油冷ユニットの能力を安定して引き出す手法を磨き続けていく・カスタムファクトリー刀鍛冶
本体以外の変化によってもエンジンへの影響が出る
カスタムファクトリー刀鍛冶のTOTレーサーはカタナルックに油冷エンジン、そしてGSX-R1000K5ディメンションを生かしたオリジナル鉄フレームによって10年、ハーキュリーズクラスに参戦し進化を続けてきた。毎戦のように変化を続け、安定して上位に入るようになる過程や変更点も紹介してきたが、5月のSATSUKI STAGEでも変化があった。刀鍛冶・石井さんは言う。
「今回は、じつはフロントカウル内のサブオイルクーラーを外したんです」。ちょっと意外に思える。
▲オイルキャッチタンクや各種ステーにフレームまで、アルミや鉄での造形が得意な刀鍛冶の石井光久さん。油冷にもTOTなどを通じて多くのノウハウを積み上げ、ストリートにも反映してきた。
「前回(’23年11月のKAGURADUKI STAGE)ミッションのギヤ抜けが起こったりしたので、エンジンを下ろして確認したんです。するとカムが少しかじっていて、ロッカーアームも乾き気味でした。どうやら油圧が低くてオイルが行ってないなと。
サブクーラーへのオイルラインはヘッドカバーに行くラインから取っているので、吐出量がより多いオイルポンプも探したんですが、なかった。それで安全策でメインクーラーだけに」
予選は21台中11位。決勝では59秒のラップを重ねながらトップから11秒後にはゴールし、7位となった。一方、プラス要因もあった。
▲TOTの最高峰、ハーキュリーズクラスにもう10年参戦を続けてきた刀鍛冶の“刀”。同店が主力とするカタナと油冷エンジンをミックスし、代表・石井さんのパーツ製作技術でフレームを作ってパッケージしたものだ。写真は'24年7月に撮影した5月SATSUKI STAGE参戦仕様で、前戦から車体剛性や冷却系を変えている。
「マフラーのテールパイプです。ここでも結構特性は変わりますから、J-CUSTOMさんと一緒にいろんな仕様をテスト走行から試してきています。今付けているZ字状(編註:前回の仕様は滑らかなS字だった。今回は2カ所で折れ曲がる形が分かる)のでは特性がスムーズになっています。
それからエンジンオイル。これも油温だけでなくて、より油冷に合う特性のものがあるといいと思っています。もっとロスが減って内部パーツの保護性を高めるとか、ミッションやクラッチの作動フィールが向上してエンジン、ライダーの負担を減らすこともあるでしょう。その辺はオイルメーカーさんとも突き合わせて試しながら開発を進めていくつもりです」
1277cc仕様のエンジン本体は後軸160PSを安定して発揮していて、JE特注ピストンや刀鍛冶6速クロスミッションをはじめ変更はなし。つまり壊れにくくレース終盤まで出力を維持するという作りは出来ているということ。それでも、こうした補機類やエンジンオイルといった本体以外で変化が出せる。そうした細かい点も含めて、この“刀”に積まれた油冷エンジンは進化してきた。
車体側からもタイムをどう詰めるか思案
このエンジンに関わるパーツも注目だ。オリジナル6速クロスミッションやガスケット類、ヘッド側のエンジンスライダーもそうだった。今回はカーボンのカバーなどがある。
「クラッチカバーで右側2点、左側1点。近日発売予定です。同じ位置に付けられるアルミ製も新しいものを用意しました。ブラックとシルバーが選べて、これも近日発売です」と石井さん。新しいルックスと機能が選べるから、選択肢のひとつに加えておきたい。
▲1156cc仕様から始まったTOT用エンジンは'18年にベビーフェイス扱いのJEφ83mm鍛造ピストンで1277cc仕様(GSF1200ヘッド+'89GSX-R1100クランク/ケース)となり、ヨシムラST-2カムやキャリロH断面コンロッドや刀鍛冶6速クロスミッションを組み合わせ170PS化。熱ひずみ対策も施して今は後軸160PSで安定させる。キャブはTMRφ40mmを使っている。
レーサーの話に戻ろう。石井さん手作り(むしろ得意分野とも言う)のこの鉄フレームは、車両製作当初のハードめなものから、徐々に柔らかさ、しなりを取り入れる方向へと変わってきた。
「鉄フレームですから、しなる方が合うんですね。アルミなら固い方向でいいんでしょうけど、鉄はしなりかな。ぐねるような感触がいやとライダーに聞いて最初は固くしてましたけど、ショックマウント近辺に思わぬクラックが入っていてその方がタイムもフィーリングも良かったとか、良く曲がるとか、そんなことも反映しながらいい方向を掴んできました。
MotoGPマシンでもピボット上あたりはぐっと細くなっていて、そんな方向なんだろうと。
今回もピボットまわり上の裏側を抜いてて、次はリヤショックマウントももう少し剛性を落とす方向で行きます。あと今回は間に合わなかったんですけど、スイングアームも新しく作ります」
