登場から20年超のZRX1100エンジンオーバーホール
ZRX1100に今後10年を楽しく乗ることを見据えて
エンジンのオーバーホール。大がかりで費用もかなりかかる……そう思う人もいるだろう。ただ、距離や時間を重ねてきた車両にきちんと施せば、元気がよくなる、パワーを取り戻すだけでなくスムーズさも増し、今後の寿命も伸びる。あとはどんなメニューを選ぶかだ。
「今回は1100が好きで、長く乗ってきたお客さんのエンジンです。ハイチューンや大きなボアアップ(いわゆる大がかりな部分)はなし。それでこれから10年、ツーリングなどで楽しく乗れるエンジンにします」と、マーベラスエンジニアリングの折目さん。
▲マーベラスエンジニアリングの折目さん。
折目さんはZRXのルーツとなるGPZ-Rに自らも20年以上乗り、じつに多くの同系車両/エンジンの面倒を見てきた。
ツーリングからサーキットまで。その上で〝ニンジャドック〞というGPZ-R、ZRX両系の車両チェック/コンディション良化メニューを提供し、車両を復調させてきた。
今回のフルオーバーホールもその延長上。経年や使用で劣化した部分をパーツ入れ替えや再加工によって回復させる。そこに、この20年で変化した部分を取り込んでいく。ここに挙げるのはその主な内容だが、奇をてらったところのない、オーソドックスなものだ。
燃焼室を始めカーボンが堆積する箇所は清掃し、4つの気筒で均質化が必要なところは見直しと必要に応じて再加工。クランクの芯出しやバランシング、メタル合わせ+モリコートはスムーズさを出して扱いやすさと延命を狙う。カム変更とオーバーサイズ鍛造ピストンの仕様も同様で、ここは進化したパーツ(難しいことなしにパワーを上乗せして、パーツ自身の寿命や精度も高い)が使える。シリンダーはボーリング後にプラトーホーニングによってオイル保持性を高める。大きな負荷がかかる上に、廃番部品が増えているミッションは表面強度向上等で各パーツの消耗を抑える表面処理を行い、作動もスムーズ化(ラフに動かさなくなることでの消耗抑制も狙える)。
もちろん組み付けの際にはバルブを初めとしてクリアランスなどをきちんと取っていく。
「言わば今の定番を集大成的にした内容ですけど、その定番をきちんとやることで信頼性も上がると思います。ほかに弱点対策的なこともやります。ZRX/Ninja系で焼きつきがちな#3/#4間のクランクジャーナルも、独立したオイルパイプ部のOリング劣化/パイプ抜けが原因になったりするのでその確認など。そういう地味なところから見ておく。
それで10年経って開けてみて、〝こんな(いい)状態だったね〞と言えるようにしたいです」そう言う折目さん。
▲徳島県徳島市川内町にあるマーベラスエンジニアリング。GPZ-R/ZRX系車両の面倒を見て、チューンし、メンテナンスしてきた。GPZ-R/ZRX系は各オーナーの使い方に合わせた仕様設定にも対応し、心強い味方になってくれる。
「今だとかつてのようなハイチューンは減って、街乗りならばノーマル+少しのパワーでというオーダーも増えてます。今回はポートも清掃のみですが、レース向き以外でポートをいじることも減りました。もちろん、コストをかけてもっと先を狙いたいというならそちらにも対応出来ます。あとは使い方と、考え方です。神経質になり過ぎてもダメですが、雑過ぎてもダメ。オイルの管理や暖気の仕方などにも気を配っておきたいですね」とも。
めっきシリンダーの1200もDAEGでも、基本的な内容は同じ。いずれ訪れてしまう劣化から復調して、もっと乗り続けたい。そう思うなら、マーベラスに作業依頼をするのは有効だと思える。
マーベラスエンジニアリングのオーバーホールメニュー
マーベラスエンジニアリングで今回行ったZRX1100エンジンのオーバーホールメニュー。並べてみるとそのままどのエンジンにも共通するものだと分かる(面研等の記載は割愛)。排気量拡大やバルブ/ガイド変更などスープアップを行う場合は、それらが加わると考えればいい。ZRX/GPZ-R系の場合は特に冷却水通路内部の錆/汚れも落とし、本文のようにオイルラインも見直すことも重要だ。
● シリンダーヘッド
