Zのベースたる数値を拾い出し車体からエンジン、パーツまでもアップデートするコンプリート・ブルドック

自然な立ち姿の中にハイスペックなカスタムを施し、Z本来のオールラウンド性を現代的に楽しめるように作られるブルドックのコンプリートカスタム車、GT-M(Genuine Tu-ning Ma-chine)。手がけてきた多くの車両からZ本来の各部数値を拾い出して車両本来の状態を作る。その上で現代のスペックを採り入れる。そうしてより完成度を高め、Z自体にもフィードバックを行う。さらに先を見据える手法に注目してみよう。

Zという名車で現代を楽しむための好適な選択

空冷Zシリーズを今手に入れ、乗ることを考える。その時にノーマル車とともに思い浮かぶのが、コンプリートカスタムだろう。Zというモデルの素性を生かしながら、内容を大幅に現代化する。前後ホイールサイズの17or18インチ化とこれに合わせた車体側の変更や、エンジンの見直し、スープアップ。今普通に乗るという点でも魅力大だ。

そのコンプリートカスタムZの筆頭と言えるのが、ブルドックによるGT-Mだ。紹介する車両はその近作で、MkIIらしさをそのままに、各部の底上げが図られている。ブルドック・和久井さんが提唱する“ノーマルライクな自然な立ち姿の中に高いスペックを備える”を地で行くスタイルの1台だ。

▲ブルドックの代表、和久井維彦さん。修理から始まり、コンプリートも20年超手がけ、その間に多くのパーツも開発してきた。

「エンジンはピスタルレーシングのφ73mm鍛造ピストンで1105cc。カムはヨシムラST-1Lを組んで、内燃機加工はいつも通りに自社です。全体としてはオーソドックスでコストも含めたバランスを考えた、今のGT-Mの標準的な作り込みをした車両です」

▲BULL DOCKのZ1000Mk.II。オーナーの指向も反映しながら自然に高質さを取り込むコンプリートの標準仕様だ。車両の詳細はこちらのザ・グッドルッキンバイクページをチェック!

このように和久井さんは教えてくれるが、その標準も底上げがされている。これまでにも車両紹介で説明してきたようなパーツ群、例えばブレーキやサスペンションなどの進化を反映したもの。リヤタイヤのサイズ変化に合わせた車高セッティングもそのひとつだ。その都度の最新とベストを織り込んでいるという点でも、コンプリートカスタムは今走るZを手に入れる好適な答えと考えていい。

 

新作と言えるレベルで作り込まれるフレーム

各部パーツやその仕様の変化で底上げ=アップデートが進むコンプリートカスタムZ、GT-M。そのアップデートを可能にしているのは、内製率90%以上という製作工程だ。エンジン=内燃機加工やフレーム加工もそれに含まれる。今回はフレームの測定/加工工程を見ることができた。順を追って紹介しよう。

フレームは1本1本がブルドックオリジナルのフレーム台に載せられる。フレーム台は水平を出した定盤にスロットを設け、Z用に作られた治具が装着されている。これによってフレーム各部のゆがみやねじれを確認し、修正や補強等の作業を行っていく。

▲フレームは不要部のカットなどを行って上のフレーム台に載せ、治具上で測定や修正を行って正しい状態を作り込んでいく。

フレームをフレーム台に載せ、まずヘッドパイプとスイングアームピボットがセットされた治具と合うことを確認する。ヘッドパイプの角度が正しいか=ぶつかったり転倒したりでねじれたり角度が変わったりしていないかが分かる。スイングアームピボットもフレーム左右の穴をシャフトがきれいに貫通しているか、ヘッドパイプから後ろに真っ直ぐ延ばした線と直交しているか。この2点3カ所が車体側の大きな基準となる。

ここが大丈夫なら、次は左右フレーム上側の水平、同じく左右燃料タンクマウントなどのボス(出っ張り)。さらにシートレール左右、テールランプステー左右の平行確認と続く。水準器や、フレーム台のスロットに立てて左右のズレを確認するストレートバーなどのツールが駆使され、これらが大筋で正しければテール上部の高さも計る。地味な作業だが、これにはもちろん大きな意味がある。

▲左右ダウンチューブの水平を水準器で確認している様子。

「Zの最初の状態というのを、きちんと作るためなんです。フレームの真ん中(センター)を正確に出して、エンジンがそれに対して真っ直ぐ載る。バイクと言うか機械の基本ですから、そうしたい。それに、ウインカーや外装といった部分もきちんとしたフレームに角度や高さがきっちり正しく付いていれば、見栄えもしっかりする。そんなところにも気を遣って作っていくんです。

