コンプリートニンジャを良好な車両と捉えてその製作精度を高めパーツ供給の充実化を図る・ACサンクチュアリー

’70~’80年代名車を中心に現代17インチタイヤを履くコンプリートカスタムのRCMを送り出すACサンクチュアリー。GPZ900Rも対象車のひとつだが、他のモデルと異なり“RCM Ninja NEW TYPE-R”というパッケージメニューが用意される。これは今乗れるNinjaの見本となると同時に、これからのNinjaをフォローする存在にもなりそうだ。どういう意味があるかを、見ていこう。

ベースの推移で変わるコンプリートの立ち位置

「この車両は5年少し前に、オーナーさん所有のファイナルエディションをRCM化したものです。まだ電気系もエンジンも経年が浅く距離も進んでいなかったので、以前の(今の“ニュー”でない)Type-Rメニューで進めました」

ACサンクチュアリー・中村さんは車両の内容を言う。同店がGPZ900Rに用意するRCM Ninja スポーツパッケージ ニューType-Rは前後17インチの最新タイヤ(リヤは180サイズ)を無理なく履いて楽しめるようにするコンプリートカスタム。車体とライディングポジション、冷却系の強化、エンジンリフレッシュが主メニューの車両だ。

▲希有な状態良好のファイナルを元に先に17インチ適合メニューを施したAC SANCTUARYのRCM-491 GPZ900R。各部の詳細はこちらのザ・グッドルッキンバイクページをチェック!

まだ新車のあった2000年に確立したRCMニンジャは、カスタムとしての“スポーツパッケージType-R”製作が進む。’03年のニンジャ生産終了後には良好な個体=対策の進んだA10以降の車両で走行距離1万km程度の少ないものにベースを切り替えた。

さらに’16年、条件をクリアする車両が減ったため、エンジンオーバーホールを必須の作業として“ニューType-R”に変わる。このニューType-Rはスタートエディションという完成状態で503万8000円(Ver2024)が付き、ここを起点と考える。

この車両=RCM-491の場合はエンジンO/Hなしで進められたため“ニュー”を略した。その分のコストをカスタムに回し、オーバーホール時期が来たらエンジンメニューを検討する予定だ。

もう1台のRCM-516は少し変わっていて、Type-Rの再販売車を入手した上で部分リメイクとメンテナンスしたもの。最初の作製時点でエンジンと電気の条件は満たされ、そこからの経年は少なかったこと、状態把握もできていたことから、この車両でも次回以降の入庫時に手を付ければいいと判断できた。

そもそもオーナー自身もニンジャの価格が数十万円だった頃から100万円台へと上がり出した頃に、ノーマルやライトカスタムでなくRCMニンジャを、自分のニンジャとしてまず手に入れておくと決めていたとのこと。最初のコスト自体は少しかかるけれど、前述のように信頼できる手がもう入っている。

▲コンプリートを好適ベースと捉えて再販売車両を元にリメイク&整備を行うAC SANCTUARYのRCM-516 GPZ900R。各部の詳細はこちらのザ・グッドルッキンバイクページをチェック!

前後17インチでディメンション設定も済んでいるし、アルミ鍛造ホイールを履く、ブレーキ系も強化済み。大型ラジエーターとオイルクーラーで冷却系強化と、必要なものは揃えられている。

今からベースを入手して作るには時間(納期)も、追加コストもかかるから、まずは走れるRCMを手に入れ、フィーリングを知りたい。エンジンのアップデートや後継機ベースにニンジャ用に引き直した電装を使うのもコストがかかるが、RCM再販売車であれば次のタイミングまで待てる。そう考えればこれは賢い選択だったのかもしれない。RCMニンジャはそんな良好なベース車として捉えられるようにもなったわけだ。

「両車ともベースの状態が良いことが分かっていましたので、今のニューType-RメニューでなくかつてのType-Rメニューが使えました。どちらももう数年乗ってもらっていますし、楽しめる状態だったと思います。これからは状態の維持やタイヤやブレーキといった部分のアップグレードに気を配ればいいですし、それも元の状態が把握できていますから無理も少ない利点があります。

この2台は今としてはまれな例と言える。だが、今なら“ニューType-R”が用意されている。ゆくゆくはカスタムニンジャをと思うなら、下で紹介するメニューに注目したい。

