より深くZを知ることで各部の作り込みを深めるコンプリートカスタム・ブルドック

空冷Zに現代モデルに比肩、あるいは超えるスペックを持たせるコンプリートカスタム、GT-M(Genuine Tuning Machine)を送り出すブルドック。およそ20年前にその製作をはじめ、時代毎の最新技法や最新手法を採り入れるという進化を果たしてきた。その流れや、進化を支えるバックグラウンドは何かを、聞いてみた。

Zに最新=最良を取り込むそのための解析が増える

「Zをしっかり直すために、見たい、知りたいところが増えました。例えばエンジンでボアを広げたいという時には、ボーリングする機械があれば作業自体はできます。でも、どこを基準にするのが適正なのか。それは誰も教えてくれないし、おそらく知らない。

今のバイクならまだしも、50年経ったバイクではどうか。クランクとシリンダーの位置関係、バルブやガイドのセンターはどこかなど、今のバイクなら別ですが、Zのそれはメーカーのカワサキでもデータを持っていないでしょうし、出てこない。そんな、Zの本当の数字を知って、車両に生かす。そのために新しい測定具も開発したりということが増えています。ただ加工するというのでなく、チューニング屋だからこそ知りたくなるという部分でしょうけど」

▲ブルドックの代表、和久井維彦さん。Zに対しては修理から始める中で2001年にブルドックを開店、コンプリート・GT-Mも20年以上進化させてきた。

元々は修理というスタンスでZに手を入れてきたブルドック・和久井さんはかつてと今との違いをこう言う。和久井さんが多くのZを修理していく中から、もっとよく走るように、いい状態を長く楽しむようにと現代的なスペックや機能を取り込んだカスタム製作の要素を強め、ブルドックを開店したのは2001年のことだった。

当時すでに蓄積されていたノウハウは17インチコンプリートカスタムとしての車両製作につながり、後にGT-Mと呼ばれるようになった。2007年にはその1台が鈴鹿8耐併催のカスタムマシンコンテストで優勝する。

▲2007年頃の作業の様子。再構築されたフレームを元にコンプリート=GT-Mが作られていくのは今と同じで、今とは作業の場所とノウハウが異なる程度。この頃すでにZの内燃機自社加工も確立していた。

当時の写真を見ても今と変わらないような完成度の高い作業の雰囲気がうかがえる。普通に考えれば、車両はここで完成型となって、その後各部に使われるパーツが時代に応じて変わったくらいかと思えるが、そうではなく、冒頭のようなZの各部データの整理で、完成度も高まっている。そのほかにも変わったところはいくつかある。続けて聞いてみよう。

▲上はこの頃に導入された精密バルブシートリフェーサーで今も稼働中。

「経験値です。内燃機作業や車体加工、組み立てなど、スタッフも変わりない3人でずっとやっています。つまりそれぞれがZに必要なノウハウを持っていて、そのレベルを上げ続けている。さっきのZの正しい数字もそのひとつ。それで同じスタッフ、同じように見える作業でも、10年、15年前より上のことをやっているわけです」

▲ベースの状態を知り、Zに最適な方法を積み上げた内燃機加工は一貫して自社で行ってきた。

少し前にはこの3人でやっている以上、誰か欠けたら製作を終了ということも同店は謳ったが、それには、それぞれが積み上げた知識やノウハウはすぐには習得できるものでないという理由があった。つまり、仕上がればいい、形になればいいというのでなく、その形の中に間違いない機能がプラスされているのがコンプリートカスタム。そのレベルをぐっと深めたのが、かつてとの相違点だと言える。

 

理想や必要に応じて作るパーツが増える

今作られる車両と同じ組み手が、レベルを上げた。加えて、当時よりも自社パーツの比率が大きく高まったのも違いという。オリジナルブランド・マッコイのパーツ群だ。コンテスト優勝車製作と前後する頃で、ひと通りの定番ができたから、そこにオリジナルで理想的な高機能品を供給しようと手がけた。それはもちろんGT-Mのためでもあった。

▲BULL DOCKのZ1。17インチカスタムに似合うルックスを提案しコンテストでも優勝を果たした2007年のGT-M。車両詳細はこちらのザ・グッドルッキンバイクページをチェック!

