油冷GSX-Rの維持を支えるリプレイスパーツ開発を強化・エムテック

京都のm-techは油冷GSX-R純正リプレイスパーツの開発・販売を始めている。その背景にはもちろん油冷GSX-R各車の維持という要素があるが、代表・松本さんはできるだけ多くのオーナー、そしてショップでこのパーツ群を使ってほしいと考える。長年GSX-Rシリーズを扱ってきた中でのノウハウも生きるこのパーツ群に注目するとともに、これからの展開も聞いてみよう。

レストア要素も含んだ極上車両にある背景

紹介する車両はエムテックによるGSX-R750。ベースは’90年型Lだから、もう30年超が経つ。

「当時新車で買われた車両で、そこからずっと乗られているオーナーさんのものなんです。最初は“ハンドルを上げたい”で入庫して、そこから車体や足まわりに手を入れて、合わせてリフレッシュも行っています。

今回はエンジンオーバーホールとともに、かつて当店で作ったオリジナル鍛造ピストンキットの最後の1セットを組みました。WPCやDLCなど、できる限りの表面処理を行っています。エンジン外観も当時の純正色と同等のガンコートが調色できるようになったので、それで仕上げています」

▲m-techは通常整備やカスタムも行う傍ら、GSX-Rを初めとした上質中古車の販売も行っている。代表の松本圭司さんは長らくレースにも関わり、GSX-Rファンでもあって、それがパーツ開発につながった。

エムテック・松本さんはこう説明してくれる。この車両、フレームもすみずみまできれいにされ外装もフルペイントと、いわば極上の新車状態で仕上げられている。

「カスタムではあるんですけど、半分くらいはレストアの要素も加えているんですね。それは、エンジンまわりを初めとして、今後純正パーツが出てくるかどうか分からないからです。これまでは“スズキは旧車でもパーツが出る”共通認識がありましたが、それがなくなりそうな勢いです。しかも、出るものも価格がぐっと上がっている。ですから、まだ対応できる今のうちにきちんと仕立てて、長く乗れるようにしたんです」

油冷GSX-Rも含むスズキ各車の純正パーツが次々廃番化し、出るパーツも価格上昇というのは、ここ2、3年で急速に進んだ。まだパーツが出るうちに、年式の古い車両は手を打っておきたい部分を反映したということだ。

 

理由あるパーツ選びとバランスという理念

それだけではない。この車両の各部からは松本さんとエムテックの、車両やパーツに対する理念と言うべきものも見えてくる。

▲m-tech GSX-R750。新車から30年のオーナー車の全身に理に適った手法を施した極上の1台。詳細はこちらのザ・グッドルッキンバイクページをチェック!

例えば当初の目的だったハンドルまわり。セパレートでクランプ上にバーが付くハンドルは上げていくと、車体横側に頭がある純正アッパーブラケットのクランプボルトが干渉する。これを解消するため、アッパーブラケットの割り部分を45度内側に移したブラケットをワンオフした。

メーターもエンジンのスープアップにともない、回転計がレスポンスするように電気式に変更。その上で、メーターユニットのマウントをアッパーブラケットからカウルステーに移設している。ハンドルまわりの重さや慣性を減らし、操作性を高めるためだ。

▲最初はハンドルを上げたいことから入庫。機能を高めネガを減らす構成は各部に見られる。

スイングアームはこの車両ではL型の純正アルミをバフ仕上げしている。松本さんは「補強を加えてもいい部分ですけど、今回はフロント/リヤのアクスルシャフト、スイングアームピボットシャフトの3点をオリジナルのクロモリ製に換えているので、補強を加えると剛性過多になると判断して、純正で行っています」とバランスさせたとのこと。確かに強さは必要だが、それが過ぎては乗りにくさが出てくる。

ブレンボ製フロントキャリパーがアキシャルなのも、同じようにきちんとした理由がある。ここでは厚みのあるワンオフのキャリパーサポートにも注目しておきたい。

「なぜアキシャルからラジアルへマウントが変わっていったかも知っておくといいと思います。基本は、制動のために剛性が必要だから。キャリパーにかかる力を逃がしたくないんです。その意味ではラジアルキャリパーにするなら、フロントフォークのボトムピースに直付けしないといけない。

ここではそのタイプでないのでアキシャルを使っています。キャリパーサポートは十分な厚みを取って、力が極力逃げないようにしています。逆に言えばこのくらいの厚みがないといけないと考えてほしいです。反対に、何でも一番すごいものを付けたいというケースもあるんですが、何のために付けるかを考えないとそれぞれのパーツが主張するだけでタイミングが取りづらいとか乗りづらいということも起きます。ですからどんなパッケージにするか。要はどう動くか、どんな理由でそうなっているかなんです。それらを組み合わせて車両が成り立ちますから、必要に応じたバランスを取りたい。それが大事です」

