SACSからSOCSへ。スズキの油冷エンジンに迫る 前編
スズキ油冷エンジンの歴史と思想とは
空冷と水冷の利点を生かした初代油冷
2019年に開かれた東京モーターショーのスズキブースに展示された2輪車用エンジンは、ひとりで抱えられそうなくらいにコンパクトで、軽そうだった。本体左横には、縦置きのスリムな9段の冷却コア。その内部を走るのは冷却水ではなく、オイルだと説明がある。
こう聞いてバイクファンなら「油冷」を想像することだろう。正解だ。ただこの新エンジンは、これまでの油冷とは異なっていた。それがなぜ、投入されたのか。それを知るには、まずはかつてのスズキ油冷(以下、初代油冷)エンジンを知るのが良さそうだ。
▲2019年に開かれた東京モーターショーのスズキブースに展示されたGIXXER250/SF250用250cc新型油冷エンジンのカットモデル。
初代油冷エンジンの誕生はもう35年も前となる、1985年。750㏄用として開発された。その頃=1970年代末から1980年代にかけてはバイクの一大進化期にあって、この頃に燃焼効率の高まりや排気量の拡大、設計・製作技術の向上によるエンジンの大出力化が、さまざまな手法でトライされた。
一方で、大出力化にともなう発熱をどう処理するかも研究が進む。燃料を燃やしたエネルギーがピストンを押して出力となるが、そこには最適な温度がある。熱が溜まり過ぎれば出力は下がるし、混合気の気化や、構成各部分に対しても悪影響が出てくる。
基本的にむき出しのエンジンをそのまま外の空気で冷やす空冷ならばシリンダーにフィンを切って放熱面積を増やす。さらにそこに、一番熱の出るシリンダーヘッド=燃焼室まわりと、シリンダーのスリーブまわりに水路を設けて冷却水で冷やす水冷が登場した。
▲2019年の東京モーターショーで新型油冷エンジン搭載のGIXXER SF250を紹介する、スズキ社長の鈴木俊宏氏。
温度を適切に維持しやすいという点でも水冷は有利。ただ、冷媒としての冷却水を、燃料やエンジンオイルとは別経路で循環させ、熱を持った冷却水を外気に露出させて冷やすシステム(ウォーターポンプやラジエーターなど)が必要となる。それは重量やスペース面では不利となってしまう。
当時のスズキ開発陣は、750㏄でリッター並みの100ps、乾燥170kgという車体重量を設定し、エンジンに必ずあるエンジンオイルを冷媒に積極的に活用する手法を導き出した。ヘッドカバーに通路を設け、冷えたオイルを大量に回し、上から燃焼室裏=バルブまわりに大量に吹き付ける。オイルクーラーこそ追加されるが、他の付加部品はほとんど要らない。しかも、要求性能を達成する。ここに、水冷より軽く、空冷よりパワーが出せる油冷が生まれた。
→後編へ続く
スズキ・油冷モデルの歴史
1985 GSX-R750( F)
400㏄クラスの軽さにリッターパワーを現実化した初の油冷モデル。それまでのナナハンが乾燥200kg、空冷で75ps程度だったところに170kg、100psの目標を掲げ、それを実現したのが油冷エンジン。軽くシンプルで高出力はどのモデルにも合った。
1986 GSX-R1100 (G)
GSX-R750登場の翌年に送り出されたGSX-R1100(G)はナナハンでの成功をリッタークラスに持ち込んだもの。1052㏄から130psを発揮、乾燥197kgで今で言うメガスポーツ的な存在に。
1989 GSX-R750R (K)
油冷750は1989年の限定車RKでひとつの完成形となる。
2005 GSX1400
当初はレースベースにも多用されたGSX-R750/1100だがレースで増加する発熱に対処するべく1990年代初頭には水冷に移行。それでもツアラーやネイキッドを軸に油冷は転用され、2001年(2008年まで展開)にはGSX1400を追加。
2006 BANDIT1200/BANDIT1200S
写真はBANDIT1200。GSX-R1100系油冷は2006年型Bandit1200/Sまで使われた。
2019 GIXXER 250
ジクサーSF250とジクサー250は2019年5月にインドでの上級機種として開発・発表され、人気を博しているモデル。既に展開中のGSX250R(2気筒)やジクサー(空冷155㏄単気筒)のある250㏄クラスに加わり、スズキはこのクラスで強力な布陣を持つことになった。
2019 GIXXER SF 250
2019年の東京モーターショー、スズキのプレスカンファレンスで鈴木俊宏代表取締役社長がお披露目したフルカウルのジクサーSF250。ネイキッドのジクサー250とともに、この新油冷エンジンを積んで国内展開された。
※本企画はHeritage&Legends 2020年1月号に掲載されたものです。
SACSからSOCSへ。スズキの油冷エンジンに迫る 後編はコチラから
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