「人の振り見て我が振り直せ」とは少し違う気がするけれど、他人が所有する同じ系統のバイクに試乗することで、自分の愛車の欠点や進むべき方向性が見えて来ることは少なくない。そんなわけで今回は、友人の1KTとTDRに乗っての感想を紹介しよう。
これまでに何度か記したように僕のヤマハTZR250・1KTと、近年のTOT・ZERO-4で上位を走るNSR勢や4ストマルチの間には、10~20㎰前後のパワー差がある。だから最近の脳内は、とにかくパワー、モアパワー。「I’ve got……じゃなくて、I want the POWER!」 なのだが、2月上旬にふたりの友人の愛車で1KTエンジンを体感したところ、ホントにそれでいいのか? という疑問が浮かんで来た。
ひとり目の友人は小川友広さん。僕と同じ1KTを駆って最近のTOT、ZERO4で目覚ましい活躍を見せている。小川さんは’75 年生まれで現在45歳。若き日にRG125ΓやRS125R で地方選手権に出場しながら、昔からずっと続けている趣味はミニバイクレース。自らの手でレストア& カスタムを手がけた1K TでZERO4への参戦を始めたのは’13 年からだ。
そんな小川さんの1KT、過去にコース上で遭遇した時にはさほど速い印象はなかったが、2019年秋のKAGURADUKI-STAGEで、僕より2秒以上速い1分4秒404をマークしたことを考えれば、ある程度以上のパワーが出ているに違いないと思っていた。
ところがなんと、小川号のエンジンはノーマルで、パワーは中村号と同等だったのだ。小径のPWKφ28㎜キャブを採用しているからか中回転域のレスポンスはすこぶる良好で、コーナーの立ち上がりではスムーズに力が湧いてくるし、フロントブレーキの利き方が分かりやすいから、コーナー進入ではかなり奥まで突っ込める。その一方で最高速は僕の愛車と大差ない180km/h弱。となると、これはもう単純に、タイム差=腕の差ってことじゃないか……。
「どうでしょう(笑)。それは何とも言えませんが、パワーと最高速でNSRやZX-4などに勝てないことは分かっているので、僕はコーナリングスピードを重視しています。キャブレターのボアを大きくしないのも、フロントブレーキと前後ショックにお金をかけているのも、すべてはコーナリングのため。そう考えるようになった理由としては、エンジンをいじるとお金が無尽蔵に出て行きそうという事情があるんですが、ノーマルエンジンの可能性を示したい、ノーマルエンジンでもZERO-4が楽しめることを証明したい、という気持ちはあります」(小川さん)
続いて紹介するふたり目の友人は、こちらもかつては地方選手権に参戦していたライダーで、現在はライディングアパレルで知られるヒョウドウプロダクツの営業マンとして働く堺 克史さん。RZV500RやTZR250R・3XVなど、これまでに数多くの2ストを愛用してきた堺さんは、数年前に友人からTDR250を譲り受け、自らの手でレストア&カスタムを行ったそうだ。
そして堺さんのTDRを体験した僕は、1KTのノーマルエンジンの完成度の高さを改めて実感し、小川号に乗ったときと同様に、中回転域のレスポンスに感心することになった。ただ、そのこと以上に興味深かったのは、TDRを走らせる僕の姿を後ろから見ていた、堺さんの言葉である。
「こういう試し乗りだと当然かと思いますが、中村さんはスロットル操作が、ちょっとラフな気がしました。なぜそう感じたのかと言うと、実は最近、僕は燃費に凝っていて、丁寧なスロットル操作を意識してみたら、それ以前より格段に良好な、25km/ℓ前後がマークできるようになったんです。これってキレイな燃焼が行われていることの証明でしょう。レースでは気持ちがはやるので早く全開にしたくなりますが、例えば筑波のバックストレートで、キレイな燃焼を意識して丁寧にスロットルを操作したら、意外に最高速が伸びるかもしれませんよ」(堺さん)
ふたりの愛車を体感した僕の脳内ではパワーよりも、キャブの小径化とフロントブレーキの刷新、そしてスロットルの開け方を検討するべきか? という考えが浮かんだものの、やっぱりパワーがあるに越したことはない……とも思う。何と言ってもパワーがあれば、テクニック不足を補えるからなあ。
小川郷のベースは'85年型。フレーム+スイングアームと燃料タンクはスタンダードのまま。フルカウルは才谷屋の3MA用で、テールカウルは'87年型TZ250用だ。ラジエーターに走行風を導いてくれそうなフロントフェンダーは、VT250Fがベース。最上段は同車をライドする小川さんだ。
カウルステーは'80年代中盤のTZ250用。デジタル式のタコメーター/水温計/電圧計はデイトナで統一している。
ジアル式フロントブレーキマスターはゲイルスピードに換装。レバーガードはTTSで、スロットルは3XV用だ。
エンジンはフルノーマル。ポート加工や圧縮アップなどは行われていない。チャンバーはSP忠男、サイレンサーはOXレーシング。ラジエーターは'88年型NSR純正を流用している。
キャブレターは純正と同径のケーヒンPWKφ28mmをチョイス。イグニッションコイルはASウオタニを使う。
φ39mm正立フォークの内部には、テクニクスのカートリッジダンパーTASCを導入している。フロントキャリパーはブレンボレーシング4Pで、φ320mmディスクは純正パーツだ。
2.75×17/3.50×17の前後ホイールは、2XT/R1-Z用純正品の流用。リヤショックはナイトロンR3の特注品。チェーンはDID520ERV3で、スプロケットはXAM。インナーリヤフェンダーはCBR250R(MC41)。バックステップはバトルファクトリーの他機種用を加工して装着している。
'88~'90年に生産されたTDR250は、RZ-R系がベースと思えるスチールダブルクレードルフレームに、1KT用の2ストパラツインを搭載するデュアルパーパス車。本来の前後ホイールは18/17インチのスポークだが、堺さんの愛車はFZR250用の前後17インチキャストに変更される。フロントブレーキキャリパーはヤマハ純正ブレンボ。本文で述べたエンジンの扱いやすさに加えて、フロントの車高が下がっているのに、違和感がほとんどないのも印象的だった。