吸排気系やポートなどにいろいろと手を加えても、なかなかパワーアップが実現できなかった僕のヤマハTZR250(1KT)。ところが、2019年5月に入手した現代の点火ユニット、OSR-CDIのセットアップを進めることで、ついに念願だった50psの壁を破ることができたのだ!
今回のテーマは点火時期とYPVSのセットアップ。本題の前に大前提の話をしておくと、僕のヤマハTZR250(1KT)のベスト後輪出力は49㎰で、5月から新たに装着したOSR-CDI(このところ、ヤマハ2スト好きの間で話題になっている、自作が前提のCDIユニット)には、50㎰超えを期待していた。でも前号でお伝えした通り、Ver.1の結果はいまひとつ。その事実を、製作者のシゲテック・小山さんに報告したところ、即座にVer.2を作ってもらえたのだが……。
当連載で以前からお世話になっている、リアライズでそのVer.2でのパワーチェックをしてみると、過去最高の49.8㎰という数値を記録したものの、8000~1万rpmのパワーカーブは、Ver.1と同様にノーマルを下回っていた。これはどうしたものかと思い、再び小山さんに相談。そうしたらなんと、小山さんとOSR-CDIの発案・設計者である石谷さんが、直々にセットアップしてくれると言うのだ。
数日後、リアライズで行ったセットアップは、驚くほどサクサク進んだ。まずは小山さんが1番気筒の上死点を出したうえで、フライホイールの外周に角度を記し、タイミングライトで現状の点火時期を調べると、3度も遅れていることが発覚。そして石谷さんがタブレットを用いて点火時期全体を3度進めたところ、僕史上初の50㎰台をあっさりマークできたのだ。ちなみにOSR-CDIには2種のマップが入っていて、今回使ったのは、かつてミハラスペシャリティがヤマハR1-Z用に販売した、レーシングCDIを再現したマップだ。
もっとも、中回転域は依然としてノーマルを下回っていたのだけれど、小山さんと石谷さんが相談しながらYPVSの開閉タイミングをアレコレ試してみた結果(ガバッと開いてジワッと閉じる、などという調整も可能)、ノーマルを見事に上回るパワーカーブを実現。そして最後の味付けに、点火時期全体をさらに3度進めてみたら、最高出力が51㎰にまで向上したのだ。以下は今回のテストに協力してくれた、3人の感想。
「今回はここまでですが、点火マップもYPVSの開閉タイミングも、走行状況や仕様に応じて煮詰めの余地はあるでしょう。調整はタブレットで簡単にできますから、中村さんにもぜひ、挑戦してほしいですね」(石谷さん)
「さらなるパワーが必要なら、チャンバーの変更を考慮するべきかもしれません。現状のチャンバーが悪いわけではないですが、個人的には、もっと容量が欲しい気がします」(シゲテック・小山さん)
「今回のテストはムチャクチャ面白かったですね(笑)。ウチではこれまでにいろいろな点火ユニットを扱ってきましたが、OSRのいじりやすさは特筆するべきものがあると思います。なお今回のテストは、実は条件が過去最悪だったんですよ。湿度が76%もありましたから。逆に条件がよければ、52~53㎰は出たんじゃないでしょうか」(リアライズ・道岡さん)
テストから一週間後、セットアップが進んだOSR-CDIの効能を確認するべく、僕は主戦場の筑波サーキット・コース2000に出かけてみた。残念ながらラップタイマーが不調だったため、どのくらい速くなったかは分からなかったけれど、回転上昇のスピードは激変。従来のスプロケではショートすぎるようで、至るところでエンジンが吹け切ってしまった。と言うことは、ファイナルをきっちり合わせれば、念願の6秒台が実現できるんじゃないだろうか? 結果は次回以降で紹介したい。
1KTを囲んで2スト談義に花を咲かせる3人は、右:OSR-CDIの発案・設計者の石谷さん、中央:リアライズの道岡さん、左:ヤマハ2ストのチューニングを得意とするシゲテックの小山さんだ。
小山さんが製作したIKT用OSR-CDIのVer.2は、“SHIGETEC”のロゴ入り。その下に見えるUSBポートとタブレットをケーブルでつないで、点火マップとYPVSの開閉タイミングを調整するシステムなのだ。
内部の基盤はこんな配置。詳細を知りたい方はhttp://rilassaru.blog.jp/archives/1895265.htmlをご覧ください。ちなみに石谷さんによると、小山さんのハンダづけは、とてつもなく丁寧らしい。
フライホイールに角度を記して、現状の点火時期を確認。まさか3度も遅れていたとは……。
OSR-CDI Ver.2の初期状態と、ノーマルCDIの比較。最高出力はVer.2のほうが高いのだけれど、8000~10000rpmの出力はノーマルCDIが優勢だ。
点火時期のゼロ点を合わせたら、あっさり50ps台をマーク。続いてYPVSの開閉タイミングを調整していくと、ミッドレンジのパワーカーブが変化した。
最終的に点火時期を3度進めたら、ピークパワーが51psに。しかも9000rpm前後の谷も消えた。
セットアップ画面。上が点火時期で、下がYPVS。これはVer.2の初期状態で、青:1KTのノーマル、赤:かつてのミハラ製を再現したマップを示している。
青いラインが今回の最終仕様。ミハラ製をベースに、点火時期とYPVSの両方に変更を加えてある。