「“最新のものが最良のもの”という言葉、確かポルシェの創業者が言ったと思いますけど、バイクにおいてもそうですよね。常に新型が出て、それがいいものである。

その最新の要素をZに取り込めたら、Zはもっと良くなっていくわけです。ただ、何でもかんでもZに使えるわけではないですから、それを見極めながら取り込む。そのためにも、Zのことをもっと深く知らないといけない。そこはさっき言ったようなことで、時間がかかります。

そして自社製品は、その最良の要素を取り込んでいくため。一例ですけどマッコイステムには、当時ドゥカティが採用していた可変オフセットを使いました。容易に仕様が変更できましたし、最新が最良という見本になった。

さすがにサスペンションなどのパーツは自社ではまかないきれませんので、専業メーカーさんの力を借りています。そこにしても通常ラインナップではすまないので、オリジナル仕様でお願いしています。サスで言えばリプレイス品はセッティング幅が広く汎用性がある。でも当社で使うものはZ、しかも純正から50㎏近い軽量化と17インチ化、ハイパワー化も行ったもので、一人乗り主体。ある意味偏った仕様ですが、そこを理解していただいて、最適化したいい製品を作ってもらっています」

▲GT-Mの見本車である和久井さんのZ1-R。最新の手法やパーツを常に取り込んで効果を確認するコンプリートの最新見本。車両詳細はこちらのザ・グッドルッキンバイクページをチェック!

最新=最良を古いモデルであるZになじむように取り込みつつ、Zでいいところは残す。各パーツは常に、GT-Mの見本車である和久井さんのZ1-R(写真の車両。マグに匹敵する軽さも備えたラヴォランテ・スフィダーレホイールはその最新のひとつだ)に組まれ、Zと現代モデル双方の乗り手の目、Zを突き詰めた組み手、そしてパーツの作り手の目で、しっかりとテストを重ねる。リリースに時間がかかるのは、その段階を忘れていないからだ。

 

コンプリートで最初から組む有利性も高まった

オリジナルパーツが充実して車両としてのまとまりがより高まる(理想とする機能により近いものが使える)一方で、純正部品の欠品は増える。そこに対応するのもかつてとの違いとなってきた。

「直すべき、対策すべき箇所や個体がどんどん増えています。どこかが悪くなって対策して、また悪くなって対策……というような修理も難しい。40~50年も純正部品が出るのはありがたいですが、今後は分からないし、品質も良くはならない。ですから今、対策+純正部品でしっかり組むのがいい」

和久井さんは最新のエンジンパーツ見積もりを見せてくれる。並んだパーツは純正部品40万円に、社外対策品が40万円分の80万円分。過剰でなく、どれも欠かせないものだ。これにピストンやミッション、カム、スリッパークラッチや吸排気系を足せば、工賃別のエンジンまわりパーツ代だけで200万円は要ると分かる。

▲精度が高く強靱で耐久性も高いことから圧縮比を高めて元気のいい、かつロングライフなエンジンを作れるから、ブルドックでは一貫してピストンは鍛造品を使ってきた。写真は今のGT-M標準と言えるピスタルレーシング製鍛造品。

「ピストンは最上級のピスタル製鍛造で、ヨシムラ中空カムに当社クロスミッション、FCRまたはTMRキャブレターと、Zの性能をきちんと引き出せるパーツも合わせて新品で行きたい。クランクケースの合わせボルトも対策、スリッパークラッチはエンジンにかかるストレスを軽減するなど、それぞれ意味があるんです。ですからパーツはできるだけ使ってほしい。押し付けでなく、正味で必要なんです。これより安いのはどこかが足りないと思えるほどです。

予算の都合もあるでしょうけど、以後の寿命なども考えると、コンプリートで作った方がトータルでは割安ですし、何をしたかも分かるから、安心なんです」

オリジナルのクロスミッションやギヤ式オイルポンプは一気に組みたい例で、新品になる。同じ理由で、純正欠品のシフトドラム(軽量で作動もスムーズ)、ドラムボルトカシメワッシャやリリーフバルブワッシャなども新作した。

▲Mccoy・Z用クロスミッション、右は6速クロス(専用シフトドラム付属、ベアリングは付属せずで47万800円)。左は5速クロス(シフトドラム/ベアリング付属せずで36万800円)。抜け防止のドッグ形状/加工やインボリュートスプラインでスムーズな作動を実現。総削り出しでチューニングエンジンに合ったレシオを持つ。