Z本来のデータが分かればそれに合わせることもできるんでしょうけど、そもそもそんなデータも図面もない。ですから私たちはどれがZフレームの正しい数値かを割り出していったんです。

フレーム台や治具はそのために作りました。水平と垂直がきちんと出ていて、載せたフレーム各部の位置関係や真っ直ぐかどうかがすぐ把握できる。ぱっと見“きれいで大丈夫”というようなものも、計るとゆがみやズレがある。海外でいじられたものもあって、計らないと分からないんです。

たくさんの車両を計って、ネック角やピボット幅などのデータを採り治具に反映させて、フレームを正しい状態に戻すように作り込んできました。直すと言うよりは、より良く作り込む。フレームは溶接構造体ですから1/100mm単位は無理としても、カワサキの公差のミリ単位は狙って。また、後で不具合が出ないように、先にネガをつぶしておく。もう全部新しく作った方が楽かもしれないという気持ちも出てきますけど、そのくらいやりました。ここまでやって初めて、車両製作という段階になります」

 

正しい基準を持つことで作動も見栄えも高まる

フレームは先の測定でズレのある部分は補正し、車両のオーダー内容によっては補強を加えていく。この時にも部材の寸法などに配慮し、作業後のゆがみを招かないように配慮される。そうして作り込まれたフレームには、正しい位置でエンジンを積む配慮がされる。Zは、左側ダウンチューブの前と下に、溶接で一体化されたエンジンマウントを持っている。

「ここをフレーム側のマウント基準位置にしています。フレーム台にはエンジンマウント用の治具があって、そこにダミークランクケースを載せる。この左側マウントとフレーム側のマウントが合うかを確認し、ずれていれば合わせる。

▲フレームをフレーム台にセットし、エンジンマウント治具にダミークランクケースを載せてエンジンマウントを合わせる。

クランクケースは以前に説明したように、クランクシャフトセンターを基準にして位置を把握していますから、これでクランクを基準に車体側各部との位置がはっきり把握できます。当たり前だけど、その当たり前が出来るか。そこをGT-Mでは追ってきたんです」

クランクシャフトとフレームはこの時点で正しく直交する関係になり、チェーンラインもこの時点で正しく出せる。GT-Mではサーキット走行用にバンク角を稼ぐエンジン位置上げ搭載仕様の例もあるが、それにしてもこの手順によって無理なく作れる。

ただきれいなZを探し、パーツを換えていくというのとはまるで異なり、ほぼイチから作り込んでいく。そのために2台や3台という数でなく、多くの車両を測定した数値からフレームのスイートスポットを割り出し、基準を決めた上で各部の距離や角度、クリアランスを適正化する。走るためのものは当然としてもそこにとどまらず、車両を仕立て、外装をマウントした時にビシッと決まって見えるのは、この精度と基準を作っているからだ。そんな作業を徹底しているのが、GT-Mだと言える。

 

乗り続けられる環境も作り出すエンジンパーツ

GT-Mを支える大きな要素にはもうひとつ、エンジンがある。冒頭の車両でも行われる鍛造ピストンの使用や、Zに最適な手法と数値による内燃機加工。自社で行うことで作業のすべてを把握し、トラブルの元をなくすという手法はもはやおなじみとなった。

その上で今改めて注目したいのは、ブルドックオリジナルのエンジンパーツだ。5速と6速のクロスミッションに純正同様のギヤ式を採用したオイルポンプ、クロモリスタッドボルトなど、ショートパーツも含めてラインナップは続き、ビレットシリンダーもそのひとつとなった。ミッションやオイルポンプはロットを重ねる人気パーツとなったとのことで、この流れを和久井さんはこう説明する。

▲左が6速クロスミッション(レーシング仕様、専用シフトドラム付属)、右が5速クロスミッション(ストリート仕様)。

「Zをこれからも長く乗ってほしいというのが根本的な理由です。ミッションは、Zの純正が出ない。それで中古良品を見繕うなどの手法を使ってきていたものが、もう限界に来ました。いいものはもうない。その対策で用意しました。

メリットはいくつかあって、まず新品になる。同時に、私たちが作っている限りはどれかのギヤだけ交換というようなリペアパーツに困ることはないです。それから、ギヤレシオやギヤ歯、ドッグ(噛み合い部)などが現代的です。

