手頃で良好な個体が多いLTDシリーズ。その素性を知った上で良さも味わってほしい/ブルーサンダース

リヤ16インチホイール、クルーザー寄りの作りから、知る人ぞ知る的な存在に見えていたLTDシリーズ。だが、ベース車との違いや共通点を知れば、興味は深まる。Zシリーズとしての魅力がクローズアップされがちだが、LTDという機種の素性を知って、それを楽しむのも手なのだと、幅広く深くZ系を知るブルーサンダース・岩野さんは言う。

ノーマル状態で一度は走らせておきたいLTD

「LTDに目を付けるって、いいと思いますよ」。ブルーサンダースの岩野さんは言う。

「初期型900もですけど、Z1000ベースのLTD。’90年代のZブームの頃はコンテナに入れる数合わせとかスペースを埋めるのに入れるみたいな感じでしたけど、改めて知っていくと、いいんですよ」

▲ブルーサンダースの代表、岩野慶之さん。ZはストリートカスタムからTOTレーサー、200マイル≒320km/h超を狙う最高速トライアル車まで幅広く手がけ、データも豊富だ。右のLTD用サービスマニュアルは普通はKZ1000の補足だが、カラーで独立したものを見つけて入手。こうしたところにも岩野さんの探究心が見えてくる。

若い頃にZ1000MkIIを見て衝撃を受け、角Zに憧れた。以来、多くのZを文字通りストリートでの普段乗りから周知のようにTOTはじめサーキット、果ては本場アメリカでの最高速チャレンジにまでと、あらゆるジャンルへのチューニングを行ってきた。現代車やFI、過給もと突き詰めてきた岩野さんがあえてLTDを、と言うのだから、これは俄然興味が出てくる。

そうして岩野さんは2台のお客さんのZ1000LTDを用意してくれた。まずは丸型ヘッドの車両だ。

▲BLUE THUNDERS KZ1000LTD/カラーリングも含めた外装やウインカー、ハンドルまわりから、フロント19/リヤ16インチの7本スポークキャストホイールに至るまで、ほぼノーマル状態・良コンディションで乗られているZ1000LTD。前期型B1ベースで、各部もよく分かる。詳細はこちらのグッドルッキンバイクページで。

「こっちはキャブレターがCRスペシャルですけど、ほかはカラーリングやウインカーまで、ほぼ前期型のノーマル状態です」

丸型ヘッドに、独特のカラーリング。フロント19/リヤ16インチの7本スポークキャストホイールにフレアタイプの左右出しマフラー、キング&クイーンズシートと、LTDの特徴はそのまま。スリムな燃料タンクは車体をスマートに感じさせてもくれる。

「これがいいんですよ(笑)。この車両もそうですが、いい状態にしてあるのなら、ノーマルで乗っててもらいたいくらい。LTDは長いこと、さっきお話ししたような位置づけでしたから価格もそこまで行ってません。それを生かしてZっぽくするのもアリですけど、このスタイルもいいんです。

リヤホイールはZの18に対して16インチに小径化していますけど、その割にリヤタイヤの外径は大きくは変わってません。ですからZの乗り味に近いんですが、通常のZ系でも、リヤが低い方が良い傾向にあります。それはフロントブレーキのマスターシリンダーやキャリパーなど、今は高性能なものがあってそれを使った時にバランスが良くなる。それから、今のタイヤのラインナップから形状やグリップなどの性能を考えた時、リヤが少し低い方がハンドリングがいいと考えます。ですから、LTDのリヤの車高の低さがハンドリングを良い方向にしている。今後カスタムする時の前後バランスの参考にもなりますから、まずそのままで乗ってみるべきと思います」

エンジンもZ、フレームも基本的にZそのままと言えるLTD。クルーザーの要素を持ちながらもそちらに引っ張られすぎない。Z自体がオールラウンドだったが、それをスポーツ方向に追わず、普段使いやリラックス性を重視して作り込んだらこうなった。そこにLTDの魅力があるし、まずはストレートに感じたいということだ。

