CB-Fの老舗に聞くCB900F/CB1100Fのトラブルと対処

CB-Fの老舗に聞くホンダCB900F/CB1100Fのトラブルと対処

1990年代のブーム当時から、イジるのはホンダひと筋。特にホンダCB-Fシリーズには様々なカスタム手法を提案し続けてきた、チームCB’sこと市本ホンダモータースの市本正治代表。最近では当時、自身が作ったカスタムのオーバーホールや修理も多く舞い込むという。作業の一端にトラブルの傾向と対処術を見る。

CB-Fはテンショナーまわりのトラブル相談が増大した

今回のCB-F特集に際し、お話を伺おうと、市本ホンダモータースの市本代表に連絡を取ると……

「もちろん、相変わらずカスタムのオーダーも多いけれど、最近、目立っているのは修理依頼ですね。特に900/1100Fでは純正部品が手に入らない、カムチェーンテンショナーまわりのトラブル。これは750から1100まで、排気量問わずまんべんなく起きている症状でもあります。まさに今、テンショナーのトラブルで入庫している1100Fがありますから、来てもらって眺めながら説明できるといいですね」と、市本代表。せっかくの機会なので、お邪魔して話を聞いた。

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「このエンジンは、お客さんが自分のFに積み替えようと、自らオークションで購入したもの。あらかじめ『不動』なことは分かっていましたが、うまくすれば大したた出費なく使えるかも……と、若干の期待も持っていた様子です。

ただ、結果はご覧の通り。カムチェーンが切れてクランクケースに落ち、クランクがロックしてバルブでピストンが叩かれ、見事に損傷しています。また、これとは別に、オイル管理も悪かったようで、カムシャフトのホルダー支持部にカジリが出ている。 750/900Fはデビューからすでに40年、1100Fも35年以上。特に1100Fは1983年型しか売られませんでしたから、残存個体数も少ない。こうしたエンジンを掴んでしまうのも、仕方ないことかもしれない」

そんなバックグランドを知りつつ修理を引き受けたというが、取材時はまだ、使えるパーツの選別と、加工手配の真っ最中だった。

「実はカムチェーンが切れてしまう症例は、これまで扱ったことがありませんでした。原因を調べると、上からカムチェーンを押さえる、カムチェーンテンショナーBのスプリングが脱落して、チェーンに噛みこんだことに端を発したトラブル。周囲に聞けば、カムチェーンテンショナーBのシャフトとステーの溶接が甘くて、同様のトラブルがたまに起きるらしい。

ただ、先の通りもう古いバイクです。今回は単に経年劣化が理由かもしれませんし、この先、何が起きてもおかしくない。実際、ウチに多くのテンショナーまわりのトラブルが持ち込まれるということは、O/H実績のない多くのFが同じ問題を抱えているはず。長く乗ろうというなら、早いタイミングでエンジン内のチェックを兼ねて腰上だけでも開けて、せめてチェーンテンショナーは替えてしまいたい部分でしょう」(同)

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Fのパーツが足りないから使えるサービスを活用

そんなFに長く乗りたいユーザーに向けて今、市本さんが勧めるのが、トレーディングガレージナカガワの、4輪アフターパーツメーカーとの協業による表面処理「R-SHOT」だ。これは対象物に樹脂メディアを打ち込む=ショットして、ディンプル加工を行うもの。対象物の表面応力を分散して硬度を高め、かつ微少なくぼみを作り、オイル保持性の向上を狙う。

「R-SHOTはエンジンインナーパーツの延命に使えると知り、何台かの部品に施工してもらいました。中古部品に使っても効果が出るのがいい。主に勧めるのはピストンとミッション。延命ももちミッションがスムーズ化し強化もできるTGNのR-SHOTが効果大ろんでしょうが、エンジン静粛性が目に見えて向上しますし、ミッションはよりタッチに節度が出る。摺動部に使うほど効果が出るでしょうが、お客さんの予算もあります。どこまで使うか相談しながらというのが、実際のところ」

「メーカーから750F用に重要部品が再生産されるようになりましたが、900/1100Fではそれでもフォローが効かない面が多い。一方で、足りないなりのサービスも生まれてくる。大事なFを維持するなら、それらを俯瞰して上手に組み合わせて使ってほしいな、と思いますね」(同)

 

CB900F/CB1100Fのトラブル傾向

【カムチェーンがちぎれるほどのダメージは各部に当然影響する】
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脱落したカムチェーンテンショナー保持用スプリングが噛みこんで、カムチェーンを剪断。特に3番燃焼室のバルブとピストンに大きなダメージを与えた。CB-Fではどの年式でも、こうしたトラブルは起こって不思議はない。

【ピストンは損傷前と同じφ72㎜を用意】
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今回のエンジンは元々、ワイセコ製φ72 ㎜で1123 ㏄ 化(純正は70.0 mm の1062 cc)。写真は右記3番のピストン側。バルブの打撃痕もはっきり。一般入手可能な最大ボアのピストンということもあり、今回は同製品の新品を用意した。

【コンロッドは流用使用】
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不幸中の幸いは、上下エンド部を含め、4本のコンロッド自体にダメージが見つからなかったことた。念入りな洗浄後、そのまま再組み付けの予定という。

【シリンダーは再ホーニング】
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比較的軽傷だったとはいえ、ダメージを受けたシリンダーはライナーごと交換に。右下で用意のワイセコ製φ72mmピストンに合わせ、再ボーリングした。

