【CUSTOM MACHINE IMPRESSION】ヨシムラが繰り出したZ900RSカスタムの最新究極形を味わう!

2021年7月に受注がスタートした、カワサキZ900RSをベースに1976年AMAスーパーバイク選手権でのヨシムラZ1をオマージュした外装を載せた、『Z900RS/CAFE YOSHIMURA Heritage KIT AMA Edition』。その最新仕様というべきデモバイクに、2輪ジャーナリスト・中村友彦が試乗した。果たして往時のエッセンスはどう解釈され、現行モデルのZ900RSに落とし込まれているのか? その詳細を見ていこう。

各部アップデイトで得た 従順にして滑らかな特性

今回紹介するZ900RSは、ヨシムラがパーツ開発に使用しているデモバイクにして、同社が’21年から販売を開始した“ヘリテイジキットAMAエディションSPEC2”の発展型と言うべき仕様である。そして同車の試乗を通じて、Z900RSらしからぬ……と表現したくなる運動性能に驚きを感じさせられることとなった。

そもそもの話をするなら、ノーマルのZ900RSで目を三角にして峠道やサーキットを走ると、予想外の反応や挙動に躊躇して、これ以上の無理は止めておこうと感じることが少なくない。ところがこのヨシムラ車は、かなりムキになって走っても不安や不満が出てこないので、まだ行ける! という気持ちが維持できるのだ。

▲上質な足まわりの効果で ノーマルとは次元が異なる スポーティな走りを堪能!

その理由は、乗り手の操作に対するすべての反応が忠実で、すべての挙動が分かりやすいからだろう。文字にすると取るに足らないことのようにも見えるが、これが難しい。アニメのエヴァンゲリオンに出てきた言葉、パイロットと機体の同調を示す“シンクロ率”で表現するなら、ノーマルの60〜70%に対して、ヨシムラ車は90〜100%という感触なのだ。

中でも、その印象が強かったのはパワーユニットだ。ストレートサイクロン・デュプレックスシューターとTMSファンネルキットを装着し、サブコンを用いてインジェクションマップの見直しを行ったヨシムラ車は、パワーの出方が全域で従順にして滑らかだから、どんな場面でも思い切ってスロットルを開けられる。もちろんZ900RSのパワーユニットはノーマルでも十分に楽しいのだけれど、緻密な調律が行われたヨシムラ車と比較して思い返すと、見通しがいいストレート以外でのスロットル開度は控えめだったかもしれない。

▲忠実な反応とわかりやすい挙動が 乗り手に安心感を与えてくれる。

一方、オーリンズ製フロントフォークインナーカートリッジ/リアショックやカーボンホイール、ハイグリップスポーツタイヤのブリヂストンS23、サンスター製プレミアムレーシングディスクなどを用いて、大幅にパフォーマンスアップされた足まわりで興味深かったのは、前後輪から乗り手に伝わる情報の鮮度が上がっていること。

スロットルやブレーキの操作で発生するピッチングが多めに設定されているからか、この車両は前後輪の接地感と荷重移動の状況が分かりやすく、その感触は乗り手の自信につながる。だから躊躇を感じることなく、もっとコーナーの奥まで突っ込んでみよう、もっと車体を寝かせてみよう、もっと早くスロットルを開けてみよう、という意識が芽生えるわけだ。

ただし、得るモノがあれば失うモノがあるのが世の常で、すべての反応と挙動が明確になったヨシムラのZ900RSは、ノーマルが備えていた(いい意味での)ファジーさが薄まっている。その特性の変化は市街地走行やロングツーリングなどで、マイナス要素になる可能性があるだろう。

けれどそうした資質はこの車両がイメージする、ヨシムラが’76年以前のAMAで走らせた空冷Zレーサーに通じる気がするし、反応と挙動の味つけは前後ショックやサブコンのセッティングでどうとでもなる(現状で同社が想定するのは那須モータースポーツランドや富士スピードウェイのショートコース、神奈川県の椿ライン、静岡県の西伊豆スカイラインなど)。だからノーマルに比しての特性変化など、まったくマイナス要素には映らなかったのだ。

 

堅実な進化を続けるデモバイクの最新仕様

現在のヨシムラにとってZ900RS/CAFEは主要機種の1台で、’17年末のデビュー直後からこれまでに、多種多様なパーツを開発してきた。今回試乗したのはその最新仕様で、オリジナルパーツに加えてヨシムラが信頼するアフターマーケットメーカーのパーツを数多く採用している。

往年の姿と現代的な性能を両立するべく、ストレートサイクロン・デュプレックスシューターはスイングアームピボット下部にサブサイレンサーを設置する。構造は4-2-1式で、エキパイはステンレス機械曲げとスチール手曲げの2種を設定(集合部以降はいずれもステンレス製だ)。

エンジンはSTDのまま。ラジエターコアプロテクターやレーシングスライダー/エンジンガードキットはヨシムラのPRO SHIELDブランド、アルミ削り出しのフレームキャップもヨシムラ。吸気にはTMSファンネルキットを装着。

前後ホイールはドライカーボン製でタイヤはブリヂストンS23。ドライブチェーンはRK、ブレーキディスクにはサンスターをチョイスする。

リヤショックとフロントフォークインナーカートリッジにはオーリンズ製を組む。

ハンドルクランプやバーエンド、ブレーキレバーガード、グリップラバー、PRO-GRESS2マルチテンプメーターもヨシムラの製品。可倒式のブレーキ/クラッチレバーはZETAだ。

4ポジション式のバックステップキットはヨシムラX-TREADを装着する。

1976年の空冷Zレーサーを再現した塗装のガソリンタンク+シートカウル、カーボン製サイドカバー+フロントフェンダー、クランクケースエンブレムセット、リザーバータンクバンドなどで構成されるヘリテイジキットAMAエディションSPEC1の構成。上級仕様のSPEC2は完売している。

 

【協力】

ヨシムラジャパン 〒243-0303 神奈川県愛甲郡愛川町中津6748  https://www.yoshimura-jp.com/

※本企画はHeritage&Legends 2025年3月号に掲載された記事を再編集したものです。
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WRITER

中村友彦

二輪雑誌編集部員を経て独立し、現在フリーのモータージャーナリストとして活動中。クラシックバイクから最新モデルまでジャンルや新旧を問わず乗りこなし解説する。カスタムやレースにも深く興味を持ち、サンデーレースにも参戦する。