近い成り立ちを持つふたつのKATANA

近い成り立ちを持つふたつのKATANA

空冷と水冷、昭和と令和。時代にも作りにも違いはあるが、直4エンジンで走りとデザインを楽しむ異例のスタンスを持つ、ふたつの刀。その成り立ちは、かなり近しいということが分かる。

空冷カタナをなぞるように現行KATANAは現れた

「質実剛健」。今も昔も変わらない、スズキ車への評価と言っていいだろう。性能は高く、頑丈で、買いやすい。ただ、きらびやかさに少々欠ける。機械として見た場合、それで十分なのだが、商品として見た場合、所有感も高くしたい。

そんな考えから初代カタナは生まれた。雑誌が企画した、デザイナーによるコンペティション。そこに出された“未来のバイク”、ロッソ・ラプトールを手がけたターゲットデザインに白羽の矢が立つ。何度かのデザインやり取りをして出来上がったヨーロッパデザイン=EDが“世界最速”GSX1100Eと組み合わされ、GSX1100Sカタナに昇華される。

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▲メイン画像はKATANA(GSX-S1000S)で、こちらの写真はGSX1100S KATANA

当初の見た目の評価はマルとバツの真っぷたつに分かれたという。しかし、誰もがそれと分かるデザインは今でも古びず、多くの支持者を残してきた。

何度かの再生産が行われ、最終型が送り出されて20年近く経つ2017年末のこと。EICMAでの雑誌企画で並べられたGSX-S1000ベースのモデル。カタナを今デザインするとこうなるのではないか。これがスズキの目に留まる。そこからわずか1年後、かつてカタナが衝撃のデビューを飾ったドイツ・ケルンで、新しいKATANAが世界初公開に漕ぎ着けた。

雑誌企画に端を発し、外部デザイナーの血を入れ、企画が熱いうちに異例のショートスパンで量産へ。ふたつの刀は、このように近い。そして元祖カタナがそうだったように、KATANAは“これから”より多くの人の心に残っていくのかも知れない。

 

KATANA(GSX-S1000S)

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イタリアのデザイナー、ロドルフォ・フラスコーリさん(写真は2019年の第1回KATANAミーティング時)が次世代のカタナをスケッチしたのがKATANAの起点となった。

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フラスコーリさんによる上のスケッチ「KATANA 3.0 CONCEPT」をエンジンズ・エンジニアリング社が立体として起こし、2017年11月のミラノショー=EICMAでモト・チクリスモ誌の企画ブースにそっと置いた。これがちょうど次世代カタナを模索していたスズキの目に留まり、ゴーサインが出て開発、2018年10月のインターモトで「KATANA」は正式に発表される。ベースとしてGSX-S1000があったとは言え、この造形も含めてわずか1年(通常は2年以上かかる)で量産状態にしたことに、スズキの力の入れ方も分かる。

 

GSX1100S KATANA

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初代カタナのプロトタイプ(手前)と、ロッソ・ラプトールの後ろにいるのは、空冷カタナをデザインしたターゲットデザイン社のハンス・ゲオルグ・カステン(左)とヤン・フェルストローム。カタナにはもうひとりのハンス・アルブレヒト・ムートとフェルストロームが主に携わった。

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上はターゲットデザイン/フェルストロームによる初期スケッチのひとつ。ロッソ・ラプトール(赤い猛禽=MVアグスタベースのコンセプトモデルで1979年製作)の影響か、赤いボディカラーとなっているが、2021年に販売されたKATANA特別車「レッド」はここに回帰しているのかと思いを馳せたくもなる。下は1980年の西ドイツ(当時)ケルンショーに現れたGSX1100S KATANAプロトタイプで、既に量産に近い状態。この半年後の1981年春には、1982年型としての生産が始まる。GSX1100Eがあったとは言え、多くの仕様変更が行われた。左の大写真は空冷最後のファイナル2000年/SY)。

※本企画はHeritage&Legends 2021年2月号に掲載された記事を再編集したものです。
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WRITER

Heritage&legends編集部

バイクライフを豊かにし、愛車との時間を楽しむため、バイクカスタム&メンテナンスのアイディアや情報を掲載する月刊誌・Heritage&legendsの編集部。編集部員はバイクのカスタムやメンテナンスに長年携わり知識豊富なメンバーが揃う。