お気に入りのオーリンズを最適オーバーホールで一生の友に!
最適なオーリンズのメンテナンスとは?
サス・オーバーホールは摺動部品の交換が大事
「そもそも純正ショックの場合、サービスマニュアルにメンテナンス方法なんて書いてないですよね。ショックのコンディションを目安に丸ごと交換するのが前提だからです。しかし、例えばカワサキZのように生産から40年以上経つ車両でも、サスペンションからオイル漏れを起こしてないという理由で使い続けるライダーもいる。でもそれは当然、必要とされる性能は出ていない状態で使い続けている訳で、愛車の本来持つ性能をフルに堪能できていないと思います」
そう切り出したのは、オーリンズサスのメンテやオーバーホールなど担当する、ラボ・カロッツエリアのサービス課所属の、伊藤さんだ。
▲フルアジャスタブル・ツインショック・S36PR1C1Lのオーバーホール作業を見せてくれたのは、ラボ・カロッツエリア技術部・第一サービス課の伊藤明雄さん。同社での二輪車用製品のメンテ&オーバーホールほか、セッティング・アドバイスも行う統括役でもある。
「一方で、オーリンズなどのいわゆるスポーツ・サスペンションはその域に満足できないライダー、より高度な動きを欲する層に向けた製品で、モータースポーツユースはもちろん街乗りでも、より細かなセッティング幅と精緻で細やかな動きが要求されるんですね。すると当然ながら、各部品への精度要求も高くなり、摺動部を司るパーツやシール類もしなやかな動きに直結する素材が求められる。だから、定期的なオーバーホールで、その性能を維持し続けることが必要となるわけです」
それでもフロントフォークは、定期的なオイル交換が一般整備のメニューに含まれるので、合わせてのシール類やメタルの交換もなされやすいからいい。リヤショックは分解整備が一般化していない(純正サスは分解整備できないものが多い)から、おざなりになる。
「もちろん、ショック内のフルードを交換することも大事ですが、本当に必要なのは各部のシールやメタル類など、劣化した摺動パーツの交換の方です。分解整備の様子を見てもらえば明らかですが、サスの内部と外気を遮断しているのはOリング類で、それがどんなに精緻に作られた新品であっても、100%密閉を保つのは不可能。さらにそれが劣化すれば、次第に性能は下がり、フルードが漏れれば油量が減りガス圧も低下する。これは知っておいてほしい。
よく『オイルが漏れたからリヤショックをオーバーホールしてほしい』という依頼を受けることがありますが、これはオーバーホールというより修理。我々の考えるオーバーホールとは、サスが与えられた仕事をこなせる、最善の状態を維持し続けるためのメンテナンスなんです」
▲東京・足立区の環7沿いにある、オーリンズ・サービスセンター「ラボ・カロッツエリア」。全国の同社製品販売店から依頼される、サスのメンテ&オーバーホール、仕様変更などを担当。国内で開かれる2&4輪の各種レースに向けてのレーシングサービスを展開する拠点にもなっているのだ。
同社が推奨する前後サスの、ストリート使用でのオーバーホール・サイクルは、2年/2万kmが目安。より精密なパーツで構成されるステアリングダンパーなら1万kmが目安だという。
「例えばリヤショックなら、不適切な装着や大きな事故でもしない限り、ボディ本体が歪んだりロッドが曲がったりすることはない。費用の目安はツインショックなら、フルード交換、窒素ガス充填、オイルシール、ピストンリング、スライドメタル交換料を含み、基本料金は3万円(税別)。定期的なオーバーホールさえ行えば、まさに一生もの。そして、それがオーリンズ・クォリティなんです」
付け加えれば、サスは精密部品の集合体(システム)であり、オーリンズは同社の思想・技術の下、各パーツからフルードなど素材まで吟味して、各車種用を市場に送り出している。そのどれひとつが欠けても、それはオーリンズ製品ではなくなるという。ラボ・カロッツエリアがオーリンズ社の技術講習を履修した専任スタッフを揃え、作業を行うのもそのためだ。
「オーリンズは、完全なスタンダード状態を基に、サスペンションに関わるデータを採り製品化してきたことで、皆さまの支持をいただいています。だから、そこは譲れない。体重だったり、乗り味だったり、どうしてもセッティングが決まらない……とお悩みなら、弊社(ラボ・カロッツエリア)まで、お気軽にご相談ください。仕様変更も含め、最適解を探すお手伝いをさせていただきますから」
オーバーホール作業の重要性とリヤショックの仕組み
最初に行うのは、専用コンプレッサーに載せてのスプリング取り外しと、リザーバータンク内の残留窒素ガスを抜く作業。サンプルサスの走行距離は不明だが、ロッドにフルードが滲むなど、使い込まれた状態。
リザーバタンクのカバーを専用工具で外す。Oリングで遮断されるが、キャップ外周にはゴミが付着していた。
タンク内に充填される窒素ガスとフルード間を動くフリーピストン(シルバーのパーツ)を引き抜いているところ。
本体側のピストンを引き抜く。注目したいのはタオルで覆った上に吹き出る泡。本体内に混入した空気でキャビテーションが起きているのがすでにこの時点で分かってしまう。
本体、リザーバータンク双方でキャビテーションが……。サスボディ内はOリングで外気と遮断されているだけ。外気混入を100%遮断し続けることはできずキャビテーションが起き、結果、減衰力とその特性に悪影響を及ぼすことになる。使うほどにエア混入が進むから、定期的なオーバーホールが要る。
減衰を司るシムにも汚れが付着する。
使用済みフルードの汚れ具合は写真のような感じになっていた。
交換されるOリングやスライドメタル、クリップ類。左は使用済みで右が新品のグループ。
分解した減衰調整パーツ群を並べたところ。
分解されたパーツは超音波洗浄機も併用して、脱脂・洗浄される。
ロッドは洗浄後に研磨する。
油脂類もすべてオーリンズの指定品が使われ、組み立て作業は進められる。
伸び側減衰力アジャスターダイヤル内にグリスをたっぷりと。このグリスが枯れるとクリック時のカチカチ音が高まり、組み立てから時間経過しているのが分るとか。
本体組み立て後、真空引きを行いながら本体にフルードを同時注入する専用機械。この後、リザーバタンク側に規定量の窒素ガスが封入されるのだ。
エンドアイのブッシュも新品に交換。外したブッシュは破れ偏芯していた。スイングアームからリヤショックにかかる入力を受けるブッシュの劣化は、性能低下に直結する。
取材協力・ラボ・カロッツエリア
※本企画はHeritage&Legends 2020年1月号に掲載された記事を再編集したものです。
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