清掃(カーボン落としなど)、気筒間調整、燃焼室/バルブまわりの再構築
● カムシャフト
今回はヨシムラST-1Mに変更
清掃して気筒ごと容積確認やバルブシートカット等を行って組み上げられたシリンダーヘッド、手前が進行方向。カムシャフトはヨシムラST-1M(プロファイルは同ST-1に同じでダクタイル鋳鉄+レーザー焼き入れ)を使う。この時点でバルブ/スプリング/ロッカーアームも組み込まれている。クリアランス調整(上写真/参考。バルブ上のシム厚み変更で行う)も行う。
カムを外した状態でのシリンダーヘッド。ロッカーアームシャフトを通じてカムまわりにオイルが供給されるが、エンジン右に付くオイルラインはZX-10以降で確立された構造。以後GPZ900R系エンジンの最終型、DAEGまでこの潤滑スタイルが続く。
カムの山に押されて、下にあるバルブエンド(の上に入るシム)を押すロッカーアーム。ZRXは1バルブ1ロッカーアームで、GPZ900Rの2バルブ1ロッカーと異なる。ロッカーアームシャフトからのオイルはアーム基部の穴(写真では突起に見える)から当たり面に噴かれる。
● ピストンまわり
オーバーサイズの鍛造品(ヴォスナー製)に換装
ピストンはヴォスナー製オーバーサイズ品(φ77.94mm /ノーマルはφ76mm)でリフレッシュ。鍛造+切削加工による強さやバランスの良さ、耐久性の高さを見込んでのこと。サイドスカート部には二硫化モリブデンコートもされる。
純正が壊れるというわけではなく、今の時代ならより良いものが用意されている、ならばそれを使おうという部分。ピストントップはZRX1100のフラットトップ+バルブリセスを踏襲した形状。狙うものによってはハイコンプや排気量拡大(今回のような2mmオーバーのφ78×58mm /1108仕様も好バランス)ほか、多くの仕様も作れるのはZRX系の特徴だ。
● シリンダー
ピストンに合わせて再加工(ボーリング等)※今回は井上ボーリングでプラトーホーニングも施工
シリンダーはオーバーサイズとなったピストンに合わせてボーリング。今回は井上ボーリングに作業を依頼し、プラトーホーニング(プラトー=高原で、深めのオイル保持条痕を作る)仕上げとして油膜を確保できるようにしている。ZRX1100ではライナー外側が直接冷却水に触れるため、ここに溜まる汚れ等も入念に取り除いている。
シリンダー内壁にクロス状に入った条痕が写真でも分かる。この条痕でオイルを保持して潤滑性を高めるが、プラトーホーニングではその度合いを高めることになる
● クランクシャフト
バランシング/チェックとジャーナルラッピング
クランクシャフトは芯出しとバランス取り、ジャーナルラッピングを行う。作業はダイヤモンドエンジニアリングに依頼した。3つの作業の相乗効果でスムーズさは増し、耐久性を高めることにもつながる。下はラッピング処理されたジャーナル(軸)部で、表面を精密研磨して平滑度を高めている。これもここ数年で2輪界に浸透してきた手法だ。
● ミッション(ギヤ/シフトシャフト)
各部チェックの上修正/新品交換+WPC処理
ミッションまわりのパーツ、写真左側から中央はギヤ、右側はドライブシャフトとアウトプットシャフト。シフト操作でシャフト上をスライドし、ドッグ(各ギヤに見える突起)が他ギヤのドッグ穴に噛み合うが、この摩耗を軽減するためにWPC処理を施している。表面硬度や潤滑性の向上に摩擦が低減でき、作動を滑らかにしてトラブルを予防する。
● クランクケース
外観ガンコート仕上げ(下処理としてウェットブラスト)
内部リフレッシュに合わせてエンジン外観もきれいにするため、耐熱塗装のガンコート処理を行う。上写真は施工済みの状態だ。作業はリアライズに依頼するが、同店の場合下地処理にウエットブラストを使うため、外観だけでなくクランクケース内部も下写真のように清掃+バリ取り効果できれいになるのがいいとも折目さん。
※本企画はHeritage&Legends 2020年9月号に掲載されたものです。
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