20年以上練り続けられた技術はそのままCB-Fの“現役力”につなげられた・タジマエンジニアリング

CB-F現役時代から車両を販売・整備し、2000年代中盤からはエンジンチューニングや車体補強/好適ディメンション設定によってCB-Fへの技術を練り上げてきたタジマエンジニアリング。2024年2月に移転した新店舗ではそれらをより効果的に投入できるようにもなった。今回は手を入れた後に快走する車両の内容に改めて注目したい。

きちんと作ってあれば長く乗れる車両になる

純正のフロント19/リヤ18インチ(FCやCB1100Rは前後18)、現代的な前後17インチ。スマートなルックスと切れの良い走りを両立する前後18インチ。CB-Fシリーズの仕立て方は、他の同年代車同様にこの3通りが考えられる。そしてこの3タイプが、それぞれに確立されている。

写真の車両はタジマエンジニアリングによるもので、先に挙げた3タイプでは、前後17インチに分けられる。足まわりは同じホンダの高年式車両からの純正流用でまとめられるが、内容も気になる。

▲TAJIMA ENGINEERINGのCB900F。考えられる内容をフル投入した上で10年以上を走り続け足まわりを再構築している。各部の詳細はこちらのザ・グッドルッキンバイクページをチェック!

「元々は10年少し前に当店で製作して、エンジンやフレームはその当時の仕様を引き継いでいます。’19年にオーナーさんが変わって私が足まわりを一新しました。

フロントフォークはφ43mmでCB1300SFインナーチューブ+CB1100RSボトムケースとして内部加工、全長も合わせています。フロントキャリパーはCB1100RSのラジアルで、ホイールはSC59(CBR1000RR/’12~’16年)に。

社外パーツを使うのもいいですし、このように作るのもいいです。どちらにしてもこのフロントフォークの長さのように寸法を出したり、内部改修のようにセッティングすることは必要ですけど」

▲タジマエンジニアリングに25年勤務し、現代表を務める村嶋俊介さん。前代表・田島歳久さんからも作業は免許皆伝とされ、丁寧で効果のある内容も支持されている。

こう言うのは、タジマエンジニアリング現代表の村嶋さん。’22年に創業者・田島歳久さんの逝去を受けて業務を引き継ぎ、今年2月には店舗を同じ福岡県の南部、筑後市に移転した。これについては後述する。車両の話を続けよう。

「フレームは最初に“20年後でも陳腐化しない車体剛性をハンドリングを”と作り込んだものです。CB1300SF(SC54)と同等の剛性を目指し、約20カ所を補強。この車両の時点でフロントフォークのスペックにオフセットやスイングアーム長などのデータは揃っていたので、それをこの車両はワンランク上でバランスしました。

フォークオフセット35mm(CB-F純正は45mm)でトレール110mm近辺のディメンションはOKでしたので、今回の足まわり変更でもそのまま使えています。

エンジンもポート加工、バルブガイド打ち替え芯出しにバルブシート当たり見直し。ジャイロ効果は損なわずに振動が減るようクランクも軽量フルバランスしています」

電気系は初期段階でハーネスを引き直し、発電系も新型機種用パーツで発電量を上げるとともに軽量小型化も行われるタジマオリジナルにコンバートされている。

現仕様で何度か整備入庫したのを見たことがあるから、しっかり乗られたことも分かる。と同時に、きちんと手の入った車両が定期整備で好調を維持することを体現するということも分かった。これはFでのそんな見本と言える車両だ。

 

車両の魅力をより引き出し楽しくする

もう1台、上のCB1100Rはレーシーなルックスをというオーダーを元に、およそ2年前に製作されたもの。再登場ではあるが、全体の雰囲気はいい意味でよりシャープに思える。

▲余裕のトルクを持つエンジンを最適車体を元に細部を詰めて装備200kg切りの完成形へ進化したTAJIMA ENGINEERINGのCB1100R。各部の詳細はこちらのザ・グッドルッキンバイクページをチェック!

「オーナーさんが気に入ってくださって、よく来店されます。ミラーやハンドル(やや前/上)、クラッチホルダーを換えていますが、ご自身でも細部を換えていますね」と村嶋さん。

「実質的にホンダ最後の空冷。今の足を組んで、軽くしています。タジマさん(村嶋さん)が限界と言えるまで作ってくれたので、装備200kg(CB1100Rの乾燥重量は233kgだから約50kg軽くなる)も切りたい。自分でもチタンボルトやカーボンパーツでの軽量化をしたり、改めて色揃えもしてます。エンジンはトルクの太いCBRみたいに大トルクですーっと回ります」と若いオーナーも言う。20カ所に及ぶフレーム補強、RSCピストンや5速クロスミッション/ビッグバルブを組みポート加工も施すエンジン。スタータークラッチの強化もこの2年の間に行われた。よい車両に仕上がったからこそもっときれいに、そして乗りたくなる例となった。

 

移転し新たな環境下で車両作りに力を入れる

カスタムによるポテンシャルの引き出しや機能強化。また、その前提として行われるベースコンディションの良化やレストア的作業で快調になった車両。今回のタジマ車2台は、そうして作られたものが、以後どうオーナーと付き合われるかの参考にもなるはずだ。

こうした良好な車両を作るために必要な、今のCB環境も村嶋さんに聞いてみると、現状ではパーツ等はそれなりに安定はしていて、あえて言うならCB1100Fのカムチェーンテンショナー/カムチェーンガイドが困るところという。純正廃番かつ代替品もない。

