TOT参戦エンジンから知るR-Shot#M処理の効果と内部各パーツの可能性・トリニティガレージ ナカガワ
R-Shot#M処理の保護力と耐久性を確認
公表からおよそ8年。ちょうどZRX1200DAEGの最終型が発表された’16年に、トリニティガレージナカガワ(トレーディングガレージナカガワからこのほど改称)が開発した特許技術、「R-Shot#M」は世に現れた。登場以来何度か紹介してきた表面処理の手法で、潤滑性に優れる二硫化モリブデン(名称末尾のMはこれを指す)をメディア(担体粒子)とともに対象物の表面に打ち付け(ショット)、定着工程を経る。これによって対象物の表面硬度が高まり、同時に摺動抵抗を減らすという効果がある。
施行した対象物が減ったり縮んだりしない、寸法維持性があるのも特徴のひとつ。中古パーツ、例えばピストンでも測定によって使用可能な数値と分かればそれにR-Shot#Mを施し、再使用ができる。しかも表面硬度も高まって低抵抗化しているから、以後長く使うこともできる。
実際にTGナカガワに入庫してくる多くの車両やエンジンにも施され、ここまでに記した効果は体感されている。当然だがZRXシリーズはじめGPZ900R系、ゼファー系やCB-Fなどの空冷系も施行され、エンジンの作動がスムーズになったことなどが聞かれている。チューニングエンジンならそれらの効果がより明確に出ると考えていいだろう。
▲組み立てて4レース/イベントで1000kmを走ったZRX1200ベースのエンジン。JEピストンでの1224㏄化やH断面コンロッド以外にTGNチューニングメニューや各部R-Shot#M処理が施され、状態は良好だった。
そこで上写真のエンジンだ。アイキャッチの写真は分解前の状態で、シリンダーフィンやヘッドカバーから、ZRX1200Rのものと分かる。
「TOT(テイスト・オブ・ツクバ)ハーキュリーズクラスを走る#11堀江 昭選手用のエンジンです。車両はGPZ900Rですが排気量の大きいZRX1200用に載せ替えていて、1224㏄仕様で5年ほど使っています。
前回組んでから昨秋のTOT、今春のTOT、そして8月のNinja40周年ミーティング(ツクバ1000)でざっと4回、距離にして1000kmほどを経ましたので、バラして状態を確認します」とTGナカガワ代表の中川さん。
▲トリニティガレージ ナカガワ(trinity=三位一体の意味がある)に改称したTGNの代表・中川和彦さん
開けていく作業の概要はあとで紹介するとして、開けた状態の話から先にしてしまおう。ピストンやカムホルダー、ミッション各ギヤやシフトドラム等の変速各パーツといった、主要な摺動パーツにはR-Shot#Mが施されている。今回の分解は高回転や強いエンジンブレーキなどの高負荷を受け続けるエンジンで、処理の剥がれや異常がないかを確認する目的も兼ねていたが、問題なしだ。
「R-Shot#M処理したパーツはクランクメタルも含めてどれも問題ありませんでした。きちんと対象物表面に残り、潤滑性も維持しています」と中川さん。
▲トリニティガレージ ナカガワでエンジン/車体作業を担う中川 豪(すぐる)さん。
このエンジンは各パーツを洗浄した後にチェックやピストン/シリンダーの寸法測定を行って、ガスケットなど必要なパーツを交換して再組み立てされることになる。ストリート用ZRXエンジンでもオーバーホールやスープアップの際には同様の工程を経るが、重点は変わるのか。また、R-Shot#Mはどう使う(依頼する)といいのかを続けて見ていこう。
▲トリニティガレージ ナカガワ(trinity=三位一体の意味がある)に改称したTGNの新名称で建てられた看板。
ピストンピンのシブさも解決できるので相談を
エンジンを分解していく過程は下で紹介しているが、ヘッド側から分解しつつ、途中で外れていく部品や部分の状態を大まかに確認していく。今回は中川 豪さんが分解を担当、中川さんが要所を確認して作業を進めた。この作業の途中で見える状態も悪くはなかった。ただ、ピストンをコンロッドと分離する時に、ピンがとどまって動かないものがあった。
「調べるとピンの段付きや焼き付き、曲がりというヘビーなものではありませんでした。エンジン運転時にピストンが上下動しているうちに、ピンが左右の留め具であるピストンクリップを押します(編註:ピストンピンは中央がコンロッド、両端がピストンに連結している。そのためピン両端がたわむように、また回転しながら動くので、こうしたことが起こる)。
それでピストンのピン穴にごくわずか、20~30ミクロンですがバリができて、これに引っかかってピンが外れないというものです。軽く叩くレベルでピンが外れるのならばこれは解決できて、ピストンは再使用できます」
▲ピンが止まったピストン。ピンボスに出来た20~30μのバリが原因なのでいったんピンを抜き、ピンボスをホーニングする。
中川さんはピストンとピンを持って加工場へ行き、そう時間をかけないうちに戻ってきた。ピストンピンはすっとスムーズにピストンに入るようになっている。
