今作るカタナカスタムの見本となるような車両を作る
基本としている前後17インチ仕様を初めとして倒立フロントフォークやフルカスタムペイントなど、カタナ=GSX1100Sへの現代化+個性化提案とでも言うべき車両を手がけてきたACサンクチュアリー。’22年のRCM-500、’23年のRCM-588(3桁の番号は通算製作番号=シリアルナンバー)などはその一環で、前述のような個性化でも目を惹いた。カタナの動きはどうなっているのだろう。
「現状ではコンプリートのRCM製作オーダーを受けるのはやはり空冷Z系が大半、Ninjaが続く感じで、カタナは年に1台程度で、Z900RSよりも少ないです。ただ、一般的なカスタムやエンジンのオーバーホール、キャブレターセッティングといった作業は日常的にあるという状態です。まだまだカタナのユーザーさんはいらっしゃる。
そんな中で、2~3年くらい前から急激な速さで純正のエンジン内部パーツがなくなってきた。おそらくカタナ系カスタムショップの皆さんも言われてきたでしょう。それで“これはいけない”と思って、1台分の純正パーツをストックするようにしていたんです」とサンクチュアリー・中村さん。RCM製作オーダーを受けた際にパーツを待たず、いつでも対応できるようにというストックだった。
「それがカタナのオーダーがなかなかなかったのと、当店で良好なベース車両を所有していたのとで、“ならば1台、クラフトマンシップRCMで作ろう”と考えて製作に着手したんです。純正パーツは今ストックしているものがある。内燃機加工はDiNx(ディンクス。内燃機加工専門業で、ACサンクチュアリーの内燃機加工部門としても活動)で精密に行える。それなら趣味趣向を思う通りに注ぎ込んで、バリバリのカスタムで作ろうと」
中村さんの声は弾む。クラフトマンシップはRCMのうち、通常のオーダー製作車とは別にサンクチュアリーに在庫/作り置きされる車両で、ここではデモンストレーション車の意味も込めて製作された。それがこのカタナ、RCM-644だ。
「ただ作るだけでなく、各部加工も最新のものを反映して、今カタナカスタムを作るならこうしたいというテーマも込めています。デモ用とはしていますが、パーツチョイスやそのカラー、前後17インチや鍛造ピストンなどを軸にしたスペックもカラーリングも、すべて私の趣味・趣向でやっています(笑)。
完成したら受けたというか、かなりの反響がありました。2月の「ノスタルジック2デイズ2025」(パシフィコ横浜で開催された4輪旧車イベント)に展示したところ、注目度は抜群でした」
カタナと同世代の4輪ユーザーにも注目され、東京モーターサイクルショーでもBSバッテリーを扱う丸中洋行のブースで展示。そうしたデモンストレーションを行うのと並行して同店HPに販売を告知(クラフトマンシップ車は販売が前提)したところ、すぐ“ひと目惚れで”と新オーナーが決まった。
「ありがたいことですね。今のカタナカスタムは車両を大事にしたい、純正のイメージを今後も保ちたいという気持ちを反映しているのでしょう、ノーマルライクなものが多かった。それもいいけど、それだけに飽き足らない方がいらっしゃるということかと思います」
カタナを大事にしたいという気持ちは変わらない。ただ、仕立ての上で市場への逆振りを行い、眠っていた需要を掘り起こす。そんな1台と捉えていいだろう。ただ、クラフトマンシップのRCMカタナとしてはラストになりそうだということは、惜しい。それでもファイナルエディション(GSX1100SY)ベースで走行距離の少ないものであればオーダーでのRCM製作は可能とのこと。事情は変わる(プラスなのかマイナスなのかは現状では不明だ)かもしれないから、オーダーするなら早いほうがいいのは間違いがない。その時にもこのRCM-644は参考にしたいということだ。
Detailed Description詳細説明

カタナ純正をイメージしてカーボン&アルミハイブリッドでワンオフされたプレートの中央にスタックST700SR回転計&速度計、右にST3309油温計、左にモトガジェット・モトサイン ミニ警告灯を配したメーター。ハンドルはデイトナ製クランプ+バーで、オーリンズステアリングダンパーもマウントされる(「OHLINSステダン E×Mパッケージ」(仮称)として'25年秋に発売予定)。フロントマスターはブレンボ・レーシングラジアルで、ワイヤ作動のクラッチはKOH-KENメカニカルクラッチホルダーを使い。ともにレバーはZETA“RCM”コンセプトフライトレバーに置換した。

夜間走行時のコクピット部イメージ。速度や走行距離は回転計内のパネルに表示される。

カタナ純正ではステアリングマウントだったメーターはこの車両ではカウル同様にフレームマウントされ、操作系の軽快感をプラスしている。フロントウインカーは純正位置に取り付けベースをアルミでワンオフして小型のものをマウント。スクリーンはオオノスピードの「匠」を装着。ミラーはマジカルレーシング・NK-1ミラーのタイプ2ヘッドだ。

純正の赤×銀をイメージさせつつもそれとはまったく異なるグラフィックとカラートーンで仕立てられた外装のペイントはYFデザインが担当している。

カタナ純正形状をトレースしながら足着きやホールド性にも配慮してシートは肉抜き加工と表皮張り替えを行った。

シート下にはワンオフのオイルキャッチタンク、同じくバッテリーケースをワンオフしてBSリチウムバッテリーをマウント。インナーフェンダーもワンオフ品。点火系はASウオタニSPⅡでメインハーネス/レギュレーター等の電装はカタナに強くこうした製品を供給するオオノスピードの製品を使う。

エンジンはボーリング&ホーニング/シリンダー上面研をDiNxで精密加工しφ74mm鍛造ピストンで1074→1105cc化。クランクは曲がり点検修正、ヘッドもDiNxカタナ用オーバーサイズバルブガイドへの打ち替えやシートリングカット/下面研をDiNxで行う。カムはヨシムラST-1だ。また、エンジンはガンコート仕上げ。フレームはダミーエンジンを積んでレーザー測定・修正ストレッチした上でオリジナルフレーム補強/ワイドレイダウン加工/ドライブチェーンラインオフセット対応インライン処理を行っている。

吸気はTMR-MJNφ40mmキャブレターをヨシムラ・デュアルスタックファンネル仕様でマウント。ゴールド系パーツはこことフロントフォーク・インナーチューブのみに抑えられる。

現代的でハイスペックな印象を持たせた排気系にはナイトロレーシング・ウェルドクラフト3DチタンEX+ナイトロレーシング・ヴァリアントチタンサイレンサーを組み合わせた。

GSX1100S KATANA(~'99)バックステップキットはナイトロレーシングの製品。GSX1100S KATANAアルミ削り出しスプロケットカバーもナイトロレーシングでドライブチェーンはEK530RCMのBK;GP(ブラック&ゴールド)を使う。

フロントはオーリンズ2IFF5210倒立フォークをスカルプチャー・倒立E×Mパッケージ専用ステムKITでクランプ。ブレーキまわりはブレンボGP4-RXキャリパー+サンスター・ワークスエキスパンドφ320ディスク(インナーはレッド)+アレーグリ・ショルトシステムブレーキラインを選択した。

リヤブレーキはブレンボCNC 2Pキャリパー+サンスター・ワークスエキスパンドφ250ディスクでブレーキラインはアレーグリ。リヤサスはブロックピーススタビライザーを追加したスカルプチャー・ワイドスイングアームにオーリンズ・ブラックライン(SU143)の組み合わせで、ロアマウント部にエキセントリック安謝アスターを使う。前後ホイールはO・Zアルミ鍛造のGASS RS-Aで3.50-17/5.50-17を履く。