J系ヘッドのメリットを生かしたカワサキZカスタム 後編
カワサキ・Z系エンジンの信頼性を高める各パーツと加工
ーー前編に続き、ブルドックにJ系ヘッドのメリットを生かしたカワサキZカスタムについて聞いていこう。
オリジナルパーツはGT-Mに組み込むために製作されたもの。例えばピストンとシリンダーは、現在のGT-Mではφ76mm(1200㏄)やφ77mm(1230㏄)とZとしては大きめの排気量が好まれている。これを支えているのがピスタルレーシング製の鍛造ピストン。それから超々ターカロイ鋳鉄製シリンダースリーブだ。ピストンは現代的な形状で複雑な肉抜き加工や裏側のブリッジ形状といった現代的な形状の多くを鍛造で成型しつつ、Zでの使用時に首振りのない特性で製作。
スリーブも素材自体が現代的めっきシリンダーに比肩する耐摩耗性がありかつ内径がφ76、φ77mmという大径でも強さを維持し、外面に施された銅めっきで熱伝導性やシリンダーブロックへの密着性を高めている。これらのパーツは和久井さんがZにより良いものを探している際にPAMSの紹介で巡り会い、定番化したものだった。
ピストントップ形状も、自社で作ったカム作用角/バルブ・ピストン干渉測定用ダミーエンジンで検討された。
「圧縮比も測ってみると、公表値と違うものも市場では割と多いと分かるんです。バルブリセス(ピストントップに設けられたバルブの干渉予防凹部)が正しく切られているかが圧縮比に影響します。先のピスタル製はこの形状と深さを正しく取っている。Z系もJ系もドーム型の燃焼室ですが、リセスをきちんと取ることで、ピストントップを大きくせり上げなくても狙う圧縮比が出ることも分かってます」とブルドック・和久井さん。
大物パーツでは、クロスミッションやクラッチ。発電系も新しい。ミッションは2013年から5速と6速の2タイプをラインナップし、既に100を超えるユニットを送り出して好評だが、これも改良が進んでいる。
「ギヤ部だけではなく、シフトドラムまわりも新作したんです。これまでは中古良品を探して加工してシフトをスムーズ化するなどしてましたが、どうせならと。中空で肉抜き軽量化し、左右支持部もベアリングにしました。シフトロッドも純正で廃番なものですから新作しました。今までは修正研磨で使いましたが、比べると滑らかさがまったく違います。
これらによって、オリジナルミッションの良さがより生きます。今までより滑らかで、気持ちよくすっと入る。最適ギヤ比にしてましたし、素材やクリアランスなどの精度が上がったことでエンジン振動やノイズが減らせていたのが、シフトフィールまで一気に上がる。ニュートラルも出しやすいし、エンジン自体で狙っている扱いやすさも強化されました。
新しいTSS製スリッパータイプクラッチもライダーの不安を抑えますから、6速とパッケージとして使ってもらえれば、もう今のバイクと変わらないくらいです」
ほかにもシフトブッシュやニュートラルポジショニングレバー、ポジショニングプレートといった細かいパーツも新作し販売中だ。
「この辺は細かいパーツで、ポジショニングプレートはシフトドラムの位置決めをするだけなのになぜか見失ってしまうパーツ。それも探すのに時間を取られるよりは、もう用意したので買って使ってもらえればいいと思うんです。これからZは角でも丸でも、パーツがなくなっていく。GT-Mもそうですが、長く乗ってもらうにはそんなパーツは欠かせない。ならば、作ってしまおうと。
しかも作るなら、機能や質は純正以上にしたい。それは部品を見てもらえば分かると思います。発電や充電を担うダイナモワンウェイクラッチキットもその一環です。 オイルポンプにしても突然圧が落ちるなんてケースがありますし、使い込んだら劣化しますので、これも圧送量を増やしたものを発売予定です。期待してください」
上の車両はそんなパーツ群の多くが組まれた最新作。自社での内燃機加工も含めてJ系ヘッドの優位性を活用しつつ、Zという40年超の車両に現代的な安心感や乗りやすさを加えて仕上げる。それは同店が1年間または5000kmの保証を車両に付けていることも分かる。
J系ヘッドの優位性。それはこのようなパーツや作業での下支えがあって、存分に生かされるのだ。
J系ヘッドのメリットを延ばす新作・改良・補充パーツ
