手元のパーツで組んだとは思えない高い完成度と巧みな手法
1100でも750でも、空冷カタナへの油冷エンジン搭載は、手頃な高出力化の手法として活用されてきた。この3型750カタナも一見同様に思えるが、少し事情が違う。ガレージモトテックの杉山さんに内容を聞こう。
「まず、3型カタナ(GSX750S3)に乗られていたお客さんがバイクを降りられて、持っていたパーツやフレームごと車両を当店で譲り受けて保管していたんです。その後、Team KAGAYAMAがカタナでTOTハーキュリーズに参戦する時(2018年SATSUKI STAGE〜)に当店もジョイントしました。するとそのお手伝いをしてくれる人が“あのカタナがほしい”と言う。いやいや、買えるものじゃないんだけどとは思いましたが、近い人の依頼ですし、あれはレーサーだからそのままイコールでなくてもいい。じゃあせっかくならと冒頭の3型と、手元にあったパーツで作りました」
KAGAYAMAカタナ(「KATANA1000R」という名称)はオリジナル鉄フレームにGSX-R1000エンジンと足まわりを載せて、カタナ外装を加えたレーサーで、都合3タイプが作られた。
「その3種類あった車両のうち、最初に作られたタイプ1。これはCBR600RRのスイングアームとユニットプロリンクを使って作ったのですが、そのデータも手元にありましたので、参考にして製作しました」と杉山さんは続ける。KATANA1000Rはいわゆるカタナの形、こちらはリトラクタブルヘッドライトの3型。だが、両車ともモノサス、レーサーはヘッドライトがゼッケンスペースとなり、青×黒のカラーリングを施すと、意外に雰囲気が近くなっていた。
「3型カタナ自体もモノサスなんですけど、フレームはショックマウントを作りにくい構造なので、マウント不要でスイングアーム側でサスが完結できるユニットプロリンクが良かったんです。ですから、スイングアームありきです。
ただスイングアーム幅が広くて、そのままだとアンバランスでしたから、予備の書類なし3型フレームをその対策と補強に使いました。本体になるフレームのスイングアームピボットまわりの外側に、もう1本のフレームを被せるように合わせて溶接する。これで外幅を稼いで、溶接後のフレームの内側はスイングアーム幅に合わせてくり抜く。これで形もそのまま、幅を広げられました」
車両をよく見ると、クランクケース後半あたりからフレームが広がって、ピボット付近ではケースと同幅に来ているが、これが溶接&加工部分ということ。なるほどと思える手法だが、これはなかなか思いつかない。ほかにも巧みな流用による構成が見られる。
「フロントはGS1200SSステムにCB1300SFインナーチューブ+’02〜VFR(800)ボトムケースのフォーク、RG51のホイール。
エンジンはバンディット1200で、ユニットプロリンクのおかげで周囲を気にせず自然な角度に積めてキャブの着脱もしやすい。オーナーは普通の方ですけど、FCRキャブで通年普通に乗れてますし、実際私が乗っても市販車のように違和感なし。まあスペシャルパーツでなくても、こんな車両が作れます。依頼があれば同じように製作はできるけど、補強用のフレームも持ってきて」(笑)とも杉山さん。
モチーフもベース車両もさることながら、車両の放つ上々の雰囲気がこうした創意工夫と各部パーツによって作り出された点にも注目したい一台なのだ。
Detailed Description詳細説明
フロントマスターはブレンボレーシング、ワンボディワンパネルのメーターはエースウェルACE-7652。クラッチは油圧の3型カタナ/バンディット1200から、あえてワイヤ駆動に。ステアリングステムはGS1200SSのものに打ち替えてφ37mmからφ43mmフォーク対応と16/17→前後17インチ対応を行う。
シートも内部/表皮/パターンとも現代カスタム的なものに作り直し、乗車感や操作感、足着き性などを高めた。
ブレーキランプ左右にリヤウインカーを備える一体テールライトなど外装は3型カタナ純正。テールには加賀山就臣さんのサインも入る。
エンジンはバンディット1200の1156cc油冷に換装し、クラッチはワイヤ駆動化。フロントスプロケット下付近でフレームがテーパー状に広がっているが、これはもう1本用意したGSX750S3フレームを外から合わせて溶接したため。その後ろ、ピボット部では2重フレーム状態をいったん作った上で元々のフレームの内側をくり抜いてスイングアームが入るようにし、チェーンラインを確保した。くり抜いたフレーム内側は再度ふさがれて強度も確保されている。
FCRφ39mmキャブレターはスポンジフィルター仕様で使い、電装はウオタニSP2。エンジン/キャブレターレイアウトには自由度があったという。
フロントフォークはCB1300SFインナーチューブ+'02〜VFR(800)ボトムケースによるφ43mmで、これは杉山さん/モトテックと親交のあるタジマエンジニアリングの手法を参考にしたとのこと。フロントブレーキはブレンボM-4キャリパー+ブレンボ・スーパースポーツディスクだ。
リヤブレーキはCBR600RRキャリパー+サンスター・ワークスエキスパンドディスク。排気系にはヨシムラ・デュプレクスチタンサイクロンエキパイ+ハヤブサ用サイクロンサイレンサーを組み合わせた。
スイングアームはCBR600RRのユニットプロリンク。フレームにはスイングアームと、リンクのひとつの端がマウントできれば済むため、これをベースに車両製作に至れた。ショックユニットはモトテックが扱い元のアラゴスタを使う。ホイールはVTR1000SP-2(RC51)の3.50-17/6.00-17サイズを履く。ドライブチェーンはRKの520XXWだ。