通常使用ならまだ保たせられるが、サーキット走行などで強目にエンジンブレーキがかかるような場合にガイドが折れるケースもある。現状では同店で目の届く車両なら流用加工で対応しているが、あくまでも対症療法なので、今後要検討とのこと。900F/750Fは何とかなるようだ。

作業も特に問題はなく、多く聞かれる1100Fでのシリンダースタッドボルトの固着(砂などの進入や熱によるかじり)→シリンダーが抜けないという点については、タジマエンジニアリングでは解決。エンジンを送ってもらって外して返すというように、他店からの作業依頼にも応えている。

通常整備では、エンジンオイルはホンダ純正のG3またはレプソルを推奨する。G1~G4がある純正オイルのトップグレードとなるG4はサーキットユースで使えばいいということだ。

▲2024年2月から稼働する福岡県筑後市のタジマエンジニアリング社屋。店頭には250cc以下の新車や良好な中古車も並ぶ。

そしてタジマエンジニアリングは、前述のように’23年12月に従来の福岡市南区での営業を終了。’24年2月8日から、福岡県南部の筑後市に移転して営業を再開している。先代・田島さんの地元でもあり、車両製作に専念しやすいファクトリー(地域の名称から“八女ベース”と呼んでいた)を構想していたが、それに沿った移転。今回訪れたのはこの新店舗だ。

内部スペースが広くなり、フレーム修正機や旋盤などの工作機用の場所や作業スペースも広げ、入庫車両も管理をしやすくした。

▲こちらはタジマエンジニアリングの新ロゴマークだ。

代表の変更、店舗移転。タジマエンジニアリングと村嶋さんには激動とも言える2年だったはずだ。でも、1980年(CB750FA登場年だ)の開店から45年の間に蓄積したノウハウが、より整理されて注ぎ込めるようになった。タジマの良好なCB-F/R作りやチューニング、整備。今後も変わらず、いや、さらに長くそれらに触れていけるのかもしれない。

 

エンジンも車体まわりにも行うべきノウハウは確立

吸排気の流れを良くするポート加工を始め、バルブガイド打ち替えやクランク軽量加工等、CB-Fエンジンの潜在能力を効果的に引き出す。その能力を受け止め、現代のタイヤとのマッチングを図る車体への作り込みなど、店舗の紹介とあわせて、タジマ定番のメニューも改めて見ていこう。


新店舗の内部。上写真手前が入口側で、通常作業用スペースも広く取られ、横にはエンジン作業パートも見える。工作機械類や入庫車両(下写真、ホンダS800もある)も整然と置かれ、動きやすさや作業しやすさも念頭に置いている。

 

CHASSIS/測定&修正に補強と多彩なメニューで対応


タジマエンジニアリングでは前代表の田島歳久さんがホンダ在籍時に発案したフレーム修正機でCB-Fフレームの測定、修正、補強等の加工を行う。フレーム単体でなくても測定は可能だ。今は主に17インチタイヤを履くための補強に使われ、下に示したものやヘッドパイプ下/メインフレーム背面なども加えた20カ所が基本。ディメンションもテストの結果、SC54に近いキャスター25度/トレール99㎜/フォークオフセット35㎜が最適値というデータを確立して多くの車両に適用する。


修正機に載せられているのはCBX(1000)のフレームだが、アンダーループの有無以外はCB-Fとも補強ポイントの大筋は同じという。ネックまわり(上写真)はSC54ステム使用時はステアリングヘッド部下側を延長、スイングアームピボット上には左右連結パイプを追加(中写真)。シー路レール立ち上がり部にも補強(下写真、下の▽部を埋める形)。ほかリヤサスレイダウン加工等も含めた20カ所が基本となる。

 

ENGINE/耐久性も高めつつ潜在性能を引き出すメニュー


劣化が見えやすく、対処にも互換性のあるものが使いやすい車体側。比べてエンジンは開けないと分からないこと、機種独自のパーツを使うことから、今後のためのオーバーホール、しかもそのレベルを1段引き上げることが大事という。クリアランス管理やオイル管理もCB-F現役当時をベースにしながらもよりよい方法を適用するのがいい。タジマエンジニアリングで行うチューニングは、CB-Fの性能を引き出すと同時に内部の動きを楽にする=延命にもつながる内容を持つ。


シリンダーヘッドはバルブガイドのクラックやバルブステム痩せによるバルブのガタやオイル漏れ→白煙、また排気側バルブシートの荒れが目立ってきた。ガイド打ち替え/芯出し、適切なシートカットで対処する。クランクもジャーナル痩せが増えたので実測管理した上でクリアランス合わせ。ピストンサイドへのコーティングも有効。クラッチハブのダンパー新品交換等の整備メニューも重視する。


吸気&排気の流れを滞留させないで充填効率を高め、すっと排気が抜けるように考えるポート加工(上&中写真)はCB-Fの場合、ノーマルカムでもハイカムでも有効。村嶋さんの作業は丁寧で早く、効果を享受したエンジンはじつに多い。壁面に少し粗さを残し新型車に施しても有効というのは、CB-Fでも有効なことの裏付けかも。クランクも15%(ノーマル12.3kgから2kg程度)を目標に軽量化、バランシング&ジャーナル鏡面加工等行う。

 

【協力】タジマエンジニアリング TEL0942-53-3931 〒833-0041 福岡県筑後市和泉382-2 https://www.facebook.com/tajimaeng

※本企画はHeritage&Legends 2024年6月号に掲載された記事を再編集したものです。
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