最低限のカスタムとしてタイヤとリヤサスをアップデート
アルミフレームに油冷直4エンジンという構成で、大排気量レーサーレプリカの先駆となった’85GSX-R750。前後18インチで、今のように細分化や特化はまだ少し(それでも当時はレーサーレプリカとしての特化の印象は強かった)で、オールラウンドに使える点も特徴となっていた。だから今でも当時そのままの状態で乗れればと思う向きも少なくないはずだ。そう考えたときに、このm-tech GSX-R750は大きな参考にできると言える。
現状は販売予定車にしてベース車で、m-techにとってはパーフェクトな仕上げを済ませた状態というわけではないが、基本的に必要と思える部分には手は入っている。m-tech・松本さんに、概要を聞いた。
「この試乗車は前オーナーが大切に乗ってきたものでしたので、タイヤとリヤショック以外は入庫時のままです。でも、へたった純正リヤショックで峠道を走ったときに出るような露骨なプッシュアンダーはほとんど見られません」
松本さんの言葉にあったタイヤとリヤショック以外、つまりこの2点が変更されているということで、そこに選ばれたのはタイヤがブリヂストンBT-46Vで、リヤショックがハイパープロだ。
「BT-46Vは前モデルのBT-45Vと大差ないという方もいるようですが、46Vは非常にいいタイヤで、グリップ力も乗り心地もバイアスとは思えないレベルです。リヤショックは、ハイパープロ独自のコンスタントライジングレートスプリングに惹かれた、というのが選択の理由です」
松本さんは長い間、全日本選手権や鈴鹿8耐などのレースメカニックを務めてきた経験がを持つが、そうした人はシングルレートのスプリングを好む傾向にある。だからコンスタントライジングレートのハイパープロの選択は意外にも思える。
「レースでは確かにシングルレートが基本ですが、ストリートでスポーツとツーリングの両方を楽しむなら、全域でスプリングレートが変化するコンスタントライジングレートが最適でしょう。さらにコンスタントライジングレートには、2段スプリングや3段レートで見られるような、ストロークの途中で折れ点(柔らかいレートのスプリングが機能した後で硬い方が機能するため、その切り替わり点が出る)が感じられないという良さもあります」
明確な理由のある2点の変更。それ以外にはどんな変更を勧めてくれるのだろう。
「まず、これから油冷GSX-Rを入手するなら、重整備が必要という意識を持つべきだと思います。その上でこの車両を例に取れば、次はフロントブレーキのアップグレードや、シートの内部ウレタン交換+レザー張り替え(m-techではノグチシートに依頼しているという)などですが、一般的な中古車の場合は、車両の状況やオーナーさんの好みによります。キャブレターやマフラー、ライディングポジション関連パーツなどの交換、エンジンオーバーホールを優先することもあります。
初代GSX-R750はノーマルが非常に魅力的で、当店で手を入れる場合は素性を活かすことを前提と考えていますから、タイヤの前後17インチ化や大幅なパワーアップを望むという場合は’88年型以降をベースとして選んだ方がいいでしょうね」
今を生きる純正と考えたときに必要な内容を備える。タイヤやサス、制動系のアップグレードはまさにそれで、単にレストアに終わらない、縛られない、レストモッド(restore+modify)の範疇の手が入る。そうした意味でのカスタムと捉えればいいし、それで安心して乗れるならなおいい。まずは完調プラスアルファ。この車両はそれを反映した例で、m-techならその先も考えてくれるから、車両入手の相談も含めて注目しておくのがいいだろう。
Detailed Description詳細説明

'83年型GS1000Rの意匠を再現した外装類はGSX-R750ノーマルで良好な状態を保っている。ウインカーは前後とも形状を変更し、リヤ側は取付位置をナンバーサイドからテールカウルサイドに変えている。

純正のシートのシート高はかなり低めの765mm。ただウレタン厚は十分。この車両ではグラブバーを外した上で、純正アクセサリーのシングルシートカバーを装着した。

ヘッドパイプから伸びるカウルステーとメーターをマウントするスポンジパネルは、'80〜'90年代レーサーレプリカの定番だった。m-techでは「m-tech 油冷リプロパーツシリーズ」のひとつとしてこのスポンジパネルのリプロパーツ「 メータースポンジ GSX-R750F-H」を製造・販売している。

輸出仕様で100PS、日本仕様で77PSを発揮する油冷直4エンジンはノーマル状態で、フラットバルブのミクニVM29キャブレターも同様。丁寧に扱われてきたことが分かるだろう。

GSX-R750登場当時の大型車の世界では画期的な装備だった4-1タイプの集合マフラーもノーマル状態で使う。

ボトムケース下に圧側ダンパー調整用の別室を持つφ41mm正立フロントフォークや対向4ピストンのキャリパー+φ300mmディスクのフロントブレーキもノーマルをきちんと整備している。タイヤは現代のBT-46Vで110/80-18サイズを履く。

対向2ピストンキャリパー+φ220mmディスクのリヤブレーキもノーマルを整備。リヤタイヤは140/70-18サイズだ。

アルミスイングアームとモノショックのEフルフローターを組み合わせるボトムリンクのリヤサス。Eフルフローターはスイングアームから下に伸びたプレートとリンクロッドの接続部(写真左端、大きめのワッシャ状パーツが見える部分)に偏芯カムを置き、リンク後端に接続されたショックボトムの軸跡差を吸収するもの。この車両ではm-techが日本扱い元のアクティブと共同開発したハイパープロ・リヤショック(油冷GSX-R750[F・G・H・RR]/1100[G・H・J]用)を装着する。なお、このショックはm-techで販売中だ。