MCジェンマが提案するGPZ900Rのシャシーコンストラクト 前編

MCジェンマが提案するGPZ900Rのシャシーコンストラクト 前編

広島県福山市を拠点にGPZ900Rを主体に活動するカスタムショップ、MCジェンマ。同店ではライダーの使い勝手に合わせてニンジャのシャシーを組み上げるJCG-N(JAPAN CURRENT GEMMA NINJA)を考案。ユーザー提供をスタートした。ここでは代表の石田さん自身の愛車への二輪ジャーナリスト・丸山 浩さんによる試乗を手始めに、ニンジャカスタムに向けたJCG-Nのシャシーコンストラクトという考え方を前編・後編に分けて紐解いていこう。

立ち姿は純正然とするがNinjaを細部まで煮詰めた1台?!

私・丸山 浩はふと、懐かしい気分に浸っていた。今日、私が訪れているのは大分県にあるサーキット「SPA直入」。この懐かしい気分はこのサーキットのロケーション……ではなく、目の前にある一台の車両によるところだった。GPZ900R。現在のニンジャシリーズの源流であり、不朽の名車。それが純正然とした雰囲気をまとい、サーキットに佇んでいた。

近づいてみると、その雰囲気からは想像がつかないほど多くのカスタムがこの車両には施されているようだ。足まわりから吸排気系、エンジン、更にはフレームまで手が加えられている。そんなことを思いながら車体を眺めていると、オーナーであるニンジャ系カスタムで知られるMCジェンマの石田さんがやってきて、このバイクについて詳しく語ってくれた。 このバイクの目玉は、リヤホイールの17インチ化とそれに伴うフレームのセッティング。具体的には、17インチホイール化に最適化したMCジェンマ・オリジナルのピボットダウンフレーム“JCG-N”だ。

MCジェンマが提案するGPZ900Rのシャシーコンストラクト 前編02

通常、ホイールのインチ数を変更すると、車体のディメンションが大きく狂ってしまい、まともに走るバイクではなくなってしまう。それを解決するために石田さんは、あえてフレームのカスタムという手段を採った。しかし、何故フレームをカスタムする大作業を施してまで17インチにこだわるのか。

そこには石田さんの「より多くの人にニンジャを楽しんでもらいたい」という強い想いがあった。「17インチであれば、タイヤの選択肢が広がって、より多くの人が楽しめるじゃないですか」と。

話を聞いていくうちに私は、このバイクのカスタムは絶対的な速さだけを求めたものではないことに気付かされた。例えば、キャブレター。装着しているのはFCR39である。当然ピークパワーはφ41mmの方が出るが、中低速域を重視した結果のφ39mmであるという。 また、前後足まわりには定番のオーリンズにブレンボ。この選択も、タイムよりは乗りやすさを求めてのものだというから徹底してる。さらにシャシーセッティングで重視したのがハンドルの切れ角。当たり前のように、普段の使い勝手を重視してUターンが難なく行えることを目指したという。

ここまで石田さんが乗りやすさにこだわったこのニンジャ。是非ともどんな乗り味なのか試してみたい。すると、そんな気持ちを察したか、石田さんがひと言、「ぜひ乗ってみてください」。それではお言葉に甘えて…。ストリート重視のセッティングとは言えここはサーキット、限界域までチェックして、マシンの完成度をみるには絶好の場所だ。

 

現代版GPZ900Rが出来たらこんな乗り味で

跨ってみると結構、腰高感のあるシート。しかし現代のスポーツバイクポジションと見て完成度は高い。今どきのスーパーバイクZX-10Rより少し緩いくらいの前傾で、これならツーリングにだって普通に出かけられる。そしてサスペンション。車体を前後にゆすってみると奥のほうまで柔らかく、街乗りも難なくこなせるセッティングであることが分かる。 さて、エンジンも暖まったことだし、どんな乗り味かみてみよう。

ゆっくりとコースイン。そのまま第1コーナーへ。最初のターンは最も緊張するポイントだ。しかし、そんな緊張を他所に、こいつはスッとマシンが寝て、そのままステアリングが自然に切れていく。非常に自然なハンドリングで、身構えていたこちらが肩透かしをくらったような気分。その後もコーナーをひとつ、またひとつ……とクリアする度に緊張が薄らいでいく。そうして一周を終えたころには、楽しくなっている自分がいた。フルカスタムのGPZ900Rがこんなに乗りやすいとは!

