スズキ・カタナ2019インプレッション

【IMPRESSION】
SUZUKI KATANA(2019)
ネオクラシックではない! 現代のストリートスポーツ

2019年にデビューした新世代スズキ・KATANA(カタナ)に、二輪ジャーナリストの中村友彦さんが試乗した。旧KATANAからどのような変化があったのか? じっくりと解説してもらおう。

取材協力:スズキ株式会社 TEL0120-402-243(お客様相談窓口) https://www1.suzuki.co.jp/motor/
Report:中村友彦/Photos:富樫秀明


低/長/柔な元祖モデルと、高/短/軽な新世代

2019年にデビューした新世代スズキKATANAに対する第一印象は、「やっぱり乗り味に、先代カタナとの共通点はなかった」だった。低く、長く、重厚な先代とは異なり、新世代KATANAは、高く、短く、軽快なのである。

もっとも、往年の名前を冠したネオクラシックモデルで、乗り味に昔ながらの雰囲気を感じる機会などめったにないから、先代と新世代の違いに疑問はなかった。とはいえ、再現や復活という意識でKATANAに接していたら、多少の戸惑いは感じたかもしれない。

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では、開発ベースとなったGSX-S1000/Fとの違いはどうかと言うと、これは意外に大きいのだ。最も重要な違いは、着座位置が15mm上/80mm前方に移動したことで、ハンドルの近さやアイポイントの高さを考えると、KATANAはちょっとスーパーモタード的。だから荒れた路面の舗装林道などは、ヒョイヒョイッと軽やかに走れる。だがその一方、見通しのいい峠道では、何となくコーナリングフォームが決まらないような、フロントまわりが落ち着かないような、微妙な違和感を覚えることがある。

まずはの市街地走行で嬉しくなったのは、GSX-Sの短所だったエンジンの唐突な反応、ドンツキが解消されたこと。その理由は真円→プログレッシブ式に変更されたスロットルプーリーで、KATANAは全閉からスロットルを開ける際に、意外に無造作な操作ができる。

そうした事情もあって、KATANAで走る市街地はすこぶる快適だ。エンジンも車体も乗り手の操作に対する反応が従順で、狙った場所にスパッと移動できるから、ストレスが溜まらない。もちろんGSX-Sと比較すると、スロットル操作がイージーで、アイポイントが高いおかげで、KATANAのほうが気分は楽々。ただし、KATANAのバックミラーは左右への張り出しがかなり大きいので、スリ抜け的な走りは得意ではなさそうである。

高速道路に上がると、走行風の「いなし方」に大いに感心させられる。このバイクはルックス重視で、快適性なんか意識してないはずと思いこんでいたのだが、コンパクトなカウル+スクリーンの整流効果は秀逸で、前方からの走行風を、ライダーの周囲にほどよく散らしてくれる。

もちろん、高速域での車体の安定性は抜群で、この点はかつてのカタナに的と言えなくもない。ただし、かつてのカタナがキャスター/トレールやホイールベースといったディメンション(いずれも長かった)で安定性を構築していたのに対して、KATANAはガチッとした剛性のフレーム+スイングアームが、安定性の主役という印象だ。

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続いては峠道の話。前述した微妙な違和感は距離が進むにつれて解消していった。まず、コーナリングフォームは、オーソドックスなリーンウィズが適しているようで、体重移動を最小限に抑えたら、以後はスムーズに走れるようになった。そしてフロントまわりの落ち着きの悪さは、フォークのプリロードを1回転強くし、伸び側ダンパーを2クリック締め、ついでにリヤショックの硬さを解消するべく、こちらはプリロードを2段階弱くしてみたら、自分好みのハンドリングが得られた。

誤解のないように書き足すが、KATANAは決して乗りづらいバイクではない。と言うか、一般的なペースで走っている分には、アップライトな乗車姿勢とプログレッシブ式スロットルプーリーのおかげで、GSX-Sより扱いやすいと感じることもある。でも、スポーツライディングを楽しむためには、KATANAは乗り手の意識と車体に、何らかのアジャストが必要なのだ。その特性をどう感じるかは人それぞれだが、走り込みながらバイクとの距離を縮めていくのは、僕にとってはすごく楽しい行為だった。

