K-FACTORY ZRX1200DAEGインプレッション

【IMPRESSION】
K-FACTORY ZRX1200DAEG
スーパーチャージャー化で過給の魅力を追加

2016年で生産終了した後、現在もカスタム市場で根強い人気を維持するカワサキのZRX1200DAEG。その理由を改めて探ろうと試乗したのは、K-Factoryのスーパーチャージャー仕様のデモ車だ。すると、このシリーズは今のネオクラシック系ネイキッドとは一線を画していることを再認識し、同時に完成域とも思えたDAEGの新しい可能性を感じることができたのだった。

取材協力:ケイファクトリー TEL072-924-3967 〒581-0815大阪府八尾市宮町5-7-3 https://www.k-factory.com/
Report:中村友彦/Photos:富樫秀明


熟成が進んだZRX3代目の素晴らしさと難しさ

1994年にシリーズ初モデルの400、1997年に1100が発売されたZRXは、カワサキにとってはゼファーに次ぐ第二のネイキッドだった。スタイリングのモチーフは、1980年代前半に市販されたZ1000R=エディ・ローソン/AMAスーパーバイクレプリカで、そう考えるとこのシリーズには、今で言う「ネオクラシック」的な素養が備わっていたのだが……。

ゼファーとの差別化を図る意味で、スポーツ性を重視して開発されたこと、そして1100にはチューニングパーツが豊富なGPZ900R〜ZZR1100系エンジンを搭載したことが功を奏し、ZRXはカスタム市場で絶大な支持を得る。ただ3兄弟すべてが人気車になったゼファーとは異なり、ZRXの主役は兄貴分という印象で、400は大きな変更を行うことなく、2008年に販売が終了。一方のリッターオーバーモデルは、2001年に排気量拡大版の1200R/Sにと変わり、2009年に第3世代のDAEGがデビュー。最終的には2016年型まで、都合20年のロングセラーとなった。

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DAEGが発売された直後の話題として、今でも覚えているのは、いくつかのショップから、「初代/2代目と比較すると、カスタムの素材としての資質はいまひとつ?」という疑問が出てきたことである。その最大の原因は、燃料供給がキャブレター→インジェクションに変更されたことだったようだが、乗り味が適度に粗削りだった2008年型以前と比べると、ハンドリングが上質で親しみやすくなったこと(古い話で恐縮だが、カワサキが’70年代に販売した500SSやZ1系も、後期型で同様の変貌を遂げていた)も、チューナーがDAEGに興味を持ちづらい一因だったのかもしれない。

だがその後、サブコンなどによるインジェクションチューンが徐々に認識され、2008年型以前と同様の手法で車体各部に手を入れればSTDを上回る運動性能が得られるという認識が広まっていくと、こうしたDAEGの評価は徐々に変わった。誕生から10年が経過した現在、DAEGをカスタムに不向きと感じる人は、もうほとんどいないだろう。

それでも、2009年から約5年に渡ってDAEGの長期試乗企画を担当したこともある。またZRXシリーズのカスタムも数多く体験した身としては、DAEGのカスタムはちょっと難しいんじゃないかという印象を抱いている。

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前述したように、2008年以前のZRXには1980〜1990年代車的な適度な粗削りな部分があって、だからこそ各部に手を加えると、性能向上が体感しやすかった。でもカワサキ自身が完成度を高めたDAEGの場合は、全体のバランスを考えずに、安易にパーツ交換を行うと、場合によっては乗りづらくなることがあるのだ。

逆に言うならDAEGは、チューナーにとっては挑みがいがあるバイクなのだと思う。このモデルに徹底的なカスタムを施して、STDに対するマイナス要素が生じないのであれば、チューナーが正しいセットアップを行っている証明になるのだから。そういう点では、今回試乗したケイファクトリーのDAEGは、MSセーリングが担当したスーパーチャージャーも含めて、実に正しいセットアップが行われていた。

 