 

ニンジャを維持するべく純正代替パーツ供給へ

今まではまず良好なベース車両を探し、フレームは測定・修整と必要な加工を加える、エンジンも同様の手順というスタンスだったRCMニンジャ。これはある意味でひと世代前のZ系とは異なる路線と言えたが、これからはZに近い路線に入ってくるとも中村さん。

「DiNxでの精密加工によって作業後の静粛化や長寿命化という、エンジン関連のアップデートは果たせたと思います。ただ、必要なパーツ、とくに純正のそれが次々なくなってくるのは車両製作に影響を与えるようになりました。そこでエンジンと電気をテーマに、ニューType-Rの製作のための純正代替、またはスープアップパーツの開発と生産に着手することを決め、進め始めました」

具体的にはどのあたりだろう。

「まずDiNx製鍛造ピストンです。純正はノーマルφ72.5mmもオーバーホール用のオーバーサイズもないですから、0.5mmオーバーサイズのφ73mm(920cc)。そしてボアアップを意識したφ74.5mm(958cc)。ニンジャへの内燃機加工から得たノウハウも入っています。

それからフロント側に入るカムチェーンガイド、クランクケース右サイドにあるジェネレーターチェーンカップリング(ギヤと、ダンパー入りハウジングが組み合わさったパーツ)のギヤ。カムチェーンガイドは特殊ゴムの2層構造で手間はかかるんですけど、オーバーホールの必需品ですから、金型から起こします。

ギヤは、A7までが5枚重ねのハイボチェーンがかかり、A8以降で6枚重ねのチェーンがかかるように幅広の対策品になっています。ここもチェーンは出るけどギヤはなくなりました。今まではこの幅広対策品を使うようにしていたのですが、なくなれば代わりもありません。これもニューType-Rに必要ですから作ります。

もうひとつ、カムシャフトもターゲットに考えています。純正フルパワー仕様の吸気側、かじりやすい方が廃番になりました。要るものですから、ノーマルスペックで作ろうかと思いましたが、今から手に入れるならハイカムがいいだろうと、ステージ1仕様にします。手の届くくらいの価格で、仕様も含めて使ってもらう選択肢のひとつになればいい。イタリアの内燃機パーツメーカーで作るように進めています。今後はこうしたパーツに力を入れて、車両の維持を考えないといけないと思ったので、その反映です」

ニューType-R製作に欠かせないということは、ニンジャそのものを維持、対策するのに必要と言い換えてもいい。そんなパーツ群が出てくることで、ニンジャがより長く楽しめる。もしくはいい状態に作り替えられる。そう考えれば、RCMニンジャ・ニューType-Rはやはり大きな参考と捉えられる。進みつつあるサンクチュアリー発のニンジャパーツ情報、ぜひ注目していきたい。

 

RCM Ninja CHASSIS/前後17インチに適合するための車体加工とパーツ選択を定量化する


RCMニンジャではフレーム(上写真、倒立フォークは参考)はステアリングヘッドに付くアッパーカウル取付基部を復元(下写真)。


測定・修正後にパウダーコート仕上げする。


現代ハイグリップラジアルタイヤからの入力に応じるように総アルミ削り出しモノブロックのダウンチューブとステップベースを組み合わせたコンビネーションキットで前側エンジンハンガー~ピボット部を補強。


左ピボット下フレームを外に伸ばしてチェーンラインも確保する。

 

RCM Ninja ENGINE/水圧検査とオーバーホールを基本に精密内燃機加工を生かすエンジン


エンジンは必要な対策/社外パーツを用意し精密組み立てを行う。


2年半ほど前から内燃機加工をDiNxで行い、メニュー強化につなげている。ニューType-Rでは依頼があれば水圧検査(上写真)して状態を確認。バルブガイド打ち替えや適正クリアランス化(測定/加工)にバルブシート加工(下写真)。


シリンダーはボーリング&精密ホーニング(上写真)、ヘッドとともに面研し、クランクは曲がり測定を行いダイナミックバランスを取る(下写真)など、フルメニューも可能。

 