Mccoyブランドで送り出される多くのオリジナルパーツ。ブルドックが純正代替で作るパーツ、そして自社内燃機加工。J系ヘッドのメリットはこうしたパーツや作業で実益となっていく。
シフトまわりショートパーツもひと工夫加えて作り直す
上はニュートラルポジショニングレバーで、J系以降で最上段写真のようにシフトドラムの凹部に入ってニュートラルを位置を検出する。
向かって左のSTDはリベットにリングを通してかしめただけで、使用にともない摩耗で偏芯しガタも増えてニュートラルが出しにくくなる。右のブルドック製ではここをボルト(裏側カット+スポット溶接)+ベアリングとしてずっとスムーズにニュートラル出しできるようにした。
求めるトップ形状や軽さ、耐久性を満たす鍛造ピストン
Z系対応のφ77 mm(1230㏄)ピスタルレーシング製鍛造ピストン。ブルドックによる設計/寸法設定によりトップも軽くスカートが短いのに、Zで使っても首を振らない。鍛造の抜き型から抜いてほぼこの複雑なブリッジ形状ができ、裏面も抜き型のままだ。
これはZ1ヘッドでの例だが、AMAスーパーバイク用KZ1000S1の実物を参考に燃焼室をツインプラグ加工したもの。プラグ側の燃焼室縁にピストントップに合わせたスキッシュエリアも設ける。
現代車並みのフィールと作動性を得たクロスミッション
1年以上のテスト期間を設けた上で2013年に発売、100セット以上を販売したMccoyクロスミッション(写真は6速。5速もあり)。
Mccoyシフトドラムも新作され、本体は肉抜き軽量化。また左右支持部をベアリングとしてクランクケースの摩耗を防ぎ、シフトフィールも大幅に改善。上の展示例でもそのスムーズさが分かる。
クランクケース外からシフトドラムの左端に挟まり位置決めを行うポジショニングプレート。すぐなくなるのでと新作した。
そのマウントボルトは64チタン製。Z1系でシフトドラムの左側の溝に入るニュートラルポジショニングピンと内部スプリング、これらが入るチェンジドラムポジショニングボルト。
ミッションのシャフト上でギヤ間に入るふたつのブッシュ(2nd/5th)も新作。純正でもあるオイル穴に加えこれを回すようにするオイル溝も加え、潤滑性→作動性/耐久性を高める。こうしたひと工夫も注目だ。
ピストンの進化に合わせた超々ターカロイ鋳鉄製スリーブ
現代標準のシリンダースリーブ用耐摩耗材、ターカロイを遙かに上回る硬度を持つ超々ターカロイ鋳鉄を素材とし、PAMSの協力で作られたスリーブ。φ76mmとφ77mmを用意し、スリーブ外側には銅めっきを施し下側には段付き加工し熱伝導率や密着性も高めている。
ピストン×スリーブの性能を生かすFSメタルガスケット
ガスケット素材に現行車同様のメタルコアを使い、耐久性と耐オイル漏れ製を強化。ヘッド~シリンダーへの熱伝導率を高めて冷却効率を向上させるFSメタルガスケット(φ76mm /φ77mm、2ピースタイプ)もPAMSの協力で用意。クロモリスタッドボルトもオリジナルで用意し、各パーツの良さを引き出す。
発電・充電を強化し信頼性も高めたダイナモワンウェイクラッチキット
左中段写真のカバーを裏返した状態で、発電用コイルを見せた状態。このコイル+およびクランク側に付くマグネット=ダイナモは現行のFI車にも使える大容量となり発電不足を解消。マグネット部中央裏に入るワンウェイクラッチローラーは純正の3から20個に増やされ、スタータークラッチ滑りを解消する。じつはスターターギヤも削り出しで作られている。
大出力に対応しつつ乗りやすさも高めるスリッパークラッチキット
現代車では標準化しつつあるスリッパークラッチキットも、Jシリーズ用に用意。写真はZ1000R対応品でアルミのスリッパークラッチ本体はTSS製。クラッチプレート/フリクションプレートをF.C.C.製とした上でキット化している。150psあたりでもまず滑らず、必要な時(オーバーバックトルク時など)に作動する。6速ミッションとの併用が効果的という。
■取材協力・ブルドック
※本企画はHeritage&Legends 2019年12月号に掲載されたものです。
J系ヘッドのメリットを生かしたZカスタム 前編はコチラから
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