【IMPRESSION】HONDA CB650R/CBR650R E-Clutch
クラッチレバー操作は一切なしでスムーズに発進加速するEクラッチ

発進でも走行中でも、クラッチ操作は難しい、とビギナーライダーは言う。渋滞中やノロノロ運転では、クラッチ操作が煩わしい、とベテランも言う。ホンダの開発したEクラッチは、そのどちらの悩みも解決してくれるシステムだ。バイクの楽しさを残しながらのイージーライドは、こんなに楽しい!

切る/つなぐ/半クラッチどれもレバーに触らずOK

世界初のクラッチコントロール自動制御システム——。ホンダはCB/CBR650Rに搭載したEクラッチをそう呼ぶ。

「クラッチコントロールを自動制御することで、ライダーの手動による操作を不要とする」そうだ。システムの技術発表資料、説明会の機会をもらっても、実は今ひとつピンとこない。それくらい、バイクに乗ることに、クラッチ操作が欠かせないものだからだ。

当たり前のことを書くと、クラッチとはエンジンの動力を駆動に変換する中間にいるものだ。エンジンがかかっていても、クラッチを切っていればミッションに動力が伝わらず、バイクは動かない。

▲HONDA CBR650R E-Clutch

クラッチをつなげば、ミッションがニュートラルに入っていない限りバイクは動く。さらに、僕らライダーはクラッチを「切る」と「つなぐ」の間に、バイクをスムーズに動かすために、何10段階もの「半クラッチ」を使っている。その「切る」、「つなぐ」、「何10段階もの半クラッチ」を自動制御、つまりバイクが勝手にやってくれるのがEクラッチなのだ。

クラッチワークを苦手とするビギナーは多い。そして苦手でなくても、煩わしく感じることもある。最初に結論を書いてしまえば、Eクラッチとはクラッチレバーさえ要らない、初めてのマニュアルミッション車だ。スーパーカブの自動遠心クラッチとも、アフリカツインのDCTとも、まるで違う。

「エンジンをかけたら、勇気を出して、クラッチレバーを握らずにギヤをローに踏み込んでみて!」

と、Eクラッチの開発責任者、ホンダ二輪・パワープロダクツ開発生産統括部、完成車開発部の小野惇也さんが言う。そんなこと言ったって、小排気量車じゃあるまいし、100馬力近くある並列4気筒エンジン車でそんなこと……。

▲HONDA CB650R E-Clutch

それでも指示の通り、えーい! きっと大丈夫だ、と勇気を出してシフトペダルを踏み込んでみる。すると、もちろんあっさり、少しだけの変速ショックを伴って、ローギヤに入ることになる。左足に伝わる変速ショックでいえば、自動遠心クラッチのDAX125の方が大きく感じるぐらいだ。

発進する時、通常は半クラッチを使いながら発進→加速。けれどこの時、クラッチレバーに触ってもいないから、半クラッチも何もできない。けれど、当たり前にCBはスムーズに発進するのだ。

 

レバーを握る/握らないも操作は思いのままなのだ

走り出すと、走行中はクイックシフターと同じ。クラッチワークなしで、シフトアップもシフトダウンもスパスパと決まる。ただし、シフトダウン時は、多くのクイックシフター装着車に見られる「オートブリッピング」はしない。CB/CBR650Rがスロットルbyワイヤを採用していないからだ。

ノーマルクラッチでブリッピングせずに高回転域からシフトダウンする時、急激なエンジンブレーキがかからないよう、クラッチをそっとつなぐことに心当たりがあるでしょう? つまりライダーは、減速にも半クラッチを使うのだ。

だからEクラッチは1速落としでも3速落としでも、無造作にシフトペダルを踏み込んでも、ブリッピングなしで、きれいに半クラッチをつないでくれる。けれど、「ここはブリッピングしたい!」とクラッチレバーを握りシフトダウン→スロットルを煽る→レバーを離すという一連の操作も、通常のクラッチと同じに出来る。

クラッチレバーを使っても使わなくても同じ操作──。これがEクラッチのもうひとつのスゴさ。Eクラッチ状態での走行中も、クラッチレバーを握った瞬間にマニュアルクラッチ操作が可能になり、シフト操作が終わったらまた、自動的にEクラッチ状態に戻るのだ。

ライダーがマニュアルミッション車に乗る時にクラッチレバーを操作するのは発進と停止、シフトアップ&ダウン、そして半クラッチ。Eクラッチは、そのすべてのクラッチワークが必要ない。発進と停止をイージーに、さらにシフトアップ&ダウンもスムーズに行なってくれる、これがEクラッチのもうひとつのメリットだ。

 

クラッチ操作のデメリットをクリアして広がる世界

一方で、シフトアップでもクラッチをスパッとつながず、半クラッチを使うと、スムーズに変速して駆動につながるのを実体験として知っているライダーは多いだろう。シフトアップの時にギクシャクが発生することがあるけれど、それをスムーズにするのが加速方向の半クラッチ。当然これも、Eクラッチがすべてやってくれる。

大渋滞でストップ&ゴーが延々続く時、Eクラッチがあればあのストレスを味わなくて済むし、左手だって疲れない。例えば旦那さんが苦もなく行うクラッチ操作が苦手、という奥さまも乗れるから、1台を共有もできる。さらに万一、出先で転んでクラッチレバーを折ったとしても、Eクラッチならきちんと帰宅できるのだ。

