前週までのヤマハTZRヒストリー、お楽しみいただけただろうか。ここからは今一度2018年に時を巻き戻して、ここからは’18年SATSUKI-STAGEへの参戦に向けたレポートをお届けしたい。そう、ふと気づいたらこの時点で5月のTOTまでに残された期間は3カ月だった。これはウカウカしていられないと思った僕は、久々にサーキットに出かけ、以前から気になっていたゼロポイントシャフトのテストを行ったのだ。
前後アクスルやスイングアームピボットシャフトの材質変更が、ハンドリングに多大な影響を及ぼすことは、以前から知っているつもりだった。とはいえ、まさかここまでの変化が起きるとは……。
もっともその背景には、最近の僕がフロントまわりの接地感を猛烈に欲していた、という事情もあるかもしれない。でもPEOが販売するクロモリ製のゼロポイントシャフトがTZRにもたらしてくれた変化、と言うか効果は、僕の予想を大幅に上回ったのだ。
いや、初っ端から熱い思いがほとばしる原稿を書いてしまったが、そもそも僕がこの製品に注目したきっかけは、WEBサイトで読んだ、PEOの紹介記事だった。それを読んだ僕は、丹念と表現したくなる製造工程や、ラインナップの豊富さ、代表を務める水田さんの真摯な姿勢に大いに感心。だからTZRで試したいと思ったのだが……とりあえず予算の都合があるので、まずはフロント用のみを使ってみることにしたのだ。
純正アクスルとの比較テストで、僕が感じたゼロポイントシャフトの美点は、フロントまわりの剛性が上がり、さらには前輪から乗り手に伝わって来る情報の量と鮮度が上がったことである。イメージ的には、ステム上下+フロントアクスル+2本のフォークが作る“日の字”がかなり強固になったようで、逆にその感触を体験すると、純正の“日の字”が、フルブレーキングやコーナー進入時、路面の凹凸を通過した際に、微妙な変形をしていたことに気づく。そしてその変形が、乗り手にとっての不安やビビリにつながっていたことを考えれば、ゼロポイントシャフトは、安全性と安心感、さらには速さにも貢献するパーツなのだ。
もっとも今回のテストは1日中気温がヒトケタだったため、明確なタイムアップはできなかったけれど、春になれば結果が出せそうな気がするし、できれば2018年5月のTOTまでには、リヤアクスルも同社製に交換したいところである。
そんなゼロポイントシャフトに、あえて不満を述べるとしたら、“日の字”が強固になりフロントフォークのネジレが少なくなったため、相対的に伸圧ダンパーの利きが弱くなった、と感じたことだろうか。もちろん、この件はセッティングで対処すればいいのだが、さらなるグレードアップを図りたい僕としては、テクニクスが開発したカートリッジダンパー、TASCの投入を検討しているのだった。
すべての端面がビシッとしているゼロポイントシャフト(左)と比較すると、純正アクスルのフランジやネジ部(右)は、何となくピントが甘いように見えてしまう。なお、本文ではフロントまわりの剛性感/接地感の向上を強調したが、PEOがゼロポイントシャフトの製作時に最も重視しているのは、ホイールベアリングの潜在能力をきっちり引き出すことだという。
シャフトの中央にはロゴマークとMADE IN JAPANの文字が刻まれている。素材はクロモリ鋼のSCM435Hで、中空加工後の熱処理には独自の技術を導入。シャフト径の製造管理基準は1/1000mm以内で、表面には特殊な3層めっきが施される。ラインナップは超が付くほど膨大で、ワンオフ製作にも対応している。
テクニクスが展開しているTASCは、純正フロントフォークを対象としたグレードアップシステム。具体的には、昔ながらのダンパーロッド式フォークのインナーを、現代的なカートリッジ式に変更するのだが、このモディファイを受けると、外部からのダンパー調整も可能になる。現在のラインナップに旧車用は存在しないのだが、ワンオフ製作という形での依頼も少なくないようだ。