バランスを取りながら、自然な感じで仕立てる。松本さんはショップのスタンスとして「きっちりと加工やパーツ変更がしてあるのに、やった感を強調しないパッケージ」も掲げている。このR750Lにも、それは現れている。

 

経験を生かしたから行き着いたパーツ展開

そうしたスタンスを裏付けるのが、松本さんの長年のレース活動だ。2008年、自チームでの鈴鹿4耐優勝(GSX-R600)。’14年はヨシムラ・レジェンドチーム(ケビン・シュワンツ/辻本 聡/青木宣篤)もサポート。’18年には鈴鹿8耐でエスパルスドリームレーシングのチーフメカとして、ヤマハ、ホンダ、カワサキ各ファクトリーに次ぐ4位をGSX-R1000で獲得している。

長年のGSX-Rでのレース活動。自らも750RKや100万台記念車のL3Zを所有するほどのGSX-Rファンという松本さん。純正リプレイスパーツ開発のきっかけは、意外な部分だった。

「タンクキャップパッキンでした。初期油冷GSX-Rではここからの燃料漏れがよく言われていました。当店のお客さんでもそれをよく言われる方がいて、対策的に言われていた“満タンにしない”を何度も勧めたのですが、何度も漏らす。それならとパッキンの方に目を付けて、耐久性のあるフッ素ゴムで試しに作ってもらったところ、漏れを止められたんです。それで30セットを先行販売してみたらすぐ売れて、これは皆さん困ってるし、要るんだなと。

▲油冷GSX-Rで多い燃料タンクキャップ部からの燃料漏れ。お客さんの症状改善をと先行で作ったパッキンで解消でき、ラインナップ化する。

当店でも純正部品は多く使いますから、ストックもしています。でも、それがなくなるとどうしようもなくなる。ハードパーツなら元があれば削り出すなりでものにできますが、柔らかいパーツ、ゴムやコードなどはそれが効かない。元型でもあればですが、そうもいきません。最後の1個を使ってしまう前に何とかしたかった」

本格的に手を付けるのは、スロットルケーブルとキャブレターのダイヤフラム、フロートなど。後者は前期型油冷用を展開する。一見マイナーなようだが……。

「年代で使われ方が違ったんです。’90年型くらいから後だとカスタム化してFCRやTMRに換える方が多いのですが、前期型はノーマル指向でキャブもノーマルというケースが多い。それはすぐ要るだろうと、前期型から作りました」

スロットルケーブルも同様だ。エムテックでは歴代のGSX-Rを探して仕入れた上での中古車両販売を行っている。前後ショックのオーバーホールも行うなど細かい作業を行って販売するとのことで、そこにもリプレイスパーツが関わってくる。

「お客さんはできるだけいい状態で乗りたいと思います。操作系もスムーズに動かしたい。そう考えて試乗を行うと、ケーブルも新品でスムーズに動いてほしい。なのでここも手を付けました。ケーブルがリフレッシュされれば気持ちよく走れて、良かったと思える。

新作のメーターマウント(スポンジ)も同様です。ライダーが一番目にする時間が長いパーツ。ここが経年等でぐずぐずになっているのは心苦しい。それで作りました。純正はASSYですが、単品で出しています。裏面にも純正同様のくぼみを加工し、張り替え用のボンドも耐候性のあるものを付属しました。

幸いにも、レースをやってきたおかげでメーカーさんの考えやパーツの作りも分かりました。大変だということも。それにいろんな部品メーカーさんとも知り合えましたし、そのつてで作れたパーツもあります。ですからほぼすべて国産で純正クオリティです」

▲エムテックに並ぶGSX-R。いい車両を探した上で仕入れ後には前後サスほか各可動部の分解・清掃や給脂、メンテナンスと点検を行って販売される。

作るなら純正と同じように。松本さんは、まだ先を見据える。

「こうしたリプレイスパーツを油冷ユーザーの皆さんに使ってほしいのはもちろんです。その上で、油冷を扱うショップさんにもどんどん使ってほしい。かつてカワサキZが普通の絶版車から、誰もが憧れるような名車であり続けるようになったのは、’90年代に多くのリプロパーツが現れて、皆が使ったからだと思います。油冷GSX-Rも、そんな形で残っていってほしい。そのためのパーツ製作だと考えています」

なくてはならないものの筆頭、メインハーネスも開発に移されている。ゆくゆくはエンジンまわりのゴム系パーツなどにも手が付くだろう。今回紹介したR750Lにも展開中パーツの一部は使われている。こうした状態を維持したい、GSX-Rに長く乗りたいなら、エムテックのパーツを使うことだ。それが間違いなく、次のGSX-Rパーツへの原動力になる。

 

