チューニングエンジンが生きる車体作りの見本
1997年のZRX1100でスタートし、2016年のZRX1200DAEGファイナルエディションまで続いたZRXシリーズ。そこにトレーディングガレージナカガワ(TGナカガワ)が「あくまでもノーマルルックで、中身はしっかり作る」をコンセプトに手を入れた車両だ。TGナカガワでは開店から30年の間に多くのGPZ900R系エンジンチューニングメニューを発案し、排気量や内容でステージメニュー化してきた。ZRXも同系エンジンだから、そのメニューが適用できる。しかも、高出力化しながら4〜5万km以上はダメージなく走れるようにされていた。そこに、独自のR-Shot#Mという表面処理を開発して適用、対象物の表面硬度や潤滑性を高め、延命化し、同時に寸法維持性も高めた。これによってチューニングエンジンがさらにポテンシャルを引き上げた上に、寿命も延びる。
このZRX1200Rでは、そのエンジンめっきシリンダーはそのままに、ZZR1200純正ピストンを軽量加工したものを組み合わせてφ79×59.4mmでの1164ccの純正同等排気量で高圧縮化。
他の内部パーツは純正をベースにピストン/ピストンピン/カムホルダーにバルブ。ミッションにクランクメタル、オイルポンプと、動くものにフルR-Shot#Mが施工される。さらに補機類にはTGナカガワの点火コイルDIS(ダイレクト・イグニッション・システム。現代バイクのように点火コイルとプラグキャップを一体化)とHIR(ハイパー・イグニッション・リーダー。点火マップをオリジナル化できる点火ユニット)を加えている。
オーナーはこのエンジンのためにとFCRφ39mmキャブレターも用意していたが、それが純正CVK36キャブレターで、気構えも要らずにじつにスムーズに走るように仕上がっていた。オーナー(走りもしっかりしていて、評価も出来る人)も「これで十分。FCRだとちょっと気構えて乗るだろう」と言うほどにレスポンスも高くなっているわけだ。ポテンシャルがぐっと引き出され、それを吸気側で調整できるという例にもなり、エンジンチューニングに新しいステージが見えたとも言える。
一方でこの車両は、こうしたチューニングエンジンを積む車体作りを考える見本にもなっている。
「ZRX系で車体側の弱点と思える箇所を補強しています。脱着可能な右ダウンチューブをアルミからクロモリ鋼に換える。リヤはショックのアッパーマウントまわりを補強し、その上で左右つなげる。メインフレームのネック下、背面内側(キャブ後ろ上あたり)にも補強を加えています。あとは前後のアクスルシャフトとピボットシャフトの計3本がクロモリになっています。
もうひとつ、カウルをフレームマウント化しています。カウルをできるだけフロントフォークに寄せて、カウル後部のラインがフォークと平行になるようにステーを作りました。この車体はTOT(テイスト・オブ・ツクバ)を走るライダーも安心して乗れると言いますし、かなりしっかりしています」
DAEGのノーマル車体に150ps仕様のエンジンを載せるなど、多くの仕様を手がけた上で導いたノウハウによって作られたこの手法はZRXでの車体チューニングのひとつの見本でもある。外装をすべてFRPで作り、燃料タンクもアルミ化したことなどの軽量化も効いて、2020年代のミドルモデルのような軽くコンパクトな感じで取り回せる。ZRX1200Rノーマルからするとふたまわり小さい印象だ。
こうした軽さと、はっきりした芯のある感じの車体。そこにTGナカガワ・チューニングエンジンが入れば、先のオーナーの言葉=CVKで気構えなく(軽く、パワフルで滑らかに)走れる=にも納得がいく。「現代版ZRX」とは、この車両のことだと言えるほどの作り。これは目指してみたいパッケージだ。
Detailed Description詳細説明
純正ルックを極力維持しながら内容を充実させるべく、ビキニカウル&シートカウルは純正形状をトレースしてFRPで製作。ビキニカウルはパイプステーもオリジナルで作ってフレームマウント化するが、カウル後部のラインをフロントフォークと平行にし、かつカウル自体は極力タンクに寄せる(この型式で出がちな隙間を抑える)こだわりで前に出さない好ルック、かつハンドルに重さをかけない。
ウイリー・ストリートEvoモノブロックステム(オフセット30mm)に組まれるハンドルバーはアクティブ・ロータイプ、左右マスターシリンダーはゲイルスピードVRCで、ここでも操作感を高める。メーターは純正ユニットをカウル同様にフレームマウント化する。ミラーはマジカルレーシング・NK-1ミラー・タイプ4ヘッドでステップはストライカーだ。
シングルシートスタイルのシート本体は、もう20年作られて定評を得ているTGNオリジナルシート。燃料タンクも純正形状をトレースしてアルミで製作し純正カラーで塗装。これらの外装軽量化で、車体はノーマルルックのまま、ふたまわりもコンパクトに感じられる。
フレーム本体はリヤショック上側マウントの内側左右同士をバーでつないで溶接(写真中央)、その前側(追加バーの左右に見える三角形状の2カ所)を補強。これはZRX、とくにチューニングエンジンを積むならできれば行いたいとも。
エンジンはφ79×59.4mmの1164ccと数値上はノーマルに思えるが、純正でZRXより高圧縮となるZZR1200用を軽量加工など行って使う。ピストンやピストンピン、カムホルダーにバルブ、ミッションにクランクメタル、オイルポンプと、動くパーツにはすべてTGナカガワのR-Shot#Mが施される。またフレーム本体のネック下(写真のタンク前端下)にはタンク下前端から前に向かうパイプの下と、下に向かうパイプの前に部材が溶接され、キャブ後ろのフレームが湾曲する部分に三角形状のプレートを溶接して補強している。純正でアルミ製の右側ダウンチューブはウイリー製クロモリに変更されて強化する。
キャブレターは現状で純正CVK36+K-TRIC。これで十分以上にパワーやレスポンスを、スムーズに味わえるとのこと。点火は現代車のようにコイルと点火プラグホルダーが一体化したTGNのDIS(ダイレクト・イグニッション・システム)と点火ユニットのTGN・HIR(ハイパーイグニッションリーダー)を使う。
スパイラルコレクターを持つフルチタン4-1の排気系はオーナーこだわりのノジマエンジニアリング×TGナカガワ・コラボレートマフラーにスペシャルでDLC(ダイヤモンドライクコート)仕様のサイレンサーを作って装着している。
ZRXシリーズはφ43mmフォークやフロントφ25mm/リヤφ20mmのアクスルなど、各部にネイキッド最大クラスの数値を持つパーツを使うが、さらにアップグレードを図りたい。この車両ではオーリンズRWUフォークを使い、アクスルシャフトはクロモリ化。フロントブレーキはブレンボ・アキシャルCNC 4Pキャリパー+サンスター・ワークスエキスパンドディスクとしている。
リヤブレーキはブレンボCNC 2Pキャリパー+純正ディスク。リヤアクスルはクロモリ化し、スイングアームピボットシャフト(φ20mm)もクロモリ化している。ホイールはゲイルスピード・Type-Eで3.50-17/6.00-17サイズ、タイヤはブリヂストンS22のフロント120/70ZR17、リヤ190/55ZR17。
リヤサスはオーリンズ・レジェンド・ツインリヤショックにウイリーBIG目の字・7N01材製スイングアームを組み合わせる。別項で触れたリヤフレームの補強(ショックアッパーマウント部強化、左右の連結)は変更されたサスや軽量ホイール等のメリットをしっかり引き出してくれる。リヤスプロケットはRKのH.C.Sプレミアムスプロケット01PSでドライブチェーンも520コンバートしている。