通常のマニュアルクラッチに求められることがすべて出来て、クラッチ操作まったくナシでもライディングができる。これが、ホンダが目指した、DCTの一歩先のイージーライディングだ。

「Eクラッチのいいところは、他車種にも搭載が難しくないことです。クラッチワークに苦労しているビギナーに向けたモデルに搭載することだって可能です」と言うのは、CB/CBR650Rの開発責任者、ホンダ二輪・パワープロダクツ事業本部、完成車開発部研究課の吉田昌弘さん。いつかCBR250RRやレブルに搭載されたなら、Eクラッチの良さはもっと広く理解されるだろう。

 

クラッチレバーなしでもOKも、バイクを運転する楽しさのためホンダはレバーを残した!


簡単に書けばEクラッチは、通常のマニュアルクラッチ+クラッチレバーと、マニュアルクラッチ+モーターの2系統を持つクラッチシステムだ。アフリカツインなどのDCTは「自動変速」、スーパーカブの自動遠心クラッチはクラッチレバーを「離す」(=クラッチがつながる)動作を遠心力でウェイトが外側に開いて行うから、どちらも専用のミッションやクラッチが必要になる構造となっている。

そこをEクラッチでは、マニュアルクラッチが油圧やワイヤでレバーとつながっている部分にモーターを装着し、ライダーのシフトペダル入力を瞬時にセンサリングして「切る/つなぐ/数10段階もの半クラッチ」をモーターがやってくれるという機構を採用したのだ。

構造としては、クラッチレバーを使わなくても乗れるのがEクラッチ。ライダーのバイクの楽しみのために「あえて」レバーを残したと考えていい。

 

Eクラッチなしも併売のCB/CBR650Rが細部に渡るブラッシュアップで進化


Eクラッチ仕様のタイプ追加だけにとどまらず、細部をブラッシュアップした新型CB650R/CBR650R。カウルつきのCBRはヘッドライトデザインを変更し、センターカウルの面構成も変更、シートレール後端も形状変更で軽量化している。さらにネイキッドのCB650Rともどもテールカウル形状を変更し、新たに5インチTFTフルカラー液晶も採用。スマホとBluetooth接続して通話やナビを表示するスマホリンク「Honda Road Sync」も新たに搭載している。CBとCBRでは下記の通り吸気系統をそれぞれに専用設計としたが、動力性能で違いを感じるほどではなかった。


今となっては650ccクラスでは唯一の並列4気筒エンジンを搭載しているCB650R/CBR650R。新たに吸気側バルブタイミングを変更し、低〜中回転の出力を向上している。CB/CBRとも基本的に同一のパワーユニットなのだが、ノンカウルのCBはシュラウドから吸気するため、出力特性には若干の差がある。


Φ41mmのフロントフォークはショーワ製SFF-BP。圧側減衰をやや強めたようだ。フロントブレーキはΦ310mmローターにNISSIN 4Pキャリパーをラジアルマウントする。


アルミスイングアームは左右非対称デザインとしてショートマフラーをセット。


リヤサスはイニシャルを10段階変更可能だ。


タンク容量は15L。実走にかなり近い数値が分かるWMTCモード燃費は、Eクラッチ車で21.3km/L。満タンで300kmの走行が可能。


前後分割式のシートはライダー側のタンク側形状が絞り込まれ、シート高の数値以上に足つき性は良かった。


ヘッドライトをはじめ、テールランプ、ウィンカーなどの灯火類はすべてLED。


CBはバーハンドル、写真にないがCBRはトップブリッジ下にセパレートハンドルをマウントする仕様だ。


ギヤポジション表示付きの5インチTFTフルカラー液晶。メーターデザインは3種類、背景色は2色から選択できる。

【SPECIFICATION】 ●型式:8BL-RH17●エンジン:水冷4ストDOHC4バルブ並列4気筒648cc/ボア×ストロークΦ67.0×46.0mm/圧縮比11.6:1/最高出力70kW(95PS)/12000rpm/最大トルク63N・m(6.4kgf・m)/9500rpm/変速機6段リターン●全長×全幅×全高2120×780[750]×1075[1145]mm/ホイールベース1450mm/最低地上高150[130]mm/車両重量207[211]kg/燃料タンク容量15L/シート高810mm/キャスター角25度30分/トレール101mm/タイヤサイズ120/70ZR17M/C(58W)・180/55ZR17M/C(73W)●メーカー希望小売価格:108万9000円[115万5000円(マットバリスティックブラックメタリック)/118万8000円(グランプリレッド)] ※[ ]内はCBR650R E-Clutch

【協力】ホンダモーターサイクルジャパン https://www.honda.co.jp/motor/

※本企画はHeritage&Legends 2024年8月号に掲載された記事を再編集したものです。
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WRITER

Heritage&legends編集部

バイクライフを豊かにし、愛車との時間を楽しむため、バイクカスタム&メンテナンスのアイディアや情報を掲載する月刊誌・Heritage&legendsの編集部。編集部員はバイクのカスタムやメンテナンスに長年携わり知識豊富なメンバーが揃う。