2ストロークの簡素ながら奥の深いエンジン形式
ピストンが上昇する間に圧縮とケース内への吸気が行われ、燃焼を挟んでピストンが下降する間に排気が行われている。クランク1回転ごとに燃焼行程が入り、それゆえに同じ回転数で4ストロークより高いパワーを発揮できる。それが2ストロークエンジンだ。
4ストロークではピストンが下降する過程でシリンダーに混合気を吸入、下死点を通過して上がる間に圧縮、ここまでにクランクは1回転し、燃焼が起こる。そこからもう一度ピストンが下がる過程で力がクランクに伝わり、再度ピストンが上がる時に排気される。クランク2回転=ピストンが2往復、4度のストロークを行うことでひとつのサイクルが完成する。
この行程を制御するのは、4ストロークならクランクに連動するカムやバルブまわりで、かなりのところで出力や特性の数値化ができる。対して2ストロークでは、吸入や排気はシリンダーとピストンスカートに開けられたポート(ピストンサイドに掘られた溝を使う場合もある)の高さや広さでタイミングや吸入量が変わる。
▲1980年代以降で中核的だったピストンリードバルブ式をベースに各部を説明。写真は1994年型YZ125で、混合気がクランクケースに導かれてクランクで圧縮、シリンダーに送られるクランクケースリードバルブ式。排気デバイスはともにYPVSだが、左のDT125Rと異なりエンジン回転数により遠心力で動くガバナによって排気ポートに斜めに板が出入りしてポート高さを変えるギロチンタイプが使われている。
混合気は1度クランクケース内に入り、そこでクランクウエブが1次圧縮しその圧力でシリンダー内に混合気が流入することになる(4ストだと吸気バルブが開いて、シリンダー内負圧でそのままシリンダーに混合気が引き込まれる)。その後シリンダーで通常の圧縮が行われる。燃焼後の排気も、この1次圧縮混合気がシリンダーに入ってきながら燃焼済みガスを追い出す掃気で行わ
れる。
話はそれだけで終わらず、排気チャンバーからの反射波で燃焼済みガスが引き出されるなど、シンプルな作りに見えて影響し合う点も多いことは知っておきたい。 部品は少なくシンプルながら、それゆえにすべてが数値化できるものでもない。ただ、きちんと手をかけて組むこと、手を入れてやることで2ストロークは完調になり、シンプルさから来る軽さやコンパクトさ、そして毎回爆発でのハイパワーも生かせるわけだ。
2ストローク 4つのエンジン形式
2ストロークの基本的な型式4つを紹介する。2ストロークを知る、これから手を入れる助けになればいいだろう。
【ピストンバルブ】
2ストの吸入形式で最も簡素なのがピストンバルブ。シリンダー壁面に設けられたポートを、ピストンスカートで開閉する。混合気はピストンでクランク側に流れ、1次圧縮されてピストン上に出ていく。マッハシリーズはこれだ。
【クランクケースリードバルブ】
クランクケース内に起きる負圧を使ってキャブレターからの混合気をケースに導入する形式。ピストン位置にかかわらずケース内が負圧なら混合気を引き込めるため、扱いやすさを高めるのに適した。TZR250以降の主流だ。
【ピストンリードバルブ】
吸気抵抗は低いが低回転時の吹き返しが多いというピストンバルブの難点を解決するためにワンウェイの弁=リードバルブ(図でのオレンジ部分。実際は薄い板)を加えたのがピストンリードバルブ式。ヤマハRZなどはこれ。
【ロータリーディスクバルブ】
クランク端にクランクと等速回転するディスク(吸気用の穴がある)を設け、クランク横に開いた吸気ポートを開閉してクランクケースに混合気を吸入する方式。吸気抵抗は少ないがレイアウトに制約がある。KR250はこの形式。