レースやストリートに! ゼファー750/1100のカスタム最新手法 前編
ネイキッド・ゼファー750/1100の可能性を追い求める
ゼファーの可能性を高めるエンジンへの手法
他の多くのカスタムショップ同様に多くの車両に対応しつつも、自らの得意分野のひとつにはっきりとゼファーシリーズを掲げるのがバグース! モーターサイクル。2018年末にはノーマルゼファーの販売と整備に特化した姉妹店のソイルマジックをオープンしたのも、記憶に新しい。そしてタイトル写真のレーサーは両店の代表・土屋雅史さんが、2018年のTOT・ZERO-1クラス用に仕立てたものだ。
「一番新しいところでは850仕様も耐久性が確認できましたので、シリンダーピッチなども見直して、次となる903cc仕様を形にしたんです。ピストンはφ73mm(STDφ66mm)。ただ諸事情で、TOTでは今までの850cc仕様に戻すことになったんです。
ピストンはピスタル製のフラットトップで、これに合わせるように燃焼室も埋め直して加工して、13.5前後の設定。ところがシリンダーが過去何度か面研してたものを使ったので、狙ったより圧縮が上がってた。それで練習中に棚落ちして。その部分はZERO-1開催前日の夜には修正できましたが、別のトラブルで結局、出走はできませんでした」
こうした背景で出走は見送られたが、この850cc/ツインプラグ仕様には、グースでは既にストリート版を含めた実績が何例もある。そして750レーサーには、ほかにもいろいろな手法が見える。燃料タンクはインナータンク+カバーだが、このカバーをエグレのある1100用にすることで身体のホールド性を高めるのがそのひとつ。FCRキャブレターも大口径気味のφ37mmを装着。
「従来はスロットル操作に対するツキの良さを狙って小径方向のφ33、35mmを選択することが多かったですが、あえて大きめを組み合わせた時にどんな特性になるかを実際に知りたかったんです。このφ37mmは手応えがあって、行ける感じはしています。ちゃんとトルクも立ち上がるし、パワーもある。
ほかにも前後サスはハイパープロですがシングルレート(同社製は本来、リニアライジングレートが持ち味)だったり、リヤサスがプロトタイプだったりします。定番品ならデータもあって間違いもないですが、そうでないものを使った時のことをしりたかった。
エンジンもツヤあり仕上げ。レーサーでは放熱性重視でザラザラした表面のブラスト仕上げなどにしますが、放熱しにくいと言われるツヤありがどこまで放熱しないか知りたい。オイルクーラーも一番冷えるのがゼッケン近くと分かってますけど、ストリートカスタムのユーザーと同じで分かりやすいシリンダー前に。フレームも塗ったり、外装ペイントも同様です」
▲バグースモーターサイクルは東京と神奈川を結ぶ第三京浜道路の港北ICから出てすぐとアクセス良好。代表・土屋雅史さんはユーザーを飽きさせないよう常に新しい手法にも目を光らせる。
だから今回の圧縮の件も一見失敗に聞こえそうだが、土屋さんにはそうではなかった。負け惜しみや誉めそやしでなく、どこまでやると駄目かというデータの積み上げになったからだ。そんな、定番でない時にここまで行けるとか、この手法はこういう結果が出る、ここまでが限界と知る……などのトライ的なやり方がたくさん、このレーサーには込められていた。
「903cc化は今冬に新しいピストンを作る予定です。こちらで燃焼室形状も決めていて、それに合うもの。既存メーカー製もいいのですが、オリジナリティを出したいのでイギリス・オメガ社と打ち合わせを始めています。シリンダー側の余裕も確認済みで、810、850仕様の先も楽しめるようになるはずです。
シリンダー側にもめっきの次と目される、ミラーフィニッシュ=溶射式(内壁素材をシリンダー内側から爆発させるような形で内壁にコーティングする)を見つけてます。内壁表面がつるつるにできて内部抵抗が減る。クロスハッチもなくなり、圧力抜けは起こりにくくなる一方で、溶射で大小さまざまなディンプル状素材が付いてそこに油膜が保持されます。ディンプルが減っても新しい接触面が出てくるので寿命も長くなる。1100レーサーでもテストしてますので、供給も早くできそう」
意外と言えるほどに新しく、幅広いトライもレーサーを軸に、ストリートへの転用を考えながら進められていた。これは楽しみだ。
→後編へ続く
ゼファー750のTOT参戦レーサー詳細
750エンジンの限界を引き上げる排気量拡大策
φ66×54mm /736㏄のゼファー750エンジン。その排気量上限はピストンや燃焼室加工の進化で810㏄、850ccと進み、Bagus! ではφ73mm /903cc化もおこなっている。850cc仕様でも燃焼室は埋めた後にプラグ穴を2個新設/内部NC切削加工でオリジナルの形状を持った燃焼室形状を作る。
ピストンも鍛造品。左はヴォスナーでこの形状はSTD燃焼室形状に合わせたもの、右は使用中のピスタルでフラットトップのため前述のように燃焼室を加工を施す。ともにφ73mm。
本文中の溶射式=ミラーフィニッシュシリンダーの例で、鏡面のように平滑な仕上がり面(ミクロ的には大小の鉄系ディンプル)によって抵抗と摩耗を減らし長寿化するという。Bagus!では現在テストが進んでいるとのこと。
750の可能性を追ったバグースレーサーの細部
メーターはAIM製マイクロン5。回転計の配線を取れば接続できる簡便さもある一方で、増設もカプラー式で容易な上、追加モニタも不要。STACK製も使えるがデータ収集用にシンプル化を図った。
タンクはインナー式で、カバーはエグレでホールドしやすくする1100用を選択。塗装はTMガレージ。セパレートハンドルはギルズツーリング。
フレームは750ではこのレーサーのような高負荷の場合はネックまわりに補強を施すが、ストリートではなくても問題はない。オイルクーラーはエンジン前に置いてストリートとの連携性を高める。
エンジンは850㏄仕様で燃焼室新作やツインプラグ化ほか、必要なことはすべて行った(土屋さん)仕様。キャブレターはあえて大きめのFCRφ37㎜を使うが、トルクの立ち上がりは良好という。
「何度か仕様は変更していますが変わっていないのはここくらい」というのはホイールで、マルケジーニM10S(3.50-17/[4.00→]5.50-17)を履く。
前後サスはハイパープロ製で、スイングアームはプレスフォーミングタイプを使う。
シート下にはオイルキャッチタンク+小物入れ(販売中)転用のバッテリーケースが置かれる。
■取材協力・Bagus! Motorcycle
※本企画はHeritage&Legends 2020年1月号に掲載されたものです。
レースやストリートに! ゼファー750/1100のカスタム最新手法 後編はコチラから
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