油冷の新車を知るからこそ勧めたいリニューアルとアップデートは今がラストチャンスか?・テクニカルガレージRUN

長い歴史とアップデートによる改良、そしてバリエーションを広げ過ぎなかったことや、長期にわたるパーツ供給によって支えられてきた油冷モデル群。しかし、環境は徐々に変わりつつある。多くの油冷新車を正規販売し、その素性を伸ばすバージョンアップ・コンプリートも製作してきたTG-RUN。代表・杉本さんが長らく唱えてきた車両の再生はパーツ環境の変化で厳しくなることが明確化したという。そこにどう対処するかの処方を聞いてみた。

いよいよ差し迫った純正パーツ供給の難化

「いよいよ、という感じですね」。と、テクニカルガレージRUNの杉本さんは、油冷モデルを取り巻く環境を、こう切り出してくれた。

「油冷用純正パーツの廃番化がど急速に進んでいるんです。これまで皆さんにお伝えしてきたことが、徐々にというレベルでなく、一気にという感じになってきました。ゴム類やハーネス類が急速になくなっていますから、今確保しておくべきです。そして、それらを使って、車両にしっかりと整備をする必要があります。整備の際に新しいパーツを使えうことで、今後しばらくはいい状態を保てるわけですから、もう強く推奨します」

▲テクニカルガレージRUNの代表・杉本卓弥さん。油冷は各車はもちろん、GSX-R750RK(販売車両もあり)も積極的に扱い、コンプリートも製作する。

確かに純正パーツの状況悪化への対応は、これまでも何度か、しかも何年かに渡って、杉本さんが提唱してきたことだ。できるだけ早いうちに今乗っている、所有している車両の状態を良くしておくこと。そのために必要なパーツを用意しておくこと。それがこれまでの“まだ出るからいつか出来る”と延ばしているような状態から、とうとう待ったなしとなってしまった。

「ですから本当に油冷を維持するなら、今がギリギリ間に合う最後のチャンスになりそうです」。杉本さんは続ける。乗れるから大丈夫、油冷は頑丈だから大丈夫……。そうした考えはもう通用しない。

▲'08~'10年にTOF/TOTに参戦したTG-RUNバンディット1200レーサー。'06~'10年の同GS1200SSレーサーとともに鉄フレーム+油冷で筑波1分切りも果たした。

確かにスズキの正規販売店として油冷車も含めて多くの新車を販売し、そのフォローで車検や整備をこなしてきたこと。GSF1200やGS1200SSやバンディット1200、GSX-R1100をベースにTOTに参戦し、優勝初め実績を残したこと。さらに車両の質や安心感、安全性をも高めるバージョンアップ・コンプリートというカスタム車を多く作ってきて、油冷はそのコンプリートの軸でもあったということなど、TG-RUNが油冷車を長年支えてきたことからも、はっきりとしている。ただ言っているだけでなく、これらの車両を随時作る、あるいは整備していく際に明確に見えているからこその話なのだ。

▲TG RUN BANDIT1200S/油冷1100/1200系最終モデルのバンディット1200Sを元にしたTG-RUNのバージョンアップコンプリート。タッチや作動性の向上、軽量化など各部の上質化を図ることで車両はコンパクトで動かしやすく感じられ、ベース車(ここではバンディット1200S)のオールラウンド性を大幅に高めている。詳細はこちらのページでも紹介している。

例えば上のバンディット1200Sはそんなバージョンアップ・コンプリート油冷車の一例だ。足まわりは作動の正確性や質を向上させ、ブレーキはタッチや制動力を高める。動力系も同様。社外の高品質パーツに置き換えてリニューアルと現代化を図るのだけれども、それだけでは全体の質は高まらない。ベースコンディションをきちんと新車レベル以上に引き上げる。だからこそ各パーツもより確実に機能してくる。そのために純正新品パーツが欠かせないのは、当たり前だ。

現代車の新車がベースならばそのままコンプリート化が始められるが、油冷のように時が経ったモデルではそうはいかない。現存する車両はまず中古。走行極小という車両だとしても、状態確認は必須だし、前述のような各部の新品交換、場合によってはエンジンも車体もオーバーホールからスタートということになる。それにも、前述のように純正パーツは不可欠。杉本さんがパーツ確保を何度も言うのは、油冷に本気だからだ。

 

いい状態を維持すれば油冷の良さは続けられる

「まだまわりで走っているような車両を見かけるのでそんな気もしないんでしょうが、油冷は初代GSX-R750なら35年、1100系最終のバンディット1200ファイナルエディションでももう15年以上経ってます。そうした時間が経っていれば、ごく普通に考えても、どの車両でも消耗品は新品にしたい、いや、してほしいです幸いなことに、今気がついて、リニューアルへの覚悟を決めた方からのオーダーも入ってきています。新型に乗り換えるのでなく、GSX-R1100に乗り続けたいということで相談を受け、仕様を決めて作業に入りました」

