポーツの方が有利と思われがちだろう。

でも砂利浮きまくりの予測がつかないバンピーなコンディションではその限りではなく、極力寝かさずコーナーを最小限にくるりと回り、短い直線で一気に加速する走りが適している。サーキットのみならず峠まで、電子制御がない頃から、GSX-Rの守備範囲の広さは驚異的であった。

残念ながら今回の大洗ツーリングのルートにワインディングは含まれていなかったが、行程300kmを走り終えて、やはり楽さが際立った。実に体感100km! ショートツーリングメインで、1〜2カ月に一度は自走でサーキットを楽しむようなスタイルがピンとくる。GSX-Rは今も変わらず、ストリートでスーパーバイクできるマシンなのだ。

 

スズキ・SUZUKI GSX-R 1000R(L9)Detailed Description【詳細説明】

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ライバル勢がどんどんと小振りになっていく一方、GSX-Rのスクリーン&フロントカウルは少し伏せれば効果を感じられる高さがキープされている。

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メーターは背景が黒のネガティブタイプの液晶パネル。パワーモードやトラクションコントロールなど、必要な情報をシンプルに一括表示。

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太ももが当たる部分は絞り込まれニーグリップの感触はコンパクト。一方でタンク下のフレームは広がりがあり、足着き時に足がやや外に開く印象。

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シートはメイン/タンデムともにスーパーバイクの中で最も現実的な厚さと形状。スポーツ性を確保しつつ、長時間の乗車にも耐えうる座り心地だ。

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スズキ他車でも魅力だったイージースタートとローRPMアシスト(発進時等の回転落ち込みを緩和)を搭載。こちらはもう少しアシストしてくれても良かったかも。

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オートシフターを備え、カチッとシフトが切り替わった先にグニッという感触の遊び領域がある。もう少し節度感がと思う半面、ツーリングにはつま先に優しかった!

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SR-VVTは遠心力で押し出されたスチールボールがバルブタイミングを変化させる機構。電気的にバツンと切り替わるのと対照的な、スムーズな特性。

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排気系は高回転時に#1と#4、#2と#3気筒のエキゾーストパイプを連結するシステム(SET-A)を装備。低回転トルクと高回転パワーの両立にひと役買っている。

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足まわりはSHOWA製。R1000RはフロントにBFFを、リヤにBFRC liteを採用し幅広い速度レンジに対応している。ステアリングダンパーは電子制御式だ。

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ホイールは6本スポークのアルミキャストで3.50-17/6.00-17サイズ。タイヤはブリヂストンのRS11。国内仕様はABSも標準装備している。

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フロントブレーキはBrembo製モノブロックラジアルマウントキャリパー。ディスクはφ320mmで2種類のフローティングマウント(ピンとTドライブ)を採用。

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電子制御システムの根幹を担うIMUを装備。車体姿勢や加速度を測定するセンサーはピッチ/ロール/ヨーの3軸6方向の動きを検知する。

 

スズキ・GSX-R 1000R(L9)【SPECIFICATIONS】

●型式 2BL-DM11G  ●エンジン:水冷4ストロークDOHC4バルブ並列4気筒999cc [φ76.0×55.1㎜ /圧縮比13.2:1] ●最高出力:145kW<197ps>/13200rpm ●最大トルク:117Nm<11.9kgf・m>/10800rpm ●車両重量:203kg ●全長x全幅x全高:2075×705×1145mm ●軸間距離:1420mm ●シート高:825mm ●キャスター/トレール:23°20’/95mm ●タイヤサイズ:120/70ZR17・190/55ZR17 ●燃料タンク容量:16L ●価格:196万円(税別) ●カラー:パールグレッシャーホワイト(パールホワイト)、グラススパークルブラック/パールミラレッド、トリトンブルーメタリック

※本企画はHeritage&Legends 2020年3月号に掲載された記事を再編集したものです。
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WRITER

丸山 浩

国際A級ライダーとして全日本ロードレースや鈴鹿8時間耐久などの参戦経験を持つ。株式会社WITH MEの代表としてモータースポーツ文化を広めながら、雑誌、TV、YouTubeなどでモータージャーナリストとしても活躍中。