「こうした状況も見られるので、ピストン用治具とホーニングバーを用意して、ピンボスをホーニングしました。ピストンのゆがみやピン曲がりがなければOKです」
さすがといったところだろうか。長年のチューニング技術。クランクケースなどのエッジバリ取りやムービングパーツのバランス取りに重量合わせといった基本の作業を積み上げているから、こうしたケースにも難なく対応する。だからこそ先のレース用エンジンはもとより、R-Shot#Mの効果もより生きてくるわけだ。
そのR-Shot#M、エンジンなら内部の摺動パーツすべてに施したく思うが、もし優先して何カ所かという条件が付いたらどこに施すのがいいのだろう。ZRXシリーズで考えてもらった。
「まずピストンとピストンピン。ミッション一式(シャフトとギヤ)にシフトまわり(ドラム/フォーク)、それからクランクメタル。この5カ所は勧めたいです。出来るならバルブガイド、カムホルダー。先に挙げた5カ所は、純正廃番への対応でもあるんです。簡単に交換しづらい環境になってますから、交換スパンを極力伸ばせるように。スムーズな動きも得られる上に表面も強くなっていれば、壊れる可能性も低くなりますからお勧めになるんです。
バルブガイドもパワーが変わる等はないんですけど、減らない、ガタがなくなってバルブやガイドの交換頻度が減らせます。ガイド打ち替えで新作して……も省けて、コストが減らせます。カムホルダー(キャップ側)もスムーズ化が顕著です。カム側はジャーナルラッピングします」
▲TRINITY GARAGE NAKAGAWAのZRX1200R。気に入った内容のフルカスタムへのO/H時にR-Shot#Mを加え操作系も変更して進化する。各部の詳細はこちらのザ・グッドルッキンバイクページをチェック!
数こそ多いが、R-Shot#Mを施せば4~5万kmごとのオーバーホール時にもパーツ状態確認で済み、交換作業やパーツそのもののコストも減らせる。しかも乗り味もスムーズにという追加の利点もある。紹介してくれた車両はその実例で、長くTGNチューニングメニューエンジンを気に入り楽しんできたものに、O/H時にさらにR-Shot#Mを加え、より長く楽しむようにされたマシンだ。こうした例の増加、また4輪の最先端レースや旧車からも依頼が増えているというR-Shot#M。ZRXエンジンを開けるなら、合わせて頼むことを勧めたい。
エンジン分解の過程
エンジンオイル(シルコリン・プロ4)を抜き、ヘッドカバーやケースカバー、補機類を外し、上から順に分解していく。シリンダーヘッドはカム山にも異常なし(1枚目)。カムやカムチェーンを外したらヘッドはそのまま外して後で分解する。左右カバーを外した状態(3枚目)でも問題はなく中川さん、豪さんとも次々作業を進める。
ヘッドが外れたら(5枚目)次いでシリンダーを抜き、ピストンが露出する(6枚目)。ここでは中央2気筒(#2、#3)のピストンを先に抜いている。ピストントップのカーボン付着は想像域内で、異常はない。サイドも含めてR-Shot#Mも剥がれ等なく維持されていた。シリンダーを外したらクランクケースを裏返し(7枚目)ロアケースを外して確認(8枚目)。
クランクケースアッパーに残ったミッション/クラッチまわり(9枚目、TSSスリッパークラッチを使用)、クランク(10、11、12、13枚目、赤いのはエンジンオイル)を取り出す。ミッション/シフトまわりのR-Shot#Mも異常なし、クランクのジャーナルも傷はない。対するクランクメタルの表面も問題なく、このあと厚み等を測定した。
基本の加工と精密測定&R-Shot#Mが延命へのカギ
R-Shot#Mの利点を生かすベースは、測定や各種加工といったTGナカガワの技術だ。今回取り出したR-Shot#M施工済みJE鍛造ピストンをマイクロメーターで測定(1枚目)。シリンダーも上/中/下で各前後方向/左右方向の径をボアゲージで測定(2枚目)。1/100mm単位で計り、ピストンに施されたR-Shot#Mは摩耗を抑え寸法を維持するので、使用可能範囲内なら心配なく再使用できる。3枚目はピストントップ。カーボンの付着は少ない。なお、R-Shot#Mはショットの後に密着工程を経て維持度も高いが、長く使った後に改めて測定→再施工することも可能だ。1224㏄用ビッグシリンダー内壁も状態は良かった(4枚目)。エンジン作業やR-Shot#M施工依頼については電話またはメールで問い合わせを。
【協力】
トリニティガレージ ナカガワ TEL0545-71-3032 〒419-0205静岡県富士市天間1928-7 http://www.tg-nakagawa.co.jp
※本企画はHeritage&Legends 2024年11月号に掲載された記事を再編集したものです。
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