RZの市販直後に既に形になっていた3気筒エンジン
誰も思いつかないような発想と高度な加工、セッティング技術。これらが組み合わさっていることが、心に残るカスタムの要素だろうか。’80年代から’90年代頭にかけてのダイシン=大真工業・渡辺富士夫さんが手がけるカスタムは、その要素を備えていた。単に「今まで見たことがない形、構造をしている」のみならず、それが「技術的に計算されたバックグラウンドを持ち、しかも高いレベルで走る」。
そう知っていても、この3気筒RZには大きなインパクトがあった。クランクケースは2気筒のRZに左側をアルゴン溶接で足し、シリンダーもノーマルをベースに中央1気筒を追加。当初はこの中央気筒が後方排気で、チャンバーもシートカウル下に出す『4気筒風』(TZ500風と言っていいだろう)だった。ここまで大がかりなカスタムが、実は1982年、つまりRZ250登場から2年も経たないうちに既に形になっていた。今のようにPC上や3Dプリンタを使うようなことはまだなかった。発想はあったとしても、それを実際の形にするにはかなりの熱意と労力が必要だった(そんな熱と力を持った人も俄然多くいた時代ではあったが)。これだけでも大真がいかに独創的であったかが分かるというものだろう。
その後’80年代後半にはエンジンは後方排気から、写真のような通常の前方排気へと仕様変更し、この際に吸排気系も変更されたが、これだけの大作業の理由が「4気筒風に飽きたから」(同社代表、故・渡辺さん)というのも、じつに大真らしい。車体まわりはスイングアームやフロントディスク、タイヤ交換程度にとどまるものの、筑波や鈴鹿、中山などのサーキットで市販レーサーのTZ350にも決して引けを取らなかったというこのRZ・3気筒改。後に出てくる多くのカスタムに受け継がれるスピリットが、そこにはあった。
Detailed Description詳細説明
DAISHIN RACINGのステッカーが貼られたフロントフォークはRZのφ32mm。ブレーキディスクはヤマハXJ750A用の片側を流用。フロントのキャリパーサポートはアルミ削り出しワンオフ品だがブレーキキャリパー本体はRZ250ノーマル。ブレーキラインはステンレスメッシュ化している。
クラッチは乾式だが、これは「TDがTZになった('73年)頃のもの」(渡辺さん談)を加工流用。このあたりは市販レーサーTZとRZが兄弟機的だったことを考えれば分かるだろうか。ミッションはTZ用6速クロスでキャブレターは'83RG250Γ用フラットバルブをリセッティングしている。
3本並んだ排気チャンバーは大進ワンオフでサイレンサーはDICロゴ入りのアルミ。ラジエーター、ウォーターポンプなどの冷却系はTZ用を加工した。
クランクシャフトはRZ250のノーマルを加工して3気筒化&120度爆発とした大真ワンオフで、クランクケースは左側気筒分をアルゴン溶接で足した。シリンダーも中央気筒を追加、コンロッドやピストンなどはRZ250のノーマルで点火系はKH400用6Vユニットを改造して組み込む。