レシオは1速がロングで、各ギヤも、カスタム化して軽くなったZ(編註:例えば70ps/乾燥240kgが130ps~/200kgになるなど)をハイギヤでも無理なく走らせられるようにしています。

5速クロスの方はトップ(5速)のレシオをロングにしていて、ハイチューンエンジンでツーリングも楽しめるような設定にしています。純正5速でその上の“幻の6速”を探してしまうようなこともないです。もうひとつの6速クロスの方はレーシング仕様と言ってますけど、トップ(6速)は5速クロスのトップより少しショートレシオで、ストリートで使っても十分楽しめる設定です。デメリットは、申し訳ないですがコストがかかることですね。

オイルポンプも同じ。純正で出ないし、ミッション同様に経年劣化している。作られて50年、カスタムブームからと考えても25年はエンジンの中で動いてきたものが、これからいい状態にはならない。作られた当時は最先端だったでしょうが、さすがに50年、今なら素材も加工も精度も高まっています。

ですからミッションもポンプもエンジンオーバーホールの際に換えてほしい。後から換えようというケースもあるんですけど、エンジンの積み下ろしと開け閉めのコストなどが乗るので、先にやった方がいいですね。それで今GT-Mでも8割以上で使っています」

もう一台紹介する車両はその好例で、ブルドックオリジナルの6速クロスミッションやオイルポンプも当初から導入。メーカーチューンの進んだJ系ヘッドでツインプラグ化し、排気量も1200ccとした、いわゆるハイスペック仕様エンジンを積んでいる。それも尖った特性でなく、余裕を持って乗れるものだ。

そのベースには、ここまでに説明したフレームの再構築や、これからを意識したエンジンパーツ、高い内製率でのトラブル抑止などの要素があることも分かった。その上で、コンプリートとしてのGT-Mの底上げはさらに進む。和久井さんは乾式で分割式のクラッチバスケットの製作を進行中(現在は発売中)だ。

▲もう一台紹介するBULL DOCKのZ1000Mk.II。6速クロスミッションやJ系ヘッドに200幅タイヤも取り込んだ最新スペック車。車両の詳細はこちらのザ・グッドルッキンバイクページをチェック!

「純正の鉄製を後継モデルのアルミにするのは一般的ですが、摩耗もしますし、対策しようと考えました。バスケットをシャフト部と分割する構造にして、エンジンを開けずにバスケットが交換できるようになります。合わせて、クラッチプレートもパワーに応じた強化タイプを作るようにします」

消耗→交換の際にエンジンを開けるという手間や、それにともなうコストも省けるパーツ。古いからと気を遣うようなことが、またひとつ取り除けることになる。

ミッションやオイルポンプに関する言葉にもあったように、GT-Mを作るにはパーツの供給が重要だ。これがあってこそ、作り続けられる。多くの純正、あるいはリプロパーツがあって、Zの世界は継続を可能にしてきた。ブルドックオリジナルパーツも、その一部を担うという役割がある。しかも純正を吟味し、より良く、現代化できる要素が加えられる。だからZユーザーに使ってほしい。

このパーツのこと、そしてフレーム作業に見られたように今や、経年劣化をどう解決するか、Zのしっかりした状態をどう作り込むかというのは、ノーマル車でさえ必要な内容となった。中古車がそのままで乗れるわけではなく、コンプリートと同様の手を入れるべき時代になっている。

しかも、ただエンジンやフレームがあれば同じようにできるというものではない。今回見たのはその一部だが、フレームもエンジンも全部直し、正しいデータに合わせた上で安心して乗れる存在にする。それを常にアップデートするから、GT-Mは選択肢の筆頭に上がるし、新鮮味も薄れないのだ。

 

Zの現代化を実現する最先端手法

●CHASSIS/徹底した採寸と調整でZの真の値を引き出す


多くの測定でZ本来の数値を割り出し、調整を行って標準状態を作り、基準位置を決める。フレームに施される一見地道な作業は、GT-Mの走り、外観、それぞれの高質さを支える。

 

テールの高さや角度もこの時点で正しく


シートレールの左右平行やテールランプマウントの高さ(上写真)、フレーム中央からのズレ(中写真と下写真、フレーム台中央から垂直に立つ治具でマウント中央が中央か確認)を確認し、必要に応じて修正。この段階で行うことで後の作業もスムーズになる。

 

ヘッドパイプとピボットを元に各部を測定


フレームはフレーム台にセットされた前側治具にヘッドハイプを差し込み、後ろ側治具の間にスイングアームピボット部が入るようにシャフトを通して固定する。すんなり入れば他の部分の測定に進み、入らなければ修正を行う。

