17カスタムらしい外観を確実な作り込みで支える
’94年にアニバーサリーモデルが国内販売されるまで(以前は逆輸入車。このモデルから国内で普通に買えるようになった)は、GSX1100Sカタナのカスタムには手を加えたことをあまり感じさせない、純正スタイルの延長上といった仕上がりの車両が多かった感がある。独特のスタイルやカラーリングを生かす。頑丈と言われるエンジンも1074から1135ccへのスープアップとキャブレター変更で十分。足まわりは元から細身ながらアルミ角型スイングアームを持っていたから、リヤショックの変更で対処する。または、油冷GSX-R1100系からの純正流用で前後18インチホイール化するという感じだ。
そんな中で’93年頃に作られたこのワンダープロダクト・カタナは、カタナのノーマルフォルムを極力残しつつ、ヘッドライトカバー一体式のスクリーンや、強烈な個性を感じさせるオリジナルペイントなどでカスタムらしさを前面に押し出していた。だが、そんな派手な外観にばかりではなく、注目してほしいのは各部分に施された入念な仕上げだ。
フロントフォークは、フォークチューブ内部ではなく別体のユニットに衝撃緩衝機能を持たせた独特な構成によるGCB製倒立タイプ。フォークの上下動に合わせて別体ダンパーを作動させる専用の上下フォークブラケット(アッパーブラケット中央前に上側ショックマウントがあり、下側ショックマウントはボトムピースに締結されたフェンダーステーの中央にあった)はGCBがマグネシウム製のため、これをあえて7075アルミ材削り出しで作り直した上で装着した。およそ30年前という当時でも、より信頼性があって精度/強度の高いものを使うことによって、普段からもきちんと使えるようにという同店のカスタムに対する姿勢が窺える。
ホイールはマルケジーニ製中空3本スポークキャストで、フロントブレーキがパフォーマンスマシン(PM)製4ピストンキャリパーと同φ330mmフローティングディスク。これらは当時のAMAスーパーバイクにも使われていた組み合わせで、リヤもPM製4ピストンキャリパーとし、見た目と性能の両立を図っているのも特徴。
もっと細かく見ていけば燃料タンクのリッドは航空機用=今で言うエアプレーンタイプ、合わせてタンク前部にエアブリーダーを追加。さらに当時国内随一のカスタムペインターと言われたワンダースタッフ・柴田さん(故人)に依頼したペイントは戦闘機イメージを投影しながらカーボンステッカーや金箔、ラメといった技法を総動員。いわゆるフルカスタムの内容を、見た目でも作り込みでも表現と、細部まで同店のカスタム哲学を反映した。同時に、カタナ・カスタムにもある種の自由さを提案していたのだ。
Detailed Description詳細説明
スクリーンはヘッドライトカバー兼用。当時は珍しい海外パーツを探し出して車体にマッチングさせるのも腕の見せ所だった。トップブリッジとハンドル&クランプはゴールドで統一し、バーハンドル化。クランプはFZX750純正、メーターやミラーはノーマルで油温計も追加する。トップブリッジ奥側に見えるのがGCBフロントショックのマウント部。フロントマスターはAPレーシング・CP3125-2に換装した。
塗装は戦闘機風パターンに、ラメに近いメタリックブルー地のフレアを組み合わせる。“SUZUKI”のロゴは当時珍しかった金箔貼りだ。
ステム下にリンケージを新作してオイルクーラーと平行にマウントしたステアリングダンパー。あえて隠しつつ機能を高めている部分だ。写真右側にフォークチューブ別体のフロントショックユニット本体が見える。フロントがモノサス化していると思えばいいだろう。
エンジンは分解し完璧に組み直すというオーバーホールを兼ねたファインチューンを施すものの、内部は1074ccの排気量を含めてほぼGSX1100Sノーマル状態。唯一、耐久性を考慮してカムチェーンをヨシムラ製に交換している。キャブはケーヒンCRスペシャルφ33mm、排気系はバンス&ハインズのステンレスメガホン。サブフレームはOVERのアルミ製スペシャルで、フレーム本体にも各部補強を追加した。
スイングアームはGSX-R系純正アルミ角タイプで、下側スタビライザーを追加している。前後ホイールはマルケジーニ・キャスト18インチ。リヤショックはWP。ブレーキはフロントがPM=パフォーマンスマシン異径4ピストンキャリパー+φ330mmディスク、リヤはPM製4ピストンキャリパー+ディスク。フロントフォークはGCB倒立だ。