外観でも機能でもリフレッシュを図る新作パーツ


往時のファクトリーパーツを彷彿させるボルトヘッドデザインの「m-tech&β-titaniumチタンヘッドカバーボルトセット」。M7ヘッドカバーボルト(短)×8/M7ヘッドカバーボルト(長)×2/M8オイルパスボルト×4/M8ブラインドプラグ×2の16本セット。写真のチタン素地(6万1600円)と、m-techオリジナルの陽極ブルー(6万7100円)が選べる。


新作の「GSX-R750F-G メータースポンジ」(1万1000円)は、ライダーが常に目にするメーター部をリフレッシュ。裏面の段付きも再現した純正形状で国内生産、張り替えのためのボンドも耐久性や耐候性を考慮したものを付属。適応はGSX-R750:1985~1987(F~G)、GSX-R750R 1986(GR71G・乾式クラッチ車)、RG400/500Γだ。


初期型GSX-R750のノーマルメータースポンジ部。純正品番「34950-27A50」(廃番)は鉄製フレームにスポンジを張ったASSYのみの供給だった(警告灯、警告灯ステー、警告灯表示パネルは別。ここでは参考のためステーとパネルを付けている)。m-techではこのスポンジ部分を張り替えられるようにしたのだ。


初期型GSX-R用チェーンプラーL/Rセット(9680円)。純正ではエンドの足(写真上側)は分かれた状態でスイングアームエンドに引っかかるが、チェーンを引くうちに開いて変形し、機能低下する。それを抑え確実な引きと位置決めができるようにしてくれる。

 

国産・純正クオリティで既に展開中のオリジナルリプレイスパーツ

純正廃番で油冷ユーザーが困らないようにとm-techが手がけるオリジナルリプレイスパーツ。操作系の要となるスロットルケーブルやキャブレター内部パーツをまずは展開。もちろん、同店オンラインショップでも購入できるのでホームページから覗いてチェックしてみよう。いずれも国産で純正クオリティ。換えれば作動も的確にできるから、ぜひ使いたい。


スロットルケーブルNo.1 4180円 適応モデル:GSX-R750[G]


スロットルケーブルNo.2 4180円 適応モデル:GSX-R750[G]


スロットルケーブル 4180円 適応モデル:GSX-R1100[G/H/J]


スロットルケーブル 4180円 適応モデル:GSX-R1100[K/L]、GSX-R750[J/K]/他適応モデル:GSX-R750R[RK]4620円/GSX-R1100[G-J]4180円/GSX-R1100[K-L]※GSX-R750[J-K]にも適応 4180円などあり。


カムチェーン DID 219FTH-116L 1万780円 適応モデル:GSX-R750 ※J-K非対応。


カムチェーン DID 219FTH-122L 1万780円 適応モデル:GSX-R1100。


ダイヤフラム(ピストンバルブ、4個セット) 4万7520円 適応モデル:GSX-R1100[J]。


ピストンバルブ(4個セット) 4万2240円 適応モデル:GSX-R750R[RK]/GSX-R1100[M-N]。


フロート(4個セット) 2万6400円 適応モデル:GSX-R750R[RK]/GSX-R1100[M-N]。


ジェットニードル(JN 6ZL4-3、4個セット) 2万6400円 適応モデル:GSX-R750R[RK]。


タンクキャップパッキンセット 3300円 適応モデル:油冷モデル初期、RG400/500Γ。


ADVANTAGE リヤディスク φ240mm 3万5200円 適応モデル:油冷モデル後期。


カムチェーンテンショナーアジャスター 3万800円 適応モデル:油冷モデル全般 ※下写真は使用例。シリンダー背面に付きm-techロゴがワンポイントにもなっている。

 

定期交換に使いたいパーツもまだまだあり

●クラッチケーブル 5280円 適応モデル:GSX-R750RK
●クラッチケーブル 5280円 適応モデル:GSX-R750R(1986)
●スピードメーターケーブル 3520円 適応モデル:GSX-R750/1100(1985~)
●スピードメーターケーブル 3850円 適応モデル:GSX-R750/1100(1988~)
●エアクリーナーエレメント 5280円 適応モデル:GSX-R1100[G/H/J] ※海外製

 

【協力】m-tech(エムテック) TEL075-932-6677 〒612-8486京都市伏見区羽束師古川町174-3 https://www.mc-m-tech.com/

※本企画はHeritage&Legends 2022年9月号に掲載された記事を再編集したものです。
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WRITER

Heritage&legends編集部

バイクライフを豊かにし、愛車との時間を楽しむため、バイクカスタム&メンテナンスのアイディアや情報を掲載する月刊誌・Heritage&legendsの編集部。編集部員はバイクのカスタムやメンテナンスに長年携わり知識豊富なメンバーが揃う。