 

正しいフレームの左側をエンジン位置の基準に


ヘッドパイプと左右ピボットの位置が正しくなったらエンジン位置を合わせる。エンジンマウント治具にダミークランクケースを載せ、ケース左とダウンチューブ左の前/下2カ所のエンジンマウント(上写真指差し部)を合わせる。ここがフレーム側のエンジン基準となり、フレーム各部とエンジンの位置関係が正しく割り出せる。右側マウント(下写真)や別体マウントはこれに合わせて調整する

 

ピボット部の幅とクリアランスを適正化


スイングアームピボット部の治具(上写真が後ろ側、下写真が前側)は中央と左、右の隙間にフレームが入り、スイングアームピボットにシャフトを通す。左右で位置が違えば入りにくいし修正。内幅もスイングアームを入れて0.5mm程度のクリアランスになるようにする。

 

測定や修正の次には補強が入る


左右ダウンチューブの前後にパイプ補強が入っているが、この際にも補強材とフレームとに隙間が出来て溶接時に引っ張りで変形しないよう、ぴったり入る長さや接続部形状を持った部材を用意して行うなど、配慮は細かい。

 

■ENGINE/Zの経年劣化を補正し現代化する加工


ベースの状態を知り、正しい位置関係を作るのはエンジンでも同じだ。ブルドックでは炭素鋼製で焼き入れ円筒研磨処理したダミークランクシャフトを治具として製作。


ダミークランクシャフトの上下(Z軸)/左右(XY軸)平行を出して(上写真)、シャフトに開けた穴にノックピンが入るようにアッパークランクケースのノックピンを載せる(下写真)。


その上でケース上面を測定、ズレを面研修正してクランクシャフト/ケース/シリンダーを正しい直交関係にする。その上で精度を出したフレームに積まれる。

 

■ENGINE PARTS/性能を取り戻し、かつアップデートさせるパーツ群

レシオも吟味し安心感も高めるクロスミッション


ブルドックオリジナルのZ用5速クロスミッション(ストリート仕様)で日常域でのスポーティな走行を追求したレシオを持つ。37万7300円。シフトドラム/ベアリングは付属せず。


純正欠品を受けて製作したフルベアリングシフトドラム。ベアリング支持としてケース側の摩耗を防ぎ、シフトフィールを向上。Zの5速用で9万8780円。


こちらは、ブルドックオリジナルZ用6速クロス(レーシング仕様)。専用シフトドラム付属、ベアリングは付属せずで48万7300円。ドッグがスクエア形状でストレート逆テーパー加工を施して抜け防止(5速/6速とも)され、ピッチ精度を高めスライド性が向上するインボリュートスプラインでスムーズな作動を実現。総削り出しでチューニングエンジンに合ったレシオを持つ。


純正廃番にともなって製作されたオイルポンプ。純正同様で高い信頼性を持つギヤ式で、吐出量も純正同様。50年近く使われた純正品からはオーバーホール時に迷わず交換したい製品で人気だ。外部ギヤは別売。

 

ブロック剛性を高め耐熱性も高めるビレットシリンダー


超高精度削り出しの「ビレットシリンダーブロック」も注目のパーツ。熱処理と液体化処理後に1.5~3%以下の永久ひずみを与えることで残留応力を除き、熱変形を抑える高強度のA6061-T651材を素材としている。これに超々ターカロイスリーブを打ち込んで使う。1260cc仕様を想定していてブロック単品で販売。一体成形ブロックの高い強度や放熱性、素材の耐熱変形などのメリットに注目。


「クロモリスタッドボルト」は純正に同じ太さでオイル通路も妨げず、純正比3mm長くすることで社外ガスケットやチューニングエンジンに対応する。SCM435調質材製でネジサイズはM10×ピッチ1.25。1台分で12本セット。

 

【協力】ブルドック TEL0284-64-9825 〒326-0012栃木県足利市大久保町957-2 https://www.bulldock.jp

※本企画はHeritage&Legends 2022年12月号に掲載された記事を再編集したものです。
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WRITER

Heritage&legends編集部

バイクライフを豊かにし、愛車との時間を楽しむため、バイクカスタム&メンテナンスのアイディアや情報を掲載する月刊誌・Heritage&legendsの編集部。編集部員はバイクのカスタムやメンテナンスに長年携わり知識豊富なメンバーが揃う。