「こうしたパーツは壊れても純正で出ないので、何とかしたかった。カシメワッシャは再使用はできますが、使ってもいいところ2回まで。新品の方が安心ですし、使う人も多いでしょうから、レーザーカットで作りました。これでミッションまわりはすべてOKです」

決して楽ではないが、こうした純正補完も行うことで、Zの寿命は延びる。〝車検ごとに(新しく出てきた)内部パーツを換えないといけない!(笑)〟と言うお客さんもいる(もちろん、そのまま換えてくれる)と聞いたが、それはGT-Mとオリジナルパーツの良さを知っているからこその〝もっと良くなる〟期待と歓迎の声と取っていいだろう。申し訳ないけれどとは和久井さんは言うが、これが他のモデルなら、車両の買い換えに進むような内容。それが自分のZで、コンプリートで、取り込むことでアップデートできる。そうした部分も、積み上げてきた進化の表れと言えるだろう。

 

いいZを広く伝えるべく九州ショールームも開く

しかもこの先にも、多くの新パーツが控えている。クラッチは現状のスリッパータイプに乾式を組み合わせ、バスケットも分割して交換可能としたものを製作中。ZではクランクASSYになっていて純正単品のないコンロッドも。

既に展開中だが、オリジナルエンジンオイルまでもリリースしている。スピードマスターとのコラボで、エステルベースながらZに合い、漏れもない。オイルクーラーもラウンドタイプコアのキットをオリジナル化し、GT-M製作に支障が出ないように配慮した。

車両を作り、テストや開発を行い、パーツラインナップをしていく中でさすがにショップ規模で全部を完璧にといかないこともあるけれど、例えばパーツなら、トラブルがあればきちんと直し、メーカーのリコール同様に改善している。ここは少し長い目で見て、よりよいものを期待するのがいい。

ここまでの進化は、自ら楽しんできたZを、この先の世代にも楽しんでほしいという気持ちからのもの。だからこそ、今Zがほしいという人にも、気が急いて適当な手が入ったものを妥協して買うようなことがないようにと気遣う。

そんな背景から、今年8月をめどに福岡県北九州市にショールームを開き、GT-Mの実物を展示するという。その自然なたたずまいと、しっかりした作り込みが見せる内容を知ってほしいとのことで、九州や中国・四国在住でGT-M、いや、Zが気になる人には朗報だ。これも新しい積み上げの要素と言える。続報したい。

 

理想の機能をZに盛り込むため、廃番純正部品を補完するためのパーツ群

最新の要素をZに融合させるためのGT-M用オリジナルパーツをマッコイブランドで送り出してきたブルドック。自社製品に加えて専業メーカーへのオリジナルオーダー品も用意する中で、これからのZを支える純正置換パーツも次々送り出している。


シフトロッドの左端に付くニュートラルポジショニングレバー(チェンジドラムレバー)/ボルト。下写真は装着例。


ニュートラルポジションボルト(チェンジドラムポジションボルト。内部のピン/スプリング含む)、


クラッチスラストワッシャーはエンジン分解時になくしやすいため、探すのにロスする時間を減らすべく製作し、価格も抑えた。


純正に同じギヤ式で作られたMccoyオイルポンプ(4万5980円、外部ギヤは別売)。吐出量は純正同様、50年近く使われた純正品からぜひ交換したい人気製品。


純正に同じ太さでオイル通路も妨げず、純正比3㎜長くして社外ガスケットやチューニングエンジンに対応するSCM435調質材製のクロモリスタッドボルト(1台分12本セットで2万5080円)。


最新アルミ鍛造ホイールのラヴォランテ・スフィダーレ。マグに匹敵する軽さを持ちつつ強靱さや新しいデザインも特徴。Z900RS/ZRX1200DAEG/1200Rに適合、GT-Mにも履かれる。


オリジナルデータで作られたマッコイ・ナイトロンサスの例。専業メーカーからのオリジナル供給も増えた。

 

【協力】ブルドック TEL0284-64-9825 〒326-0012栃木県足利市大久保町957-2 https://www.bulldock.jp

※本企画はHeritage&Legends 2023年3月号に掲載された記事を再編集したものです。
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WRITER

Heritage&legends編集部

バイクライフを豊かにし、愛車との時間を楽しむため、バイクカスタム&メンテナンスのアイディアや情報を掲載する月刊誌・Heritage&legendsの編集部。編集部員はバイクのカスタムやメンテナンスに長年携わり知識豊富なメンバーが揃う。