MCジェンマが提案するGPZ900Rのシャシーコンストラクト 前編17

MCジェンマが提案するGPZ900Rのシャシーコンストラクト 前編03

▲広島県を構成する中核都市のひとつ、福山に本拠を置くMCジェンマ。大型流通倉庫のような店内には西日本を中心に頼り集まるオーナーたちからの預かり車や、膨大なストックパーツが所狭しと並ぶ。今回のニンジャは石田道彦代表の愛車にしてテストベット。

タイヤに熱を入れ、徐々にペースを上げていく。……驚いた。少し調子に乗ってペースを上げすぎても、しっかり付いてきてくれる。それどころか、まだ余裕を残している感じすらあるのだ。深いバンク角からスロットルを開けていってもしっかりと踏ん張ってくれるし、多少意地悪なスロットルワークにも、パワーアップされたエンジンは普通に付いてくる。これは、しっかりとキャブセッティングが煮詰まっている証拠。これなら、テイスト・オブ・ツクバにだって出られるレベルだし、F-ZEROクラスだったら、このままの状態でも、いいところまでいけるんじゃないだろうか。

今回試乗したMCジェンマのGPZ900R、乗り味はカスタムバイクというより“普通”に現代のスーパースポーツ、あるいはスーパーバイククラスのマシンをベースにストリート仕様へ、さらにハーフカウルバージョンにした感じ。これが1990年代のバイクをベースとしたフルカスタムバイクに乗っての感想なのだから驚きだ。

もしもこれから先、GPZ900Rが改めて世に復活する機会があるとすれば(今のカワサキを思えば、まんざら夢物語ではないかもしれない)、それはこんな乗り味になるんじゃないだろうか。いや、むしろこんな乗り味になって復活してほしいものだと思わせてくれる一台だったのである。

 

MCジェンマGPZ900R詳細

MCジェンマが提案するGPZ900Rのシャシーコンストラクト 前編04

石田さんの愛車にしてテストベッドとしても活躍するJCG-N仕様ニンジャ。ライダーのスキルに頼るのではなく、逆にバイク側からライダーを支えるオールラウンダーのニンジャを作ることがテーマと言う。現在も試行錯誤を繰り返しながら、最適仕様を模索し続けているのはこの記事の後編で現在の姿を見ていただければ分かる。

MCジェンマが提案するGPZ900Rのシャシーコンストラクト 前編05

MCジェンマが提案するGPZ900Rのシャシーコンストラクト 前編06

MCジェンマが提案するGPZ900Rのシャシーコンストラクト 前編07

SPA直入での石田ニンジャにはGPZ1100をベースとした1137cc仕様のエンジンが搭載されていた。キャブレターにはFCRφ39mmを選択し、中低速のスムーズさを狙う。ブラックアウトされたダウンチューブキット、CLR-RGエキパイⅡ+ヘキサゴンサイレンサーによるマフラーまわり、ヘッドバイパスキットやエンジンスライダー等、目に付くカスタムパーツはすべてケイファクトリー製だ。

MCジェンマが提案するGPZ900Rのシャシーコンストラクト 前編08

MCジェンマが提案するGPZ900Rのシャシーコンストラクト 前編09

MCジェンマが提案するGPZ900Rのシャシーコンストラクト 前編10

MCジェンマが提案するGPZ900Rのシャシーコンストラクト 前編11

MCジェンマが提案するGPZ900Rのシャシーコンストラクト 前編12

前後ホイールはゲイルスピードのタイプGP1-Sで、サイズは[純正値:3.00-17/3.50-18→]3.50-17/6.00-17。スイングアームはケイファクトリーの新型目の字断面(外寸:90×30mm)タイプで、V型スタンドフックも同社製。本文の通りピボット位置が下げられて前後17インチ向けに最適化、オーリンズショック(スプリングはハイパープロ)とオリジナルリンクでディメンションを整えている。フロントフォークはオーリンズ正立、前後ブレーキキャリパーにはブレンボをチョイスしている。

MCジェンマが提案するGPZ900Rのシャシーコンストラクト 前編13

ステアリングステムはケイファクトリーのトリプルツリーType2でハンドルバーも同社製汎用品。可変式のステム側オフセットは28mmに設定する。

MCジェンマが提案するGPZ900Rのシャシーコンストラクト 前編14

ライディングシートはライダーの身長、スキル、目的に合わせて製作されるMCジェンマのオーダーメイド品。

MCジェンマが提案するGPZ900Rのシャシーコンストラクト 前編15

MCジェンマが提案するGPZ900Rのシャシーコンストラクト 前編16

ケイファクトリーによるライディングステップは4ポジションで、20UP/10mm BACK、20/20mm、30/10mm、30/20mmから任意でステップバー位置が選べるものだ。

MCジェンマのYouTubeチャンネルもチェックしてみよう!

※本企画はHeritage&Legends 2021年11月号に掲載された記事を再編集したものです。
バックナンバーの購入は、https://handlmag.official.ec/ で!

 

WRITER

丸山 浩

国際A級ライダーとして全日本ロードレースや鈴鹿8時間耐久などの参戦経験を持つ。株式会社WITH MEの代表としてモータースポーツ文化を広めながら、雑誌、TV、YouTubeなどでモータージャーナリストとしても活躍中。