IMPRESSION YAMAHA TZR250(1KT)

【IMPRESSION】 YAMAHA TZR250(1KT)

クラストップの戦闘力を誇っていた期間は1~2年。だがヤマハ初の2ストローク250㏄レーサーレプリカとして1985年秋に登場したヤマハのTZR250は、峠道やサーキットに通うライダーだけのものではなかった。初心者やツーリング好きからも愛される、万能スポーツバイクだったのだ。

取材協力:レッドバロン https://www.redbaron.co.jp/
Report:中村友彦/Photos:富樫秀明


多くのライダーから愛されたヤマハ初の250㏄レプリカ

現役時代を知らない人は驚くかもしれないが、1980年代をリアルタイムで体感したライダーたちと初期の2ストローク250ccレーサーレプリカの話をしていると、意外な苦言が出て来ることが少なくない。それはいったいどういうものか? 具体的には、ホンダNSR250Rは曲がりづらいと言われていたようだし、スズキRG250Γにはバランスがいまひとつという意見があった。そしてカワサキKR250は、メカニカルトラブルが多かったらしい。

そんな中で、そのような異論がほとんど出て来ないどころか、“ライディングの基本を学んだ”、“ルックスはレーサーレプリカだけども、初心者や旅好きも楽しめる万能車だった”という感じで多くのライダーが絶賛するのが、1985年にヤマハが発売した初代TZR250(型式名1KT)だ。

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ツインスパータイプのアルミ・デルタボックスフレームに前後17インチホイールといった車体まわりは、まさに当時のGPレーサーのフィードバックたるもの。エンジンも並列2気筒ながら吸入方式をやはりGPレーサー譲りのクランクケースリードバルブとするなど、いずれも当時革新的。そんな、以後の2ストロークレプリカ車が追随するような機構を全身にわたって採用していたのだ。

それでいて1KTはライバル勢(1985年末当時でホンダNS、スズキΓ、カワサキKR)とは別次元の完成度を備えていた。その背景には、1960年代から市販レーサーTD/TZ250で続けて来たレースのノウハウ。またTZRの前身、RZやRZ-Rからつながる市販レーサーと市販車との関連があったのだろう。

そして2020年5月に開催されたレッドバロンの試乗会では、ノーマルの1KTの資質に改めて感心させられた。もっとも当日の目的は同社独自の“譲渡車検”をクリアした極上車と、一般的な中古車の差異を認識することで、チャンバーが詰まった後者は、2ストならではの爽快感がまったく味わえなかった。用意された両車に乗れば、誰もが中古車購入の難しさを実感するはずだが……。 それ以前の話として、レッドバロンの譲渡車検を取得し、限りなく新車に近い1KTを体験したら、誰もが当時のヤマハの姿勢に感心するに違いない。何と言ってもこのバイクは、2ストならではの爽快感に加えて、現代のスポーツバイクに通じる運動性が満喫できる。1980年代車で時として感じさせられる、古さや難しさは皆無なのだ。

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絶対的な速さで言うと、後継TZRの2XT(マイナーチェンジ版)や3MA(後方排気)、また以後のライバルになったNSRやRGV-Γなどには及ばない。ただ、今となっては2ストレプリカに絶対的な速さを求める人は少数派だし、もう一度、2ストに乗ってみたい、これから2ストデビューを飾りたいという人にとって、1KTは理想的な特性を備えているのだ。

ちなみに、ひと昔前は20万円前後だった1KTの車両価格は、最近は40万円以上が珍しくなくなっている。その価格には、抵抗を感じる人がいるかもしれないが、レッドバロンの譲渡車検車のように、本来の資質を取り戻す整備費用が含まれているなら、安易に高いと言うべきではないだろう。

 

ヤマハ・TZR250(1KT)Detailed Description【詳細説明】

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メーターの中央には、10000rpm以上がレッドゾーンの回転計を設置。セパハンはトップリッジ上に装着。

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フレームの主材はアルミだが、ダウンチューブはスチール製。エンジンは自主規制上限の45psを発揮。キャブはフラットバルブのTM28SS。

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前後で独立したステッププレートとラバーなしのステップバーは、当時の2ストレプリカの定番パーツ。

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φ320㎜シングルディスク+スミトモ4ピ 6 5 4ストンのフロントブレーキは、同時代のTZ250に通じる装備だった。

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フレームに合わせてスイングアームもアルミ製で、リヤサスはリンク式モノショック。中空3本スポークホイールは、F:2.15-17/R:2.50-17インチ。標準タイヤはTZRシリーズ唯一となるバイアスだった。

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リヤキャリパーはあえて上置きでリジッドマウント。ディスクはφ210mmだ。

 

ヤマハ・TZR250(1KT)【SPECIFICATIONS】

●エンジン:水冷2ストローク・クランクケースリードバルブ並列2気筒249cc ●ボア×ストロークφ56.4×50.0mm ●圧縮比6.4:1 ●最高出力45ps/9500rpm ●最大トルク3.5kgf-m/9000rpm ●変速機6段リターン●全長×全幅×全高2005×660×1135mm ●ホイールベース1375mm ●乾燥重量126kg ●燃料タンク16ℓ ●シート高760mm ●キャスター26度 ●トレール90 mm ●タイヤ:100/80-17・120/80-17

※本企画はHeritage&Legends 2020年10月号に掲載された記事を再編集したものです。
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WRITER

中村友彦

二輪雑誌編集部員を経て独立し、現在フリーのモータージャーナリストとして活動中。クラシックバイクから最新モデルまでジャンルや新旧を問わず乗りこなし解説する。カスタムやレースにも深く興味を持ち、サンデーレースにも参戦する。