ニンジャヘッドを生かす強い味方となるハイカム化と排気量選択・トレーディングガレージ ナカガワ

ニンジャエンジンのチューニングに多くのメニューを用意するTGナカガワ。純正ヘッド&クランクを元にした新たなお勧め排気量がチューニングメニューに加わったという。常に変化する環境に対し、R-Shot#M施工も含めて対応するその内容、また、同店が販売窓口となったヨシムラST-1Mカムの活用法も合わせて見ていこう。

スープアップの鍵になるハイカムがリニューアル

GPZ900R用久々の新パーツとなったのが、ヨシムラST-1Mカムシャフト。ステージ1はハイカムを、末尾のMは削り出しを意味する。同カムの扱い窓口として指定されたTGナカガワは、GPZ-Rエンジンに多彩なメニューを用意する。中川さんにこのカムの意味を説明してもらおう。

「まずカムをなぜ換えるか。ハイカムの名の通りに、バルブのリフト量が増えます。より多く混合気を吸わせて、燃焼ガスを吐き出す。ですから基本的には排気量を拡大したり、圧縮比を上げたりしたチューニングエンジンに対して、より効果が高まります。

▲トレーディングガレージナカガワの代表、中川和彦さん、ニンジャ系エンジンのチューニングをパーツ個々や作業など、幅広い視点から支えてくれている。

ノーマルスペックのエンジンの場合は、バルブタイミングの変更等を行うなどして特性を変えるというような時に使います。当社でもノーマルスペックからチューンドまで多くの仕様でハイカムをテスト、実使用しています。ノーマルで使えないというのではなく、ハイカム化するなら、その性能を引き出してバランスさせるメニューと合わせるのがいいでしょう」

カムを換えることで出力に直接関わってくる燃焼室への吸入量/排出量が変わる。ここだけを換えるよりも、吸う容量=排気量を増し、吸った分を有効に出力に換えていく高圧縮化も合わせて考えた方がいい。それを前提にして使うと、より効果が引き出せる。

▲TGナカガワが製品の実走テストを行い、先頃同社を窓口にして販売を始めた「ヨシムラ GPZ900R ST-1M DLCカムシャフト」(写真右、24万2000円)。ヨシムラでは換装時にGPZ900R A16用純正ロッカーアーム新品(8個、写真中央)、ZRX1200DAEG用オイルポンプ新品(写真左)を用意し同時交換するよう説明。オイルもカワサキ純正を指定。TGナカガワでのテスト時に使ったものと同じ、シルコリン・プ
ロ4も可。

「その意味では、カム変更を考える際にはエンジンをトータルで見直すことも考えていいでしょう。すべてが連携していますから、ひとつだけで考えるよりも、トータルバランスです。

GPZ900Rの場合はロッカーアーム式ということもあって、ハイカム自体少ないですし、かつてあったものも廃番化しています。今は実質的にこのヨシムラ製しかないのですが、せっかく換えるのなら有効に使ってほしいです」

交換時にはヨシムラが推奨する周辺パーツも用意し、同時に交換することが必須。今までのカム変更より一段ステップが進んだような感じだ。

「ロッカーアームはA16の強化チップタイプ、オイルポンプはZRX1200DAEGの新品に。オイルもカワサキ純正、または当社で使うシルコリンを指定しています。カム面にDLC(ダイヤモンドライクコート)処理もされていますが、ダメージを極力抑えていくために、そうされています」

GPZ900Rではカムのかじりなどの弱点が多く言われてきたが、それも先に対策する。ロッカー側のダメージも抑え、カムへのオイル供給量も確保し、実績のあるオイルを使う。これもエンジンへのバランスのひとつになる。

 

新しい排気量設定でさらに広がる可能性

カムもそうだが、パーツはただ換えればいいというものでもない。多くのチューニング例や個体があるからこそ、使われるパーツ側からも好適な組み合わせや設定が導き出されているということだ。

TGナカガワではGPZ900R向けにそうした組み合わせを多く用意してきたが、このほど新しい、しかもベストバランスと言えるようなメニューができたという。

▲左3点はGPZ900Rベース、右はZRX1200ベースのシリンダー。TGナカガワで加工・測定が済んで組まれる。今回の1078メニューはGPZ900RクランクによるTGナカガワでの頂点的スペックとなる。クランクケース、クラッチ、ミッションも、ヘッドまわりもGPZ900R純正で構築できる内容だが、劣化パーツの交換や社外パーツの価格変動も考えて相談するのがいいだろう。