▲これまで乗ってきた上で、「まだ乗りたいのでしっかり手を入れたい」とTG-RUNに入庫し、今手が入りつつあるGSX-R1100J。フレームは見直してきれいにされエンジンも載り、前後足まわりも再構築。外装は再塗装、ホイールもこの後18インチのMAGTANに換装予定。仕上がりが楽しみだ。

そう言われて見せてもらったのGSX-R1100Jだが、フレーム/スイングアームはきれいにされ(アルマイト処理もお勧め、と杉本さん)、フロントフォークはオーバーホール、リヤショックはオーリンズに換装してアップグレード。エンジンはオーバーホールの代わりに、同店でチューニングしたものにヨシムラカムを組んだ上で換装。

ブレーキ系も一新、ホイールも履き替える。外装も再塗装中だ。今回述べてきたショートパーツ類も一新される。つまり同店バージョンアップコンプリートの手法がほぼそのまま使われているが、今油冷に基本的な手を入れつつ現代化を図るいい見本とも言える。

もう1台のストリップ車は今ある車両の現状を再認識するための参考として見てほしい。最近同店で引き取ったという限定車のGSX-R750RK(’89年)だ。保管状態も悪くはなく、ぱっと見には普通の整備で動きそうだが、ハーネスは柔軟性を失い、アルミ地の見える各部はサビで白化し、押し回しても重い。

▲こちらはGSX-R750RKで、TG-RUNに引き取られてきたもの。形としてはちょっとすればすぐ乗れそうに思えるが、全バラチェックは必須の状態。長く止まっていた車両は再生にも手間がかかることは理解してほしいとも杉本さんは言う。外装などのパーツももうないから、保管/補修も視野に入れておきたい。

30年超という時はこういう状態を作る。「もしそれ以前が好調だったとしても、1年動かしてなかった車両なら、再始動のためにはタイヤやバッテリー、各部注油にエンジンのクランキング等多くの確認項目があるんです」、と杉本さんは補足してくれる。

「常によく乗っていて、いい状態から始めているなら劣化も該当する部分も分かりやすいでしょうし、少しずつやっていくという手法も取れます。でも劣化が進むと、一気にやらないといけない箇所も増えてしまいます。それもあっての今だと思います」

新車販売時とその後の車両の状態変化、さらに上質化した様子も知るからこその助言。同店でも油冷フォロー用パーツの供給構想はあるとのこと。それでも、パーツがある今、整備をしっかりしておく。それが一番大事なことのようだ。

 

目標のひとつと考えたいバージョンアップコンプリート


TG-RUNに置かれる油冷GSX-R750RKのリフレッシュ例。TG-RUNできっちり作業を受けて仕上げられる。ただ各部が新品になっただけでなく、杉本さんが販売していたメーカー新車の感覚/バランスもしっかり再現されている点にも注目。


GSX-R1100Jベースのバージョンアップコンプリートのデモ車で詳細はこちらのページでも紹介済み。今乗りたい油冷の見本車と言えそうだ。

 

油冷を支えるオリジナルパーツ群も用意する

TG-RUNでは油冷用オリジナルパーツも各種用意。今後の充実化も視野に入る。その一部を紹介しておこう。

TG-RUN エンジン マウントカラー

「TG-RUN エンジン マウントカラー」はGSF1200/Bandit1200/GS1200SS用の単品や、GSX-R1100(’86-’88)/GSX-R750(’85-’87)各3個セットを用意する。

TG-RUN トップブリッジ

「TG-RUN トップブリッジ 」のGSX-R750RK/GSX-R1100(89)用はさびや腐食対策に。

TG-RUN 5SPEEDクロスミッション SUZUKI 油冷エンジン用

「TG-RUN 5SPEEDクロスミッション SUZUKI 油冷エンジン用」はTOTレーサーにも使われたもので耐久性も高くレシオも吟味された。GS1200SS/Bandit1200等適合。

TG-RUN 車高調整リンク SUZUKI GSX-R1100(’86-’88)用

「TG-RUN 車高調整リンク SUZUKI GSX-R1100(’86-’88)用」はシムの枚数で車高が変えられ強度もアップ。オーリンズショックとの相性も良く、17、18インチ対応で今人気という。

【協力】テクニカルガレージRUN TEL043-309-5189 〒260-0001千葉県千葉市中央区都町2-2-7 営:10〜20時 休:月/レース・イベント日 https://tg-run.com

※本企画はHeritage&Legends 2022年2月号に掲載された記事を再編集したものです。
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