こうしてKATANAでさまざまな状況を走ったわけだが、試乗後に思い浮かべたのは質実剛健という言葉。ちなみに辞書で質実剛健を調べると、「中身が充実していて飾り気がなく、心身ともに強くてたくましいさま」と記されている。飾り気はさておき「中身が充実」と「心身ともにたくましい」は、KATANAにピッタリ来る言葉じゃないだろうか。そしてそういう資質が備わっているからこそ、このバイクは潜在能力を引き出して走るのが楽しいし、飾り気を強調する手段として、カスタムに対する意欲も湧いてくるのだろう。

 

スズキ・KATANA Detailed Description【詳細説明】

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LEDヘッドライトの明るさは必要にして十分。ローで上、ハイで上下が点灯。軽快なハンドリングを意識した結果かもしれないが、スクリーンはもっと大きくてもいいような……。

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かつてのカタナが、独創的で唯一無二のコンビネーションタイプだったのに対して、KATANAの液晶メーターは現行GSX-R1000用がベース。キーをオンにすると「刀」のロゴが現れる。

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カスタム業界では多くのパーツメーカーがロータイプを開発しているものの、個人的には純正ハンドルはなかなかの好感触。バックミラー鏡面の位置は、もっと低く、狭くしたい。

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今のスズキ車は、内足と接するニーグリップ部の面の構成にこだわりを感じる車両が多いのだが、デザインを優先した結果なのか、KATANAのフィット感は僕にはいまひとつだった。

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GSX-Sと共通の並列4気筒エンジンは、マニアの間で名機と呼ばれているGSX-R1000K5~8の発展型。本領を発揮するのは高回転域だが、低中回転域だけで走っていても相当に楽しい。

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着座位置が約80mm前進したことで、GSX-Sと同じステップは、相対的に位置が後退しているはずなのだが、座面が約15mm上がっているせいか、下半身にタイトさは感じなかった。

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表皮がツートーンで後端に3本のリブが刻まれたシートには、かつてのカタナに対する敬意が感じられる。シート高はGSX-Sより15mm高い825mmで、この数値は海外仕様も共通。

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シート下の収納スペースは皆無なので、ETCユニットの置き場には悩みそう。シート裏面には格納式ループ、タンデムステップ部にはフックが備わるものの、使い勝手は今ひとつ。

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専用チューニングが行われたタイヤはダンロップ・ロードスポーツ2。GSX-S1000のタイヤは、先代ロードスポーツのOEM仕様となるD214だが、今後は共通化が図られるかも?

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スプリングレートを見直したリヤショックは、GSX-Sより柔軟性を感じるものの、運動性と快適性の向上を求めるなら、フルアジャスタブルのアフターマーケット製が必要だろう。

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スズキ初のスイングアームマウント式リアフェンダーは、国内では賛否が分かれている模様。かつてのカタナに執着しない現代的なデザインは、個人的にはアリだと思う。

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パイプ製のシンプルなサイドスタンドは、GSX-Sと共通。ただGSX-Sとは異なり、KATANAは高額車なのだから、できれば高品質なサイドスタンドを専用設計してほしかった。

スズキ・KATANA【SPECIFICATIONS】

●エンジン:水冷4ストロークDOHC4バルブ並列4気筒998cc ●最高出力:109kW(148PS)/10000rpm ●最大トルク:107Nm(10.9kgf・m)/9500rpm ●車両重量:215kg ●全長x全幅x全高:2130×835×1100mm ●軸間距離:1460 mm ●シート高:825 mm ●キャスター/トレール:25.0 °/100 mm ●タイヤサイズ:120/70ZR17・190/50ZR17 ●燃料タンク容量:12ℓ ●価格:154万円(税込み) ●カラー:ミスティックシルバーメタリック、グラススパークルブラック

※本企画はHeritage&Legends 2019年9月号に掲載された記事を再編集したものです。
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WRITER

中村友彦

二輪雑誌編集部員を経て独立し、現在フリーのモータージャーナリストとして活動中。クラシックバイクから最新モデルまでジャンルや新旧を問わず乗りこなし解説する。カスタムやレースにも深く興味を持ち、サンデーレースにも参戦する。