そしてもう1台のこの車両だが、LTDに手を入れるヒントも隠れているようだ。

▲BLUE HUNDERS KZ1000LTD/“正体不明なバイクに”と、Z1000Mk.IIから乗り換えたオーナーの後期型Z1000LTDをカスタム化した車両。主なパートはほぼ純正を使いつつ、バンク角確保程度のカスタムオーダー。ブルーサンダースにお任せという作りでまとめられている。詳細はこちらのグッドルッキンバイクページで。

「こっちは角ヘッドの後期型をベースにしたカスタムです。オーナーさんは元々Mk.IIに乗ってらしたんですけど、今何かと話題になってて注目されるのが面倒だからって、乗り換えられたんです。それで“任せる”ってわりと好きに手を入れさせてもらったんです。

コンセプトらしきものは“何が元になっているか分からない”ということ。そこにLTDはぴったりでした。その上でスイングアームは少し伸ばして、車高は下げようと考えていたのですが、オーナーさんが峠も走るからバンク角がほしいということでそのまま。ハンドルは少し低めでまっすぐめ、ステップは少し特殊な方法でオーナーさんに合わせた位置にしています。

マフラーはサイドワインダー。キャブレターは、こっちの車両ではLTDのノーマルVMです。

エンジンはノーマルで、LTDの場合は跨がって上から見た時にZよりもシリンダーヘッドが見えるから、コードもあの頃っぽい色つきのにしようって、探したんです(笑)。V8用のアクセル製コードがあったからそれを加工流用しました」

岩野さんは次々とこの車両の内容を説明してくれる。外装も後期型ノーマルを生かしながら、上面にグラフィックの同系色でピンストライプを追加。テールランプも現代モデル用のウインカー一体型に。シート表皮にはダイヤモンドパターンを入れ、その大きさや糸の色もこだわったと言うから、相当マニアックに手が入っている。それでも足まわりも含め、多くの部分はLTDそのままが生かされている。そこが、LTDの良さを勧める岩野さんらしい。

「そこはちゃんと整備とセットアップがしてあればあえて換える部分でもないのと、謎度をキープしている部分かもしれません。

この車両、将来的にターボ化するつもりです。ご自分でストックしていたアメリカのユニットを付けます。配管は下を回して、吸排気もだいたい決めてますから、あとは組み付けだけになりました」と、さらに面白くなりそうだ。

 

実車の仕様を掴むのが維持や整備のポイントに

ところで、LTDで注意すべき点などはあるのだろうか。

「この両車、前期型と後期型で比べていくと、ホイールも同じように見えてリヤのリムが後期型ではフラットで縁がないとか、リヤキャリパーの表が前期型は平ら、後期型は少し丸いとかという細かい違いが分かります。900の場合は社外ですからまた少し違うんですね。ブレーキディスクも、後期型はMk.IIのような穴開きタイプです。ディスク径もZより小径だったりする点は知ってた方がいい。

ほかでは、エンジンの中身、クランク。後期型はMk.IIベースですけど、クランクはなぜかZ1000Aの形(ウエブ)で、カムチェーンもZ1000Aの長さ。エンド側に付く発電機はMk.IIだったりしますから、オーバーホールなどで角ヘッドだからって先にカムチェーンをMkII.用で準備して、いざ組んだら合わないとなります。先にヘッドカバーを開けてカムスプロケットの丁数を確認するといいでしょうね。ブレーキパッドも年式で違ったりしますから、手に入れたなら年式だけでなく、細かく仕様を把握するのが結果的に楽になります。外装色もいろいろあって難しいですけど。

▲ブルーサンダースで作業を行った前期型(純正のシルバーに対してブラック塗装)のエンジン単体。φ70×66mmで1015ccだ。

あとはZとの違いですが、フレームもZ1~Z1000とMk.IIの中間的にちょうどいいくらいの補強が加わってて、その点でもいいんですよ。Z1でほしいところに入って、Mk.IIほどごつくない」

