【H&L TOPIC】
摩耗しらずのICBMシリンダー
永久無償修理制度がスタート!

井上ボーリングが製作・販売する、オリジナル・アルミ製シリンダースリーブがICBM(Inoue boring Cylinder Bore Finishing Method [登録商標])。シリンダースリーブを6061-T6アルミ材からマシニングセンタで削り出し、その内壁にニッケルシリコンめっきを施しプラトーホーニングしたもので、旧車に多い一般の鋳鉄スリーブを凌ぐ長寿命が自慢だ。2020年秋、同社はそんなICBMシリンダーでさらに製品の永久無償修理サービスを打ち出したのだ。その狙いを同社代表・井上壯太郎さんに聞いた。

取材協力:井上ボーリング 〒350-1155埼玉県川越市下赤坂671 TEL049-261-5833
https://www.ibg.co.jp/ ICBMのスペシャルサイト:https://www.ibg.co.jp/icbm/


旧車の内燃機延命に向け繰り出される、iBのサービス群

「当社のICBMシリンダー(以下ICBM)は、なにより長寿命が自慢です。旧車が使う鋳鉄シリンダースリーブを、ICBMのそれに入れ替えていただければ、以降はシリンダースリーブの摩耗による交換を意識する必要がなくなる。実際、これまでに約400機以上のエンジンでICBMをお使いいただいていますが、摩耗を原因としたクレームは1件もありません。

そうした実績、井上ボーリング(以下iB)の自信をもっと多くの旧車ファンに知ってもらい、ICBMの良さを享受していただきたい。特に旧車を長く楽しみたいと考えている方にこそ、気づいてほしいんです。思い切って『永久無償修理』を打ち出したのは、そうした考えからなのです」(井上壯太郎代表)

井上ボーリングの代表、井上壯太郎さん。バイクに特化した内燃機加工を広く扱う。カワサキZ系エンジンや空冷2ストのマッハシリーズ、ホンダNSR250RやヤマハRZ系の依頼は多いと言い、後から費用が嵩むのを抑えるにもICBMシリンダーを使って先にきちんと対策を打ってみては、と提案する。

この永久無償修理は、ICBMを導入したエンジンが正常摩耗を原因にトラブルを起こした場合、そのシリンダー修理を請け負うもの。特に2ストローク車に多いセッティングミスが原因で起きる焼き付きや噛み込みはその範疇にないが、それでも内燃機加工業者が自社サービスに“永久”保証を付けるのは極めて希。絶対の自信がなければ、安易にはできないことだ。



ICBM本体のシリンダースリーブは6061-T6アルミ材からNC旋盤によって複数の段階で削り出される。T6は加工から時間をおくことで硬度が高まる時効硬化処理。内壁にはこの後、ニッケルシリコンめっき加工がされる。硬く、油膜保持に優れ、めっき処理ピストンリングとも相性は良い。価格は1気筒7万円〜だ。

そもそも、アルミ製スリーブによるICBMは旧車に多く使われる鋳鉄製スリーブと比べて、アルミシリンダーブロックとの親和性が極めて高いのが特長だ。シリンダーブロックとスリーブが同じアルミ素材の組み合わせとなるため、シリンダーブロックとの膨張率が近く、鋳鉄スリーブのように長く使い続けた先に出現する、シリンダーブロックとスリーブ間のガタが出にくい。こうしたトラブルが当たり前となったカワサキZ系エンジンなどで、特に有効だ。

カワサキZ用ICBMシリンダー完成写真。純正を含む鋳鉄製スリーブでは、アルミ製のシリンダー本体との間で素材熱膨張率の違いにより、経年でその間にガタが生まれるのは必然。そしてこのガタはスリーブとピストンに深刻なトラブルを起こす。シリンダーブロックと同じアルミ製スリーブのICBMはその心配は皆無となる。