写真でも分かるフレーム、ピボット上の無塗装部分は、その変更点でもあった。エンジンが生み出すパワーをコーナーでも無駄が少なく使えるようにという考え。ストリートにもフィードバックしていけるはずだ。
速さへも油冷へも可能性を求めて進化の方向を考える
カタナ×油冷×GSX-R。それぞれの要素が絡みながら、それぞれ(ボディワーク、エンジン&補機類、シャシー)の変化と進化、そして成果を見せてくれた刀鍛冶油冷レーサー“刀”。この先はどんな要素が入ってくるのだろう。先述のエンジンオイルや、シャシーの変化はその筆頭だ。その上で、パッケージはどうなるのか。
▲'24年5月12日に行われたTOT(テイスト・オブ・ツクバ)ハーキュリーズクラスを走るレーシングチーム刀鍛冶の#34刀+行方知基選手。予選は21台(2台のスーパーモンスターエボリューション車含む)中11位、決勝は59秒963も記録しながら7位を得た。
「じつは、別に新しい車両を用意しようと考えています。油冷でこのまま進めるのもいいのですが、私たちの目標のひとつは、TOTでの優勝。次々出てくる他の新しいマシンと並べるように、8耐後には新しい車両を作り始めます。カタナルックで。エンジンは新しいのを使うつもりですが、TOT精神に則ってキャブレター仕様で行きます。でも油冷はお店の看板で大事なものです。まだ詰めたいことや開発の余地もありますから、こちらの開発も続けます」
目標の達成には新たな考えも必要だ。今までの刀鍛冶“刀”はこの10年、パワーや車体ディメンションなどのベースを作ってきた。その上で、油冷エンジンの進化はこの先も止めないということだ。刀鍛冶レーサーの活躍と変化は、これからも楽しみにしていいし、それは追いかけてみたい。もちろん、同店と石井さんの手がける新しいパーツや車両も同様に注目なのだ。
KATANAKAJI “KATANA”
油冷×カタナボディ×GSX-Rディメンションで進化を重ねてTOT上位に入り続けるスペシャルマシンだ。
刀鍛冶で扱うスキッシュ(scitsu)製の回転計にヨシムラ・プログレス2テンプメーターを組み合わせるコクピットにはベビーフェイスのレースコンセプト・ハンドル・フラットタイプショートオフセットを組み合わせる。フロントマスターはブレンボ・レーシング。フロントカウルやタンクカバー、シートカウルなどの外装品はマジカルレーシング製で燃料タンクはアルミ。
シートは’23年5月SATSUKI STAGEから形状を変更していてサイドカバーは別体のカーボンプレート。シートレールもこの時に刀鍛冶でアルミで新作している。ピボット部後ろの立ち上がり部にはボルトでの締結部も見える。
ステップはベビーフェイス製で、シート変更の際にバー位置が下げられた。
刀鍛冶製フレームに付く足まわりはGSX-R1000K5対応ステムにGSX-R1000用のオーリンズFG R倒立フロントフォーク、GSX-R1000スイングアーム+オーリンズTTXショック。スイングアームは今回変更する予定だったが、次回以降となった。ブレーキは前後ともにブレンボ CNCレーシングキャリパー+サンスター・ワークスエキスパンドディスクで、フロントキャリパー部にマジカルレーシング製キャリパーダクトを追加し熱を押さえ効力を安定化する。ホイールはBSTカーボン・ダイヤモンドテックの3.50-17/6.00-17サイズ、マフラーはJ-CUSTOMでドライブチェーンはD.I.Dのレース用、520ERV7だ。
油冷ユニット用新パーツも次々登場
アルミ製エンジンスライダー(仮称、近日発売予定)は左側用はクランクケースカバーに共締めするスタイルで刀鍛冶ロゴ入りのジュラコンスライダー付き。右側用はパルサーカバーに換えて使い、スライダーあり/なしが選べる。カラーはブラック、シルバーを用意する。
カーボンエンジンスライダーはクランクケース各カバーにそのまま貼り付けてエンジンまわりのドレスアップ効果も狙える注目製品。下は刀鍛冶レーサーでの装着例だ。右側用がパルサーカバーとクラッチカバーの2点、左側用が1点用意される。
GSX1100/750Sに油冷エンジンを積む「油冷エンジンマウント」(7万7000円)は継続製品。GSX1100S×2/750S×2種のフレームに2種の油冷エンジン、計8種の組み合わせがあるのでオーダー時に組み合わせを言うといい。
【協力】カスタムファクトリー刀鍛冶 TEL0721-55-2614 〒584-0085大阪府富田林市新家1-2-18 http://www.katanakaji.com/
※本企画はHeritage&Legends 2024年9月号に掲載された記事を再編集したものです。
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