17インチニンジャのスタートラインと言えるRCM Ninja NEW TYPE-R スタートエディション

RCM Ninja スポーツパッケージ“NEW TYPE-R”2024VERSIONの主内容

■ シャシー
●フレーム:アッパーカウルブラケット・マウントボス補強/チェーンライン インライン処理(ワイドタイヤ対応)/メイン&シートレール パウダーコーティング/NITRO RACINGダウンチューブ&バックステップ コンビネーションKit-III
●SCULPTUREステム(オフセット変更)/バーハンドル/SCULPTURE RCM専用スイングアーム(バフ仕上げ)/オーリンズGOLD正立フロントフォーク[RWU] E×Mパッケージ/オーリンズ リヤショック 17インチNinja用/O・Zレーシング アルミ鍛造6本スポークホイール GASS RS-A(写真のPIEGAは取扱い終了)
●前後ブレンボキャスティングキャリパー/フロント SUNSTAR RCMコンセプトディスクφ320mm(ホールタイプ)/リヤ SUNSTAR φ250mmディスク(ホールタイプ)/ニッシンマスターシリンダー(フロント/クラッチ)/EK530RCM ドライブチェーン(8mmオフセット)

■ エンジン(フルオーバーホールメニュー)
ヴォスナーオーバーサイズピストン/シリンダーブロック水圧検査/ボーリング・ホーニング/最小値面研/シリンダーヘッド:焼結合金オーバーサイズバルブガイド[新造品]/シートリングカット/最小値面研/クランクシャフト:曲がり修正/フルバランス/ジャーナルラッピング処理/対策パーツ:A16チップ鋳込みロッカーアーム/後期型大容量オイルポンプ&ウォーターポンプ/対策ワンウェイクラッチ&ジェネレーターチェーンASSY/ほか消耗交換パーツはカワサキ純正/外観:サンクチュアリーレッドイーグルでウェットブラスト&ガンコート塗装

■ 吸排気
ミクニTMRφ36mmキャブレター/NITRO RACING チタン機械曲げEX&ストレートチタン V-1サイレンサー(ハーフポリッシュ)

■ 冷却系
NITRO RACING ワイドラジエーター&オイルクーラーハイマウント

■ 電装系
カワサキ高年式モデル純正ワイヤハーネス/メイン&テールハーネス/イグニッション&キースイッチSET(キーシリンダー統一加工)/各部電装ジャンクションBOX/スターターリレー/バッテリーリードワイヤ/ファンスイッチ/ASウオタニ SP-II(マウント含む)/同コイル/PAMSプラグコード

■ その他
ハンドルスイッチ 左右ZXタイプ/マルチリフレクターヘッドライト/純正タイプ小型ウインカー/アルミリヤインナーフェンダー&フェンダーレスKIT/アルミオイルキャッチタンク/NITRO RACING クラッチレリーズプレートKIT/ピンゲルフューエルコック/サイドスタンド延長加工/NITRO RACING スクリーン/A6タイプレプリカミラー/外装塗装(純正or純正アレンジ)

※今作られるRCMニンジャの主な構成内容。写真は参考例で、この状態=スタートエディションからのカスタム化も可能(別料金)。

RCM“ニュー”Type-Rは2015年に提案され、今のRCMニンジャの標準となった。今回紹介した2台はエンジン/電装の状態が良かったこと、既にType-Rとして作られていたためにエンジン内部に手を入れずに済んでいたことが、区別の理由となっている。なおこのニューType-R、上のような内容が施された“RCM Ninja スポーツパッケージ・ニューType-R スタートエディション”は503万8000円(税込み)。もちろんこの状態で十分に走るし楽しめるが、このスタートエディションを17インチニンジャのノーマル状態というように捉えてブレーキ系や吸排気系、外装ペイントとカスタム化を進めていくオーダーがほとんどという。

【協力】ACサンクチュアリー(SANCTUARY本店) TEL04-7199-9712 〒277-0902千葉県柏市大井554-1 http://www.ac-sanctuary.co.jp

※本企画はHeritage&Legends 2024年7月号に掲載された記事を再編集したものです。
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WRITER

Heritage&legends編集部

バイクライフを豊かにし、愛車との時間を楽しむため、バイクカスタム&メンテナンスのアイディアや情報を掲載する月刊誌・Heritage&legendsの編集部。編集部員はバイクのカスタムやメンテナンスに長年携わり知識豊富なメンバーが揃う。