ゼファーエンジンの整備に欠かせない純正廃番のカムチェーンガイドを新作!・ACサンクチュアリー
車両再生に欠かせないゴム系パーツ製作を推進
「今最終の走行テストをしていて、結果に問題がなければもうすぐ、秋に発売します」。8月中旬、写真のパーツを見ながらACサンクチュアリー・中村さんは言う。4つ並んだこのパーツ群は、ゼファー1100用。上3点はカムチェーンガイド。下1点はジェネレーター用のテンショナーで、クランクケースアッパー裏側に付くもの。
▲写真は左側が前方向。左側から時計回りに、ゼファー1100用にサンクチュアリーが新作したフロントカムチェーンガイド、アッパーカムチェーンガイド、リアカムチェーンガイド、プライマリーチェーンガイド。腰上3点は純正欠品で、腰下用も合わせて開発された。
「3つのカムチェーンガイドは純正廃番で、もうないパーツです。今出るジェネレーター用も今後廃番化するでしょう。これらが出ないと、エンジン作業が出来ないんですね。オーバーホールにしてもスープアップにしても、折れた、減ったから交換したいという時にもです。その対策で新作しました」
登場30年、生産終了から15年は経つ車両となったゼファー1100。確かに純正廃番品は増える。それでもゴム系パーツとは、かなり切り込んでいるように思える。
▲ACサンクチュアリーの代表、中村博行さん。手にするのは試作のリヤガイド用芯材。今後こうした純正欠品パーツの種類や機種対応も増やしていきたいという。
「そうですね。ざっと言ってしまえば、例えなくても車体系パーツや、エンジン内部でもピストンなどの金属系パーツは形も素材もある程度は融通が利かせられます。
でも、樹脂やゴム系パーツはほんとにそのエンジン専用が多く、ないとお手上げになる。じつはゼファー1100/750はオーバーホールなどエンジン作業が多く入ってくるんです。そんな事情もあって、自分たちでも使わないといけない。15年くらい前から作っているZ用の強化チェーンガイドの経験もあるから作ろうとなったんですが、やっぱり大変でした」
▲大まかな位置関係と使い方の参考にシリンダー(左下)、アッパークランクケース(同上)に付くガイドは仮組みし、ロアクランクケースと新作パーツを並べた。
金属系パーツなら用途などから定格品を使うことや加工、処理なども想像が付くが、ゴム系はそれらの要素も決めないといけない。中村さんはまず3Dスキャンで純正品の形状を取り込むが、そこから先がかなりの道のりとなった。
「素材はニトリルNBRゴム。硬度測定して成形しますが、その後の耐久性テスト、寸法の確認、ノイズの有無。この3つとの戦いがすごかったです。耐久性は純正並み以上を狙って、実際にエンジンに組んでいろんな状態で距離も出して走る。寸法は0コンマ何ミリの単位で形が変わらないように。ノイズは、エンジンに組んで始動すると擦れ音がする。それを落とすように。
それで純正を見直しながら試作を重ねるのですが、単なるゴムじゃなかった。トップ側は均質なひとつのゴムですが、前後のガイドは2層構造でした。ベースゴムの上に、摺動性が良くて耐久性の高い別の樹脂層がある。当然、その機能は再現する。だから何を使うのかを専門家と突き合わせる。これは1年くらいかかりました。
もうひとつ、後ろ側ガイドは中に芯材が入っている。テンショナーで押しても、強い力がかかっても変形がないように。これも見本のゴムを剥がして形を調べて、こっちは金属の専門家と突き合わせる。その上で2層ゴムと金属芯材を一体化する元型を作って試作するのですが、それはお互いに専門外なので、中間に立つ私たちが今までのノウハウで考える。ガイドを支持する部分の軸芯もきちんと出して、やっと製品化できます」
自店同様に使ってほしい定番パーツへの視野も
実走テストに当たってはあえて表面層を色違いで試作してカムチェーンとの当たりや摩耗を分かりやすくするなどの工夫も加えた。
「ZレーサーIII号機開発時にも試作メーカーさんとの共同作業があり、壊すまでテストするなどの知見も加わりました。それでエンジンを開けた後、パーツと使った時の安心のための信頼性も持たせる。内燃機加工部門のDiNxで作業するときにその精密加工に見合う質も持たせられたと思います。何より、自分たちで使うから自信を持って使いたいですし」
話の途中で挙がったZ用強化チェーンガイドで甦ったZも多くいるはずだ。そのノウハウに新たにプラスされた知見で、多くのゼファー1100エンジンに手が入れられる安心感が加えられる。このカムチェーンガイドはノーブレストのサンクチュアリーメカニックブランドでリリースされる。
対応機種や対応パートの拡大も既に考えられていて、まずカムチェーンガイドはゼファー750用、GPZ900R用のフロント側ガイドが続く予定。さらに同店での扱いが多いカタナやCB-F/R系用の製作も続くようだ。素材や形状等の基本的な問題は今回のゼファー1100用でクリアされているから、リリースが決まればエンジン作業に悩む多くの車両が救われることになるはずだ。
