ICBMシリンダーの理念にGPZ-R専門店が共鳴!・スペックエンジニアリング × 井上ボーリング

シリンダースリーブをアルミ+めっき化する井上ボーリングのICBMは、愛車の劣化を抑えて長く乗るための手法。これをGPZ-R系へ応用するべく、GPZ-R専門を謳うスペックエンジニアリングが賛同・共鳴した。現時点で組み付け進行中状態だが、予定される実走チェックには大きな期待もかかる。

長く乗るためという方向性に賛同するコラボ

ニンジャ系エンジンはGPZ900RからZRX1100まで、アルミのシリンダーブロックに鋳鉄のシリンダーライナー(スリーブ)を入れ、そのスリーブの外側が直接冷却水に触れる構造を持っている。当時、生産性と冷却性を高めるべく採用されたもの。だが、初代GPZから35年が経つ今、スリーブが直接水に触れることで錆が冷却水路を回ってしまうなどの難点も出てきた。しかも新品のシリンダーライナーは廃番だ。

それをICBMというアルミスリーブ+めっき内壁シリンダーで解消し、以後のスリーブ交換も不要として長く安定して楽しめるように…という手法を提案したのが、IB=井上ボーリングだった。

今回、このニンジャ用ICBMシリンダーをより広く知ってもらうため、ニンジャ専門店を謳うスペックエンジニアリングが実走テストを行う運びとなった。その代表・瀬尾さんに聞くと……。

▲第一段階として送られてきたICBMシリンダーを各部チェック、ピストンを仮組みする広島のスペックエンジニアリング・瀬尾大信さん。この時点でのスムーズさにも好感。

「これはGPZ900Rを将来に渡り安心して乗るというコンセプトと、井上さんの活動に対する賛同と尊敬です。空冷Zのスリーブ踊りを抑え、マッハではポートに柱を立て、NSR250Rではめっきシリンダー再生と、同社は多くの実績を作ってきた。考えるだけなら誰でもできそうですが、それらを実践し続けている存在。その高い理念は尊敬に値します。

当社でもニンジャ純正ピストンの廃番を受けて代替ピストンを製作・供給してまして、そのような生み出す苦しみを知っています。それでICBMシリンダーの完成度が当社基準の遥か先にあることは完成品を見れば明らかです。独占販売をしようとかではなく、この素晴らしい商品を世に出す協力をしたい」

瀬尾さんの手元にはスペック製ピストンに合わせた仕様によって2021年2月初旬にシリンダーが届いた。

▲組み付けられるのは純正代替としてスペックエンジニアリングが供給する0.5mmオーバーサイズの鋳造ピストン(写真右。左は純正)。取材時では第7ロットに入っていたが、これまでのロットで瀬尾さんが修正(微調整の部分だが)してきたことがほぼ反映され、安定状態となったものだ。

「各部を点検して、ピストンにリングを組んでシリンダーに常温で入れると、すっと滑り良く入っていく。ガタもなく、かつ滑らかでとてもスムーズ。いい感じです。

重量も、純正品と比べると2kg近く軽い。フロントヘビーな車両の車体前方が軽くなることでアルミタンク同様、ハンドリングの軽快性向上も期待できます」と、この時点で期待は膨らむ。

「ここで忘れてならないのは、私も含め皆さんに使ってもらうのなら、実際に走行してどうなのかきちんと検証するということなんです。否定でも何でもなくて。

▲ノーマルのニンジャシリンダーから抜いたスリーブの一例。表面に錆が多数見える。上下には水漏れ防止のOリングが入るが、この劣化や表面錆はICBMへの置換で避けられる。

空冷Zで出なかった現象が、水冷のニンジャでは出るかもしれない。ニンジャ系の冷却通路はラジエーターからシリンダー、シリンダーヘッドと回ります。寒い時期は冷え過ぎないようサーモスタットが閉じていますが、シリンダーヘッドで暖められた水が80℃を超えたところで、ラジエーターに滞留しキンキンに冷やされた水が一気に流れ込みます。

一般道ではサーキットで起こりえないような特殊な状況が継続して発生しますから、考え得ることはできるだけ見ておきたい。それは当社の役目。

載せる車両も、このシリンダー以外の条件を揃えることで正確な比較と検証を行います。期待が大きい分、確かな検証が必要ですし、それを行うのが当社の役目だと思っています」

エンジンが組み上がれば、テストが始まる。その経過もまた、楽しみにしたい。

 

サビを防ぎ放熱も耐久性も高めるICBMシリンダーが組み込まれる

ICBM(アルミスリーブ+めっき)シリンダー

井上ボーリングによるニンジャ用ICBMシリンダー。強度にも優れる6061-T6アルミ材をNC削り出ししたスリーブにニッケルシリコンカーバイドめっきが施され、その上で井上ボーリングが得意とする、油膜保持性の高いプラトーホーニングまで施工されて送られてくる。シリンダーブロックとスリーブの密着性も高く、初期皮膜以降の錆は出ないのも利点になる。実測重量は3.66kgで、下の純正より1.78kg軽かった。

 

GPZ900R 純正シリンダー

スペックエンジニアリングで用意していた純正シリンダー。内部もきれいにされ、ホーニングまで済まされている(上のICBMシリンダーと同条件に仕上げた上での比較)。アルミのシリンダーブロックに鋳鉄ライナーが圧入されるが、このライナーの外側は冷却水通路の壁も兼ねるので、水を抜けばシリンダーブロック外からもスリーブ外が見える。実測での重量は5.44kgだった。

 

【協力】

スペックエンジニアリング TEL082-543-6377 〒730-0825広島県広島市中区光南5-3-12 http://www.spec-hiroshima.com
・井上ボーリング TEL049-264-5833 〒350-1155埼玉県川越市下赤坂671 https://www.ibg.co.jp

※本企画はHeritage&Legends 2021年4月号に掲載された記事を再編集したものです。
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WRITER

Heritage&legends編集部

バイクライフを豊かにし、愛車との時間を楽しむため、バイクカスタム&メンテナンスのアイディアや情報を掲載する月刊誌・Heritage&legendsの編集部。編集部員はバイクのカスタムやメンテナンスに長年携わり知識豊富なメンバーが揃う。