「直前に余計なことするから、ドツボにハマっちゃうんだよ」それはレース界ではよく聞く言葉だが、まさか自分で体験することになるとは。でも少しでも速くなる要素が見つかったら、レースを志すなら誰だって試したくなるんじゃないかなあ……。
前回報告した通り、2019年11月のTOT参戦は、すべてが順調に進んだ。とはいえ、実は順調だったのは本番当日だけで、直前には上を下への大騒ぎ状態だったのである。ではどうして、そんなことになったのかと言うと……。
時間があったからかなあ。業界の一部では売れっ子ライターとの噂がある僕だが、その実、11月上旬は仕事がスッカスカ(苦笑)。だから、本番直前の6~8日は、3日連続で筑波サーキットに通えた。もっともその背景には、10月30日の練習走行と11月4日のパワーチェックで得た好感触があって、そこから迷走は始まっていたのかも。
まず10月30日の筑波で、旧知の小川選手(近年のZERO-4クラスではヤマハTZR250・1KTで最も速いライダー)に遭遇した僕は、先導走行を依頼。そしたらあっさり、自己ベストに近い1分7秒台前半がマークできたのである。ただし、小川選手とはコーナーの立ち上がりスピードに大きな差があって、その原因はライディングテクニックだけではなく、キャブレターの口径(中村号はTM32で、小川号はPWK28)も考えられる。そこで、過去に使っていたTM30を引っ張り出し、リアライズにお邪魔してパワーチェックを行ったところ、後で掲載するグラフの通り、キャブの小径化に光明が見えて来たのだが……。
11月6日の練習走行でTM30を使ってみたら、どうにも中回転域の反応が悪かったのである。これがいわゆる、ダイナモと実走は違うというヤツか……などと考えながらピットに戻ると、なんとエンジン下部とチャンバーがオイルでベッタリ?! しかも掃除をしながらエンジン下部をのぞき込むと、ポッカリ穴が開いているかのような雌ネジを発見。もしかして、相方のボルトを落としたのか? 顔面蒼白になった僕は、即座にクオリティーワークスに向かった。
しかし残念ながら、いや、幸いながら、主治医の山下さんとメカニックの安藤さんの判断によると、その雌ネジは相方がいなくて当然で、どうやら工場での新車組み立て時に使うモノらしい。そしてオイルでベッタリの原因は、単なるキャブからの混合ガスの吹き返し……。念のため、ドライブスプロケットシールも調べてもらったが、まったく問題なかった。
気を取り直して翌7日はキャブセッティングに励んだものの、キャブのメインジェット=MJを上下に振っても変化はナシ。さらに8日の特別スポーツ走行では、ジェットニードル=JNの段数をいじってみたが状況はいっこうに変わらず。そして止むを得ずキャブをTM32に戻したら、至って普通に走れるようになったのだった。
あら? 文字にすると上を下へのという感じでもないが、11月6~8日の僕はテンパリモードに突入し、今回の参戦は無理かも……と思っていたほどである。まあでも、悩みながらも筑波に通い続けたことが、今回は好結果につながったのかもしれない。
最右が2年ほど前から使っているTM32で、中央がそれ以前に使っていたTM30。左は1KT純正のTM28だ。ちなみに近年のZERO4/2参戦マシン群を見ていると、1KTとR1-ZはTM32、RZ・RZ-RはTM30を使うライダーが多いように見える。
東京・八王子のリアライズで行ったパワーチェック時の出力グラフ。最高出力が52.6㎰の赤がTM32で、53㎰の青がTM30。計測を行ってくれたリアライズの道岡さんによると、2㎜小径のTM30のほうが、回転上昇スピードが速かったそうだ。
エンジンと言うより、ミッション下部の筒状の出っ張りの中には、雌ネジが刻まれているのが分かるだろうか。5年以上も1KTと付き合っているのに、どうして今まで、この雌ネジの存在に気づかなかったんだろう……。
'19年11月のZERO4クラスを制したのは、♯71八木選手+NSR250R。当連載では目の敵としがちな(?)NSRだけれど、八木選手は僕と同じ2015年からTOT参戦をスタートしたライダーで、ここのところ勝てそうで勝てないレースがずっと続いていた。その初優勝には心からの拍手を送りたい!
優勝と言えば、当連載の主治医であるクオリティーワークス・山下さんもVF400Fに乗りZERO-2で久しぶりの優勝。決勝レース中のトップ争いは激しく、それはもう観ていてもムチャクチャ盛り上がったのだ。
本文の通り、10月30日に先導走行をしてくれた1KTライダーの♯10小川選手は、予選で1分4秒404をマークして3番グリッドを獲得。でも決勝レースではジャンプスタートで、ライドスルーペナルティ……。ところで、あまりに速いため“2XTに違いない”と噂されている小川号のエンジンだが、シリンダーの刻印は1KTで最高速は僕の1KTと同等(?)のようだ。
♯22土田選手のGSX-R400は、'80年代にヨシムラと協力関係を築いていたミラージュ関東のスペシャルという。16 / 18→前後17インチに変更されたホイール以外は、できるだけ当時の姿を維持している。
TOTでは希少車となっているVFR400Rを駆るのは、従来はNSRやGSX-RでZERO-4に参戦していた♯91前道選手。製作はエグケンガレージが担当した。