他パートでは、ゼファー1100用ではオルタネーターチェーンガイドも加わるが、これは現品を預かってガイド部分を新品交換する形に落ち着きそう。さらにGPZ900R系のシリンダースリーブ位置決め用Oリング。同じくジェネレーターチェーンカップリングギヤもと、異なる系統の廃番パーツも既に視野に入っている。
「コンプリートカスタムやカスタムパーツの製作をすればいいはずなんですけど、ベース車両側のバックアップも必要になって、こうしたところに手を付ける時代になったんでしょうね」と中村さん。リリースされるパーツは車両維持のためにどんどん使ってもらいたいともいう。17インチ化など確立した車体側のノウハウも合わせて、ゼファーに活気が入りそうだ。
ヘッドカバーに付くゴム製のガイド(チェーン)UPP代替品も用意
シリンダーヘッドカバー中央の裏側にあるふたつの突起に差し込み固定されるアッパーカムチェーンガイド。ニトリルNBRゴム一体成形となっている。ここは単層のゴム製で、厚みも弾力も純正同等に感じられる。純正では12053A ガイド(チェーン)UPP となっているパートだ。
シリンダー前側のカムチェーンガイドは2層構造
フロントカムチェーンガイドは純正では12053 ガイド(チェーン)FR に相当するパーツ。写真の単品は下が摺動面になる。
上写真のようにシリンダー中央のカムチェーントンネル前側に入る。リヤ用ともに純正に準じて摺動面に別素材を張った2層構造で、純正に同じく芯材のない仕様だ。
特殊な2層構造もクリアしてテストを重ねNinjaのフロント用も供給を視野に
ベースのニトリルNBR素材は摺動面の硬度や耐摩耗性/摺動性に欠ける。それを補うべく純正では2層構造を採用。サンクチュアリー製もその構造を採用し、適した素材を使った。写真は開発中のGPZ900R用フロントカムチェーンガイドで、摩耗などの結果を分かりやすくするべく手前のように表面素材を白色にしてテストを進めた。
リアカムチェーンガイドはアッセンブリーでの用意を想定
フロント側同様に摺動面は2層構造を採用、こちらは金属製芯材と一体成形される(下写真2点)。純正では13235 ガイド コンプ(チェーン)RR 相当品で、下のピボット部とピボットピンも組まれたアッセンブリーパーツ。サンクチュアリ-製でも各パーツを用意した上でピンをかしめて完成というように組み立て供給される。
サンクチュアリー製リアカムチェーンガイド(左)。純正と同じく金属製芯材(中央、純正)が入り、全体の剛性を確保する。強さや構造を知るため純正のゴムをすべて剥がし、芯材の試作(右端)を重ねた上で2層構造のゴムに金型一体成形して完成に至った。背面の出っ張りはテンショナーが当たる部分。
アッパーケース内側のガイドほかも用意
プライマリーチェーンガイド(純正で12053 ガイド[チェーン]相当)も用意。
アッパークランクケースの中央付近裏側(カムチェーンラインの右側)に付くもので、オルタネーターシャフトチェーンの上側ガイド。
ゼファー1100のオルタネーターシャフトチェーンテンショナーブラケットで、ここは2層構造のガイド(黒い部分)を新作し、純正品を送ってもらっての組み付け返送で対応予定。
17インチゼファーではステムとスイングアームに注目を
純正F18インチはオフセット40mm、キャスター27度でバランス
’92年の初期型から’06年の最終型までスペックの変更がほぼないゼファー1100。3.00-18/4.50-17サイズのホイールに120/70-18・160/70-17サイズのタイヤを履き、560mmのスイングアーム長にオフセット40mmのステム(写真は参考)を使う。トレールは110mm、キャスターはやや寝た27度で、大らかで自然なハンドリングを持つ。
F17インチではオフセット35mm、トレール90mm近辺を狙う
フロント17インチ(3.50-17/5.50-17ホイールに120/70・180/55タイヤが多い)の場合はショートオフセットステム(ここではスカルプチャーの35mm)を選択、トレール80mm/キャスター24度近辺でスポーツ感が高まる。純正同等の560mmスイングアームはやや垂れ角が付いた方が結果的にトラクションが増していいということだ。これも参考にしたい。
【協力】ACサンクチュアリー(SANCTUARY本店) TEL04-7199-9712 〒277-0902千葉県柏市大井554-1 http://www.ac-sanctuary.co.jp
※本企画はHeritage&Legends 2024年10月号に掲載された記事を再編集したものです。
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