「1078(cc)です。φ79mmピストンに、55mmストロークのGPZ900R純正クランク。レスポンスも良くすーっと良く回りますし、滑らかにパワーが出る。55mmストロークでのTGN最強スペックと言えるほどです」

ノーマル908から920、972cc。さらに1050というスペックをメニュー化してきた。それ以上を狙う1108や1137という排気量ではストローク変更のためにクランクを載せ替えるなど、ZRXやZX-11などの後継機や派生機パーツの活用で行ってきたが、GPZ900Rクランクそのままでという1078が現れた。

「今までベストだった1050。そのひとつ上のスペックがほしいという方にもお勧めです。排気量は28ccプラス(ノーマルからは170cc増)ですが、印象が異なります。ピストンメーカーの違いはあっても、クランクマスもそのまま。扱いやすさも乗りやすさもいい。

もちろんポート加工や燃焼室加工もしますから、先に言ったハイカムの効果も十分に出てきています。排気量やヘッドまわり以外も、クランクバランスやジャーナルラッピング等のメニューも施していきますが、これらは他の排気量でも行います。各パーツの連携で考えて、必要なものですから、1078が特別なわけではないんですけど、バランスはとてもいい」

 

外観もニンジャらしさを生かせるようになった

この1078仕様も含めTGナカガワエンジンは、時が進むにつれて厳しくなるパーツ事情にも応じている。オリジナルのR-Shot#M処理でパーツの摩耗を抑え、作動はスムーズ化する。

▲TGナカガワでR-Shot#M処理後にTOTハーキュリーズに参戦した車両のバルブ。ステム部に若干の剥がれは出ているが、バルブガイドはまったく問題なく、通常なら交換となるところが継続使用可能。バルブの保ちも良くなり、ガイドも守れるのだ。

「とにかくパーツ寿命が延ばせること、再使用可能パーツが増やせることにメリットがあります。どこにも施せますが、ピストンやクランクメタル、ミッション(in3/4/5速、OUT2/3/4速の純正部品は廃番)には特に有効です。さらにバルブ。ここに施工するとバルブガイドの保ちが大きく高まる。

すると今回のカムも含めて、GPZ900Rのオリジナルヘッドがより使いやすくなります。チューニングはしたいけどエンジンはニンジャがいいなあと思っていた人にも、1078というメニューとともに、カムホルダーやバルブへのR-Shot#Mで満足していただけると思います」

中川さんはもう10年ほど前から「長く乗る気があるなら今のうちにエンジンを見直すべき」と言ってきた。それが、純正パーツ(後継/派生機も同様)廃番の増加、そしてピストンをはじめとした社外パーツの価格上昇という要因も含めて、待ったなしという環境になった。そこに安心感と性能をブレンドしたメニューで対応する。もちろん、どこまで性能を高められるかという部分も追求してだ。

▲TGナカガワによる加工済みGPZ900Rヘッド。燃焼室の均質化やポート加工も行われる。これにR-Shot#M加工バルブや上のST-1Mカム等を組み合わせればニンジャヘッドの可能性も広がる。

外観リメイクも含めて、今が手の入れ時。ヨシムラST-1Mカムも加え、バルブまわりやピストンにR-Shot#M処理を施せば、ニンジャオリジナルヘッドのままでロングライフ&スムーズで使いやすい特性のエンジンも作れる。

パーツに込められたノウハウ、加工のノウハウで、幅広いユーザーに対応する。個々のパーツから、トータルでの延命と性能向上が導かれることになるのだ。

 

GPZ900R用最新ハイカム・ヨシムラST-1M


ヨシムラST-1Mカムはバルブリフト量と開き時間を増やして混合気の導入量と燃焼ガスの排出量を増す。スペックはかつて販売されたヨシムラST-1同等で、素材を一新、製法も総削り出し(カムスプロケットホルダーもスチールの総削り出し)に。中空で軽量化し、カム山には耐摩耗性や耐熱・耐焼き付き性に優れたDLC(ダイヤモンドライクコーティング)処理もされる。