 

CB-Fエンジン再組立・3つのポイント

POINT1・カムチェーンテンショナーまわりの代替品への交換
POINT2・クランクシャフトへのラッピング処理
POINT3・ピストン/ミッション系パーツへのR-SHOT処理

クランクシャフトのラッピングに限らず、エンジンO/H時は特に、摺動パーツに気を配ることが、CB-Fを長く楽しむポイント。同店が勧めるR-SHOT施工もまさにその観点から。「難しく感じるかもしれませんが、予め予算・スケジュール感をショップと詰めておけば、効率のいい作業につながる」と市本さん。ここから先は上記3つのポイントを詳しく説明していく。

 

POINT1・カムチェーンテンショナーまわりの代替品への交換
カムチェーンテンショナーはVince&Hide製を使って対応

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上図、AがカムチェーンテンショナーA、そしてBがカムチェーンテンショナーBだ。CB900F、CB1100F用カムチェーンテンショナーの代替に、同店ではニュージーランドのVince&Hide Racing製を使う(下写真)。トラブルの元、スプリングがない樹脂一体製もメリットだろう。

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CB900F、CB1100F用V&H製テンショナー。A/Bはそれぞれ、カムチェーンテンショナーAとB。V&H製テンショナーは製造時期で若干、そのディテールは変わるというが、現状、トラブルは見あたらないと市本さん。赤枠内は未使用品(上)と1300km走行後(下)の比較。後者には若干、チェーンの滑り痕が付くが耐久性には問題を感じない、とも。

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本文内、トラブルに遭ったCB1100Fのシリンダーヘッド。下が進行方向だ。カムチェーンBは残存するが、剪断されたカムチェーンAはクランクケースに落ちて見えない。オーナーなら息を飲む、最悪の状況だろう。

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こちらも本文にあった、カム囓じり痕。内側のEX側カムで、ヘッド内でオイルが一番最後に回る箇所だ。「エンジンオイルが極端に減少したまま、長期間走行の結果」と市本さん。ここまで進行すると、ラッピングでの修正も効かない。

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本来ならクランクと結ばれ、その回転をインレットカム側に伝える、カムチェーンAが掛かるスプロケットがむき出しの状態。カムチェーンがきれいに落ちた(?)ためか、周辺には、これといったダメージは見当たらなかった。

POINT2・クランクシャフトへのラッピング処理
この機会にクランクジャーナルをラッピング処理で回転スムーズ化

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取材時はクランクベアリング確認作業の最中。せっかくの機会なので作業を拝見した。クランクジャーナル側は小傷を取り除き平滑化するためのラッピング研磨処理済みだ。

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クランクジャーナルとコンロッド間にはベアリング(メタル)が挿入され、油膜保持が図られる。その隙間を計るのがプラスチゲージ。まずはプラスチゲージを適当な長さに切り取る。下は計測スケール。

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プラスチゲージを挟み込みながら、トルクレンチを使ってコンロッドボルトを規定値で締めつけて潰す。この際のトルクは3.0〜3.4㎏ -m。2本を2〜3回に分けて、均等に締めていく。

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再度、コンロッドを外して、プラスチゲージの潰れ具合を計測スケールで計る。CB-Fでは0.08mmが使用限度。これを超えるようなら、より厚いサイズのベアリングに交換。

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ジャーナル部を脱脂して、切り取ったプラスチゲージを乗せたところ。ラッピング処理され、鏡面仕上げとなったジャーナル部の様子もよく分かるだろう。上図の通り、CB-Fでは5箇所がクランクベアリングで支持されている。

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整然と並ぶベアリング(メタル)。適正な数値管理がエンジンのスムーズ化、ひいてはパワーに直結する重要なポイントだ。腰下分解は滅多にない機会だけに、丁寧な作業を行いたいパートなのだ。

 

POINT3・ピストン/ミッション系パーツへのR-SHOT処理
ピストン/ミッション系パーツの表面処理はエンジン延命にも重要

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エンジン内の摺動パーツ組み上げに際し、市本さんが推奨するのがトレーディングガレージナカガワのR-SHOT施工。効率的なパワー取り出し以外、延命にも効果あり。

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トレーディングガレージナカガワがGPZ用ピストンにR-SHOTを施した例。樹脂メディアの打ち付けで、写真のピストン表面のように金属素材が艶のない仕上がりに変わるのが特徴。高硬度化のほか、超微細なディンプルが形成されて、油膜保持力が飛躍的に高まるこれまでにない手法。

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コーティングされたように、ドッグ部のような隅々にまで、R-SHOTが届いているのが分かる。これでフリクション低減はもとより、シフトタッチの節度感まで変わる。スムーズに動くミッションは、エンジン全体の長寿命化にも貢献するのだ。

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こちらはCB-FのミッションまわりにR-SHOTを施した例だ。施工するパーツ点数次第でトータル価格は変わりトータルプライスは変動してしまうから、希望するならまずは概算見積りを取ってみるのがいいだろう。

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CB-Fのシフトドラムまわりにも施工。市本ホンダでは、今後ともユーザーの予算とニーズに合わせて、R-SHOTを提案していきたい、と。ナカガワと情報共有することで、その有効性をアピールしていくという。

 

■取材協力・市本ホンダ

※本企画はHeritage&Legends 2019年10月号に掲載されたものです。