【IMPRESSION】 KAWASAKI ZEPHYR1100
いじってなんぼのカスタムベース。ビッグネイキッドの先駆車として1992年に発売されたゼファー1100は、現役当時からそういう見方をされることが多かったモデルだ。とは言え、現代の視点でノーマル車両に試乗してみると、今市販されているスポーティなビッグネイキッドとは一線を画する、穏やかで重厚なキャラクターが、何だか新鮮に思えてくるのだった。
取材協力:レッドバロン https://www.redbaron.co.jp/
Report:中村友彦/Photos:富樫秀明
現行ネイキッドとは違う穏やかで重厚なキャラクター
ゼファー1100/750は、振り返れば異例のモデルだったと思う。ビッグネイキッドの先駆車として1992年(1100)、1990年(750)に登場したふたつのゼファーは、生産が15年以上に及んだのに、運動性能を高める仕様変更を一切行わなかったからだ。
それはカワサキ第2の現代ビッグネイキッドとして、1997年から2016年に販売されたZRXシリーズが2度の大きなアップデート的なモデルチェンジを行ったことを考えれば、よく分かるだろう。
そういう背景からか、ゼファーにはデビュー当初から“いじってなんぼ”という風潮があった。伝統のザッパー系を継承した750は、じわじわと支持層を拡大したが、1100は当時ノーマルの評価はあまり高くなく、1990年代中盤にCB1000SFやXJR1200、GSF1200といったリッターネイキッドのライバルが出揃うと、身の回りの同業者に、ゼファー1100に肩入れする人はいなかった記憶がある。僕自身にも、ゼファー1100はカスタムベースという印象が強く、これまではノーマルの存在意義を真面目に考えたことはなかった。
そんな中、レッドバロンが2020年前半に開いた中古車説明会で、十数年ぶりにゼファー1100のノーマルを体感した。すると、あれ、こんなにいいバイクだっただろうか? と、ちょっとした驚きを感じたのだ。もっともその印象の背景には、試乗車がレッドバロン独自の譲渡車検を取得した極上車(会場には一般的な中古車の状況を示す例として、ブレーキとアライメントに問題を抱えた車両も準備されていた)だったという事情があるのだが、まさか誕生から30年近くが経過した今になって、旧態然とした作りのビッグネイキッドを見直すことになるとは。
やはりバイクの印象は、時代や周辺事情やライダーの意識次第で、変わってくると思える。改めて振り返ると、ゼファーのルーツとなったZ1にも、1980年代中盤には時代遅れの旧車という見方をされていたという歴史があった。
ではゼファーに対する印象が変わった理由は何かというと、一番は自分自身の趣向の変化だろう。若い頃ほど速さに執着しなくなった現在、ゼファー1100の穏やかで重厚な乗り味は、何だか妙にしっくりとくる。走り始めて数分で、このままロングツーリングに出かけたいなあ……という気分になってしまった。
往年の空冷Z系やGPZ-Rに通じる資質
試乗を続けるうちに頭に浮かんだのは、現行ネイキッドであるZ900RSとの差異である。車体の動きもエンジンの反応もシャープでスポーティなZ900RSと比べると、ゼファー1100はすべての挙動がゆったりしている。18インチの前輪は安定感が抜群で、前後サスは乗り心地重視のソフトな特性だ。負圧式キャブレターはワンテンポ置くかのような反応を見せる。かつての自分なら迷わずZ900RSに軍配を上げたはずだが、もうすぐ50歳になる今は、ゼファー1100にも捨てがたい魅力を感じるのだ。
そう思った上で、試乗後にじっくり車両を眺めていると、さすがにフルノーマルは、という気持ちが芽生えて来た。具体的に言えば、自分好みの特性を作るために、とりあえずリヤショックは変更したいし、軽量化に貢献するマフラー交換も行いたい。欲を言えばブレーキやホイール、キャブレターなどにも手を加えたいのだが、いずれにしても今ゼファー1100をいじるなら、ノーマルの資質を尊重した上でだろう。
そしてそんなことを考えている最中、ふと思ったのである。ノーマルはノーマルで楽しくて、それでいてカスタム意欲が湧いてくる感覚は、往年の空冷Z系やGPZ900Rと同じじゃないかと。実はこれまでゼファー1100に対しては、世界最速やクラストップを目指していないのだから、カワサキの旗艦の王道ではない、という印象を抱いていたのだが、この日の試乗の印象は、カワサキの歴代名車とよく似ていたのだ。
さて、そんなゼファー1100の中古車相場は、生産終了後にじわじわと上昇し、現在は80~150万円近辺が主。200万円前後というものも珍しくはない。価格についての評価はさておいても、現行車では味わえない素性を持つこと。またじっくり探せば良好なコンディションの個体が見つかること。これらを考えれば、決して高くはない。そう思う。
カワサキ・ZEPHYR1100 Detailed Description【詳細説明】
ゼファーシリーズのデザインは、いずれも1970年代のZ1系をルーツとしていたが、400/750/1100のうちで最も原点のZに近かったのは1100。ただ、各部に採用されためっきまたはバフ仕上げのパーツからは、カスタム感を演出しようという意識が伺えた(Z1系のバックミラーやメーターカバー、ステムはブラック)。
燃料タンクはZ1系に通じるティアドロップタイプで、側面のえぐりは500SSマッハIIIの初期モデル的。なお試乗車のタンクエンブレムは社外品で、純正は1992~2003年型:ZEPHYR、2004~2006年:Kawasakiとなっている。
クランクケースはツアラーのボイジャーXIIをベースとするものの、空冷並列4気筒1052ccエンジンはほとんどの部品が専用設計。動弁系はカワサキ伝統のDOHC2バルブで、点火系のツインプラグは市販レーサーKZ1000Sを思わせる機構。当初の最高出力は93ps。
ダブルシートはZ1系のカスタムパーツを思わせる構成。表皮は、400がZ1000R風、750がプレーンだったのに対して、1100は独創的なパターンを採用した。
Z1000J系の構成を踏襲したたのだろうか、ステップホルダーは当時のビッグネイキッドでは珍しい前後共用式。
キャブレターは負圧式で、1990年代登場車の1100cc用としては小径のケーヒンCVK34。もちろんそのボアサイズは、常用域での扱いやすさを重視した結果だ。2002年型からは排気ガス規制への対応策として、スロットルポジションセンサー(K-TRIC)を追加。
アルミキャストホイールのサイズは、今の視点で考えると細身の3.00-18/4.50-17インチで、標準タイヤはベルテッドバイアス。ブレーキは、F:φ310ccディスク+対向4ピストンキャリパー、R:φ220㎜ディスク+片押し2ピストンキャリパー。
スイングアームは日の字断面のアルミ押し出し材製でスイングアームエンドのエキセントリック・チェーンアジャスターは、当時のカワサキのこだわりだ。φ43mm正立フォークは非調整式だが、リヤショックはプリロードに加えて、伸圧ダンパーアジャスターを装備。なおフレームはダブルクレードルタイプで、右ダウンチューブは脱着式。
※本企画はHeritage&Legends 2021年1月号に掲載された記事を再編集したものです。
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