カムの交換時にはA16用強化チップロッカーアーム(別売り)を用意し同時交換する。

 

これからのキーとなるR-SHOT#M処理


TGナカガワのオリジナル表面処理、R-Shotは対象物へ微細な粒子をメディアとともにショットすることでを表面硬度を高めつつ滑らかにする。R-Shot#Mはモリブデンをメディアに混入し、潤滑性を向上するとともに耐摩耗性も向上。上写真はφ78mmボアの1050で3万㎞を走行した(そのため裏面に油分も見える)鍛造ピストンにR-Shot#M施工したものだが、下の新品+処理と見分けが付かない。しかも寸法が維持されるため、測定して使えると確認できれば新品同様に使えてしまうのだ。

 

最新1078cc仕様がチューニングの注目メニューに

分解清掃後に測定等を行って必要なパーツを交換するオーバーホールでのリフレッシュ。その時にひとつ上の性能を加える。より高出力化する上に耐久性も両立させる。TGナカガワではそんなエンジンメニューを多彩に持つが、新たに1078ccという選択肢を用意した。

 

●GPZ900R純正クランク(55mmストローク)

■STD φ72.5mm(908cc)/0.5mmオーバーサイズφ73mm(920cc)/2.5mmオーバーサイズφ75mm(972cc)


ノーマル908ccの排気量(左は清掃された純正シリンダーブロック)でのオーバーホール、いわゆるステージ1メニューとなる1サイズ=0.5mmオーバーサイズピストンでの920cc仕様、同じくステージ2的なメニューとして、GPZ900Rで長く中心的だった972cc仕様も設定あり。どれにもTGNの他メニュー同様にR-Shot#Mや各部加工メニューが組み合わせられるから、メニューとともに相談を。

■好バランスのφ78mm(1050cc)


GPZ900Rの55mmストローククランクにφ78mm鍛造ピストン(写真はワイセコ)を組み合わせた1050メニューは2015年頃に追加されたメニュー。ステージ3的な位置づけでパワーも耐久性もある。ピストンはスカートもカットし重量合わせ等行ってR-Shot#M処理。

■最新&注目仕様のφ79mm(1078cc)


1050から1mm拡大したφ79mmピストン(写真はコスワース鍛造でTGナカガワでバランス取り等を行った後にR-Shot#M処理)による「1078」もGPZ900Rクランク仕様。回りの良さや出力特性的に今一番55mmクランクによるTGナカガワチューニング、GPZ-Rベースとしての頂点のスペックとなった。価格や納期は同社へ相談を。

 

●58mmストローク(ZX-11クランク)

■φ78mm(1108cc)/φ79mm(1137cc)

▶︎クランクは回転軸=ジャーナルを#2000砥石で研ぎ、面を平滑化するラッピング加工によって回転のスムーズ化を図る。軸受け側となるクランクメタルもR-Shot#Mが施され、この両方で潤滑性と耐摩耗性も向上。

クランクをZX-11またはZRX1100(ともにノーマル排気量1052cc、1バルブ1ロッカーアーム)の58mmストロークに変更してシリンダー/ヘッド/クランクケースとも変更する仕様もある。φ78mmピストンは1108、φ79は1137cc。ミッションやクラッチまわりの変更も必要となる点は留意したい。

 

●59.4mmストローク(ZRX1200)

■φ81mm(1224cc)


ZRX1200/DAEG(ノーマルで1164cc)の59.4mmストローククランクを使ったφ81mm/1224cc設定もあり。ここではJE特注鍛造ピストン/ボア拡大+再めっきシリンダーを使う。さまざまな仕様を知った上でもっと先を知りたいユーザーへのメニュー。

 

【協力】トレーディングガレージ ナカガワ TEL0545-71-3032 〒419-0205静岡県富士市天間1928-7 http://www.tg-nakagawa.co.jp

※本企画はHeritage&Legends 2022年7月号に掲載された記事を再編集したものです。
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WRITER

Heritage&legends編集部

バイクライフを豊かにし、愛車との時間を楽しむため、バイクカスタム&メンテナンスのアイディアや情報を掲載する月刊誌・Heritage&legendsの編集部。編集部員はバイクのカスタムやメンテナンスに長年携わり知識豊富なメンバーが揃う。