また、ICBMに施工される特殊ニッケルめっきは、国内バイクメーカーのそれとほぼ同じ。ピストンリング側に施されるハードクロームめっきとの相性もいい。硬さを表す尺度=ヴィッカース硬度でいえば、ICBMの特殊ニッケルめっきは2000。かつてアフターマーケットのめっきシリンダーのトラブルとして聞かれた“めっき剥がれ”など皆無だ。さらに書けば、巷で耐久性が高いと言われる、スーパーターカロイ鋼スリーブでも、先のヴィッカース硬度で言えば150程度だから、その圧倒的な耐久性は言わずもがな。

「ICBMは、高硬度に仕上げたスリーブ内壁に油膜保持用のクロスハッチを設け、さらに慣らし運転すら省けるプラトーホーニングも施工します(下段説明参照)。プラトーホーニングはバイクメーカーから内燃機加工を引き受けた頃から磨いた技術。自社で面粗度計を使いデータを集め、製品に落とし込む内燃機屋さんは、そうはいらっしゃらないはずです」(同)



プラトーホーニングは、社内に面粗度計を設置しデータを積み重ねた技術。中段写真は面粗度計。最下段はその出力グラフで、スリーブ内壁面を中央に、左はスリーブ本体側、右がピストン摺動面側を表している。スリーブ本体にはオイル溜まりの深い溝が刻まれ、一方の摺動面は平滑化されているのが分かるだろう。正しくプラトーホーニングを理解する業者も、実は少ないと、井上代表は言う。

“柱付き”2スト用スリーブに、どこでも作業できるICBMプランも

そして、2ストエンジン用ICBMでも、先のバイクメーカーの下請け仕事からのフィードバックは多くある。

例えば、排気ポートに柱を立てる技術などは特筆点だ。2ストエンジンでは排気ポートを大きく取らざるを得ないが、このポートからピストンリングが飛び出しやすい。ピストンが上下動する度、ポート縁とピストンリング縁が引っかかり、これもトラブルの原因となり得るのだ。
iBはこの排気ポートに独自技術で3mm程度の柱を追加し、この柱をガイドにピストンリングの飛び出し/引っかかりを完全に抑止。すでに空冷3気筒のカワサキH2エンジン用などに実績を持つ。この2ストエンジン用の柱付きICBMは“2ストエンジンは耐久性が低い”という常識すら覆す技術なのだ。



最上段がRZ用のICBM、中段はカワサキ2スト3気筒、マッハ系用だ。最下段はそのマッハ用スリーブの排気ポート側。純正にはない柱がセンターに立つ。この柱がガイドとなり、ピストンをスムーズに上下動させることに貢献する。各2ストエンジンそれぞれに仕様設定するポートの大きさと形状、この柱の幅や各縁部の面取り加工など、井上ボーリングが積み重ねたノウハウが投下される部分でもあるのだ。

「そして次に控えるのが、特許出願中の『エバースリーブ』です。ICBMを施工するうちに気づいたもので、ICBMを常温でシリンダーブロックに正しく挿しこめば外れることなく、以降、エンジンの火入れとともにシリンダーブロックとしっかり馴染む。内燃機の基本知識をお持ちで加工や手配ができれば、バイクショップさんでも自社でICBMがお使いいただける。

ICBMはこれまで、弊社にシリンダーを送っていただいての作業でしたが、エバースリーブなら在庫可能で全国どこでも、迅速に送り出せる。旧車のエンジントラブルにお困りのオーナーをいち早くお助けすることができるんです」(同)

iBのエバースリーブは他の内燃機加工業者をも巻き込む新たな取り組み。サービスインは来年というが、すでに協力ショップの募集も始めているという(興味があればご連絡を、と井上代表)。

ICBM、その永久修理保証、そしてエバースリーブ……。古いバイク、大事なバイクを延命させ楽しみ続けるために、iBの製品とサービスから目が離せない。

取材協力:井上ボーリング 〒350-1155埼玉県川越市下赤坂671 TEL049-261-5833
https://www.ibg.co.jp/ ICBMのスペシャルサイト:https://www.ibg.co.jp/icbm/