ブランクボディの車両へ原寸大でイメージを投影する
手に入れたバイクを楽しむ。元から施された仕様やカラーリング自体を楽しむ方法もあれば、カスタムとしてパーツ交換や各部加工、外装やカラーの変更という方法もある。ヤマハは’24年に900ccクラスのニューモデル、XSR900 GPを送り出したが、同時にこれをキャンバスとして楽しむ手法も提案してきた。同社(ヤマハモーターヨーロッパ)がカスタム提案を行う“ヤードビルト・プロジェクト(YARD BUILT PROJECT)”に加えられたのは“XSR900 GPリターントゥパドック”。
XSR900 GPをサーキットのパドックに戻すというタイトルで、同車の持つレーシングヘリテイジ(ここでは’80〜’90年代中盤のレーシングマシンイメージを指す)を主にXSR900 GPのボディ上で表現し、往年の、ヤマハ栄光のレースシーンを振り返るとともに、その世界観を堪能してもらおうというものだ。
中軸になったのはこの車両。ヤマハモーターヨーロッパが製作を担当したXSR900 GP“マモラ”というものだ。’86〜’87年にチーム・ロバーツ・ヤマハに所属したランディ・マモラの’87年仕様、#3のヤマハファクトリーマシン、YZR500のカラーリングをアレンジして施したもので、当時のスポンサーカラーの赤×白×黒を、ヤマハがスポーツヘリテイジカスタムに適用してきた〝ファースターサンズ〟のロゴデザインを使ってまとめている。なお当時は前年のシリーズランキングが翌年のナンバーになったから、’86年の1勝&3位を反映した’87年の#3を使っている。’87年も3勝し9度の表彰台を得てのマモラ最高成績ランキングの2位となったシーズンだから、それも十分理由にしていい。
以下で紹介するような線画がPDFで用意され、それを出力した上でカラーリングに向けたスケッチを描いてラインやロゴのサイズや角度などのバランスを大まかに確認していく。用意された現車はブランクのホワイトボディをまとっていて、ここに前述のスケッチから原寸大に起こしたデカールを貼り込み、仕立てていくといった具合だ。XSR900 GPが純正で持つシルバーでつやあり仕上げのアルミフレーム。そこに無垢のホワイトボディを架装した状態は、1980年代の市販レーサーTZ250や、OW01=FZR750Rなどのレースベース車を思い起こさせてくれるから、想像力も膨らんでくる。
そうして完成したXSR900 GPマモラ。ヨーロッパ各国のヤマハディーラーにもこのプロジェクトが伝えられ、GP250に500、スーパーバイクといった当時のレーサースタイルカラーが計8台製作され、’24年6月のフランスでのイベント、ホイール&ウエイブスに実走で赴き、現地で集合して展示を行い、人目を惹いた。
ガチのレプリカでなく、レプリカイメージで作られたというXSR900 GP。だからこそ、こうしたレーサーのイメージが容易に投影できたのかもしれない。250や500、750に1000というレーサー定番の排気量でない900だったことも、自由度を高める助けになっただろうか。もうひとつ、純正アクセサリー以外のハードをいじらないという前提も、カラーリングの工夫でモチーフに寄せる工夫を後押ししたようだ。そんなことも考えながら、愛車への手の入れ方をイメージする機会を持ってはどうだろうか。
Detailed Description詳細説明
このヤードビルト・バックトゥザパドックプロジェクトではベース車となったXSR900 GPのデザインベースとなる線画が用意され、これが起点となっている。
XSR900 GP“マモラ”製作作業のあらまし。不要パーツや外装の一部を外し、ブランクボディの一部を装着した車両。ヤードビルトの流儀でフレームカットや溶接は不可、ボルトオンアクセサリーは使用可能でアンダーカウルを追加して排気系は'80年代スタイルでまとめた。
ベーススケッチからデザインも含めて原寸大に起こしたラッピングフィルムを3D上で張り込んで形にしていく。ここは当時のWGP500マシンのフロントゼッケンで、黄色と'87マモラ車の#3が張られるところ。サイドに見えるマスキングテープは位置決め用だ。
コクピットとタンクまわり。パーツが重なり合う部分は双方に重なる部分を作ってラインやラッピングフィルムを張り、組み上げたときの合わせ面(チリ)がきれいに見えるように処理する。
カウルサイドのFASTER SONSロゴもフィルムは分割ラインでオーバーラップ(単体の時には半分半分でなく、上部分は半分より下までプリント、した部分は半分より上までプリントして、貼った部分を折り返しておき、組んだときに一体感が出るようにする。ファースターサンズはすべての次世代が先代よりも優れ、速くなることを望む気持ちを表す哲学で、それもこれらYARD BUILT車両の世界観につながった。
元々のデザインスケッチを元にして貼り込みを進めながら全体を確認する。こうしたスケッチから、イメージは膨らんでいく。
YARD BUILTによるXSR900 GPは都合8台が製作され、6月の“Wheels and Waves”会場まで実走し、このように集合して展示された。そのモチーフはGP250に500、スーパーバイクと広がっていた。