LTD好きであり、知りたいことを突き詰めたいという岩野さんらしさも入りつつ、このように細かな違いは明らかになった。その上で、LTDらしいところも見てほしいと続けてくれる。

「ハンドル内に、今のクルーザーのようにスイッチ配線を通している点とか、わざわざ専用のグラブバーを作ったところ。フロントウインカーの位置が変わってヘッドライトステーが小型の専用品になっています。そのウインカーはフロントがマッハ系でハンドルマウントされて、リヤがZ1だったりという組み合わせなども味のうちかなと思えます。

最初に言ったように、乗り味もお勧め。その上で、そんなにガンガン乗り込んだようなものもあまりないですから、ベースとしてもいいかなと。リヤを18インチにしてZやMk.IIみたいにするカスタムも、ウチでも受けていますけど、1度ノーマルで乗ってほしいですね」

Zを知り尽くしたからこそ分かる味。LTDは、狙い目のようだ。

 

細部の仕様に注意すればZ同様に考えていいLTD

Z900/1000~Z1000Mk.IIをベースとするLTD。年式ごとの違いはベース車に準じることになるが、それだけで割り切れない細かい部分の違いもあるという。その違いの主なものと、LTDらしい作り込みの部分を教えてもらおう。

 

ENGINE/ベースのZと同じだがクランクは念のため確認


上がZ1000Aベースの前期型(’77/’78年型)、下がMk.IIベースの後期型(’79/’80年型)。どちらもφ70×66mmで1015ccだ。

 

ベースクランクはこう違う


参考用にZシリーズのクランクシャフトを並べた。8個並ぶクランクウエブ形状が機種で異なり、Z1~900は円の両側を落とした釣り鐘(くさび)型、Z1000では両外の6個がフルサークル(円)、Mk.IIでは両外の4個がフルサークルでその内側2個が釣り鐘。いずれも最内の2個は下写真のような錨型だ。中央にあるカムチェーン駆動ギヤはZ1~Z1000が15T、Mk.IIが16Tと異なるが、角型ヘッドの後期LTDでは発電機がMk.IIなのにクランクが15Tというケースもあるとのこと。

 

FRAME/ベースのZ1~Z1000で足りない部分が補われMk.IIほどの重さはない


こちらは以前同店で作業したZ1000LTDのフレーム。ステアリングヘッドまわりにはZ1~Z1000になく、少し足りないと思えた部分に補強が純正で加わっていた。フレーム自体の作りも、Z1000で少し甘くなっていた左右対称感(岩野さん談)が補正されているという。


Z1000LTDで加えられた純正補強。ネック前下のボックス部分が逆Vから、Mk.IIのようなA字型になり、ネック後ろの左右レール間にパイプが入っている。これが効くので、Zでレーサーを作る時にLTDフレームを使ったり、他のZでもLTD純正を参考にネック後ろを補強することが多いとのこと。なお、26度のキャスター角や約90mmのトレールはZ1~Z1000、LTDで共通だ。


こちらは同店で追加したZシリーズへの定番的補強で、上からネック後ろでメインレールとダウンチューブをつなぐ、ピボット直上、リヤサスのレイダウンマウントの各プレート。Mk.IIのSTDでは重くなる点も避ける補強だ。

 

OTHERS


プルバックハンドルはZ1000Jベースの’81年型以降ではもっと大きく引かれるので~’80年型が適度。ハンドルマウントのフロント側ウインカーはリヤ側ウインカーとは形状が異なる。


ライダー側から見るとシリンダーヘッドがZよりも張り出して見える、スリムな13.6リットル容量燃料タンク。


専用グラブバーなど、各部のLTDらしい作り込みやディテールにも注目してほしいと岩野さん。

 

【協力】ブルーサンダース TEL03-3870-3505 〒120-0041東京都足立区千住元町28-10 http://www.blue-thunders.com

※本企画はHeritage&Legends 2022年3月号に掲載された記事を再編集したものです。
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