DAEGの試乗は様々なシチュエーションで行った

テストの主な舞台は高速道路で、峠道や市街地は、様子見で済ませておいた方が無難かな……。今になってみると恥ずかしい話だが、乗る当初はそう思っていた。何と言っても今回の試乗車の最高出力はSTD+ 90 ps の200ps! だが、このケイファクトリー/MSセーリングチューンのDAEGは、ノーマルDAEG同様のフレンドリーな特性を備えていた。

まずは最も気になるスーパーチャージャーの効能を述べると、とにかくもう、猛烈に速くなっている。しかも単純に速いだけではなく、回転数やギヤ段数に関わらず、どんな場面でどんな開け方をしても、エンジンの反応は至って実直で、扱いづらさは微塵も感じない。

書けばこれだけだが、これは、じつは凄いことなのだ。過給仕様のカスタム車に公道で乗るとなったら、ひと昔前は周囲の状況に注意しながら恐る恐る……が普通だったのに、このバイクにそんな気遣いは不要。今カワサキが販売しているH2/SXのように、スロットルを閉じた際に発生するブローオフバルブの作動音以外は、過給が妙な主張をすることはなく、ごく普通に乗れてしまうのだ。

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こういった特性は、燃料噴射量を緻密に制御できるインジェクションならではで、昔ながらのキャブレターでは、絶対に実現できないだろう。改めて考えると、インジェクションチューンが一般的になった今は、過給を楽しめる条件も整っているのだ。

もちろん、今回の試乗の好印象は、ケイファクトリーによって手が入れられセットアップが行われた、車体を抜きにして語ることはできない。と言うより、STDのDAEGにスーパーチャージャーを装着したら、車体の挙動に何らかの不安を覚えるはずだ。でも足まわりも全面変更されたこのDAEGは、曲がることと止まることに絶対的な自信が持てるから、臆することなくスロットルを開けられる。

中でも感心したのは、制動力の引き出しやすさとフロントのセルフステアの分かりやすさ、スロットルをワイドオープンした際に感じるリヤまわりの手応えで、乗り手に伝わる情報の質では、この車両はSTDを上回っていたのだ。 2017年末に発売されたZ900RSは、ネイキッドという意味でカワサキにとってはDAEGの後継車的な位置づけなのかもしれない。とは言え今回の試乗を通して、Z900RSとは趣が異なる、DAEGのカスタムベースとしての資質といったものが再認識できたし、同時にカスタム化への新しい可能性を感じさせられた。なおDAEGの中古車相場は、昨年あたりからジワジワ上昇しているようなので、購入を考えているライダーは、なるべく早めに動いたほうがいいと思う。

 

K-FACTORY・ZRX1200DAEG Detailed Description【詳細説明】

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チタンコートが施されたスクリーンとカーボンボディのバックミラーはマジカルレーシング。ヘッドライトはLEDに変更。

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ラジアルポンプのブレーキ/クラッチマスターシリンダーはブレンボ。

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ガソリンタンクとシートはSTD。カラーリングは2014年型だ。

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カスタム感を高めるフォークガード、ポジション可変式ステップキット、ステアリングステム、レバーガードなどは、K-Factoryのオリジナル製品。

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スーパーチャージャーはデンマークのROTREX製だが、基本的には汎用品のため、サージタンクやオイルタンク、コグドベルトカバー、各種パイピングなどはMSセーリングがワンオフしている。

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φ34mmスロットルボディはSTDを使用。過給に合わせインジェクターは大容量品に変更。

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燃料噴射マップ補正にはRAPID-BIKE EVO(サブコン)を使う。

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113.50-17/6.00-17のカーボンホイールはJWL認定品のBST。ショックは前後ともオーリンズ。

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前後ブレーキはサンスター・ワークスエキスパンド+ブレンボレーシング。チタンマフラーとスイングアーム、リヤフェンダーレスキットはK-Factory。

 

※本企画はHeritage&Legends 2019年11月号に掲載された記事を再編集したものです。
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WRITER

中村友彦

二輪雑誌編集部員を経て独立し、現在フリーのモータージャーナリストとして活動中。クラシックバイクから最新モデルまでジャンルや新旧を問わず乗りこなし解説する。カスタムやレースにも深く興味を持ち、サンデーレースにも参戦する。