2ストのキャラクターはチャンバーでガラリと変わる。その事実をチームメイトでもある箱崎さんが駆るヤマハRZ250Rと、スガテックが製作したヤマハTZR250・1KT用RCスゴウレプリカで実感した僕は、理想のチャンバーを求めて、大阪の西港ベースを訪れることになった。
2019年の夏に開かれた、SUGO2ストミーティングの模擬レースで、チームメイトの箱崎さん+RZ-Rに、僕+1KTはバックストレッチでサクッと抜かれた。それまでの箱崎さんの七転八倒ぶりを知る身としては、あの速さは驚き。レース後に速さの理由を尋ねると、「ヘッド面研とかキャブセッティングが上手くいったっていう理由もあるけど、一番は西港ベースの中野さんに作ってもらったチャンバーかな。明らかに高回転の伸びがよくなったからね」との答え。
だったら1KT用も……と思った僕は、箱崎さんに中野さんを紹介してもらい、チャンバー製作を打診。嬉しいことに、即座に快諾をいただけたのだが、日程調整がなかなか上手くいかず、12月に下旬になってようやく大阪府堺市の西港ベースを訪れることができた。
西港ベースの中野さん(上写真右)は、1979 年生まれの40歳。同店は機械加工全般を得意とするが、中野さん自身が最も情熱を傾けているのは2スト用のチャンバー製作だそうで、これまでに多種多様なS80レーサー用に加えて、NSRやRZ-R、R1-Z用などを製作してきたそうだ。
実際に同店に仕事を依頼するにあたって、ものすごく役に立ってくれたのが、スガテックから借用したRC SUGOレプリカチャンバーである。12月上旬にこのチャンバーの実走テストを行い、リアライズでパワーチェックを行った僕は、これまでに使っていたSP忠男のストリートチャンバーとのあまりの違いに愕然。頭打ちが発生する回転数が2000rpm以上も上がったうえに、後輪出力は史上初の55㎰を突破したのだ。
一方で、低中回転域は非力で扱いづらく、この問題がキャブセッティングやファイナルの見直しでモノにできるかは、何とも言えないところ。特性の差は先のSP忠男製がストリート主眼で、スガテック製はレース主眼というところにあるのだろうか。そのあたりの事情を中野さんに説明すると、「だったら、ふたつのチャンバーのいいとこ取りを目指しましょう」という、心強い答えが返って来た。
車両と一緒に持参した2種のチャンバーを観察した上で、中野さんが指針に選択したのは、スガテックのRC SUGOレプリカだ。
「サーキットで速さを追求するなら、理想に近いのはやっぱりこっちでしょう。ただし現状の形を見るとエキパイが短めで、ストレート部分手前のテーパー、ダイバージェットコーンの角度が強すぎる印象です。この部分の見直しで、低中回転域の問題は解決できるんじゃないでしょうか。ストレート部分以降のコンバージェットコーンはいい形だと思いますが、テールパイプはもうちょっと短めの方がいいかもしれません」
この原稿を書いている2020年1月中旬には、すでに図面・型紙が完成し、近日中に本格的な製作がスタートする予定。中野さんはブログでその模様を公開しているので、興味のある方はご覧いただきたい。
チャンバーでここまで特性が変わるとは……。赤がSP忠男のストリート用で、青がRCSUGOレプリカ(車両はスガテックの菅田さんがテストに使ったヤマハTZR250・1KT)。この違いには、計測を担当した東京・八王子のリアライズ、道岡さんもビックリだった!
西港ベースのチャンバーは、CADソフトを用いて図面を製作。どんな車両でも、まず第1段階では曲がりが一切ない、ストレート形状で理想の寸法を追求する。
各部の数値を入力して形状を検討中。データを残しておくことで、理想の特性が実現できなかったときや、特性を変更したくなった場合の修正が容易になるそうだ。
ストレート形状での寸法が決まったら、画面上で車体に合わせた“曲げ”を行い、続いて展開図を製作する。
展開図を原寸で出力したら、それをそのまま型紙として使用する。以後は、型紙を鉄板に貼り付け、コンターマシンで各ピースを切り出して、曲げ&溶接を行うのだ。
西港ベースの作業はワンオフが多いが、一部の人気車用パーツは製品化している。R1-Z用ストリートチャンバーは8万4000円+税。
NSR50やS80レーサーといった単気筒用チャンバーは5~7万円前後(+税)で販売。写真はグランドアクシス用だ。
GT380用のストリートチャンバーは、パワーアップとバンク角向上を意識して製作したという。12万9600円+税。
箱崎さんも使っているRZ-R用チャンバーは11万5000円+税。なお、同店ではRZ-R用として、ウォーターポンプカバーやシフトシャフト保持プレートも販売している。