パーツ集めにも多くの時間を割いて深まった作り込み
ホンダCB-Fが現役だった頃のアメリカ、AMAスーパーバイク・シリーズはスズキGS750/1000にGSX1000S、カワサキZ(KZ1000Mk.IIやZ1000J)など日本製空冷4気筒市販車を元に仕立てられたレーサー群が激闘を繰り広げた頃。いきおい、各車のチューニングにも次々と新手法が現れ、同時にパーツも進化していった。
CB-Fはホンダの現地法人、アメリカンホンダモーター(AHM)が’80年からレースに投入し、CB-Fとルーツを同じくする市販レーサー、RS1000ベースのエンジンを載せてライダーにフレディ・スペンサーらを起用する。AHM・CB-Fレーサーの2年目となる’81年にはスペンサーがそれまでの#8に代えて#19を付け、Z1000J改に乗るエディ・ローソンとの接戦の末にシリーズランキング2位を獲得する。
この車両はその’81年仕様スペンサー車をモチーフとしたものだ。ゴールドカラーの前後18インチホイールや、バンク角を稼ぐべくオイルパンを浅くしてオイルも掻き上げのウェットでなく別ラインから供給するドライサンプ仕様(ここではウェットサンプのまま、外観上それ風に見えるように加工)&乾式クラッチ化したエンジン、ブラウンに近い独特の色味を持ったオーリンズリヤショックなどの要素が現車を彷彿とさせてくれる。ブレーキディスクも当時のワークスパーツが奢られているほどだ。
「RSC(レーシング・サービスセンター/CB-F現役当時にホンダのモータースポーツ活動をサポートした直系組織)のパーツを組み込んでいます。作業はマシンヘッドモーターサイクルさんにもお願いして、このようにまとめてきました。ただ、パーツを探す時間の方が作るよりもずっと長かったかな」とオーナーのまさひろさんはにこやかに教えてくれる。もっと聞いてみると、この車両のベースはCB-Fでなく、その発展/市販レースベース仕様とも言えるCB1100Rだった。
「CB1100RはCB-Fと違ってフレームが右側ダウンチューブも一体になっていて、補強をしなくてもいけるかなという考えで使いました。実際にもその通りだなと思います」(まさひろさん)とのことで、CB-F強化タイプとしての活用はなかなかに目の付け所が鋭い。しかもフロントフォークはGL1100用。これも現車が当時大径化などのためにそのGL用をチョイスしていたから(社外の大径フォークなどは考えられない時代でもあった)。
さらにゼッケンプレートをくり抜いてマウントされたヘッドライトや小型のミラー&ウインカーなど、できるだけレーサーに近づけつつストリートも満足させるためのパーツチョイスにも苦心の跡が見える。「街乗りには少し不向きです」ともまさひろさんは続けてくれるが、その工夫の跡も好ましいし、前述のように保安部品以外でもパーツがない当時の工夫を、今あえて反映しているようにも見えてくる。細部を知るほどにもっと見たい、そう思える1台でもあるのだ。
Detailed Description詳細説明
ゼッケン19の書体やブルーのラインもまさに'81年型AHMスペンサー仕様。ヘッドライトや小型ミラー/ウインカーも超小型・高輝度LEDなどが使えるようになった今なら別の形を採るだろうが、早い時点から工夫してこの形にしている。こうした点も見倣いたいところだ。
北米仕様のメーターやバーハンドル、現車と同型状の角張った上下ブラケットによるステム。小径のエンジン回転計と純正メーターケース(AMAスーパーバイクは市販車シルエットの保持が規定されているから、ヘッドライトケースやメーターケースは付けられていないといけない)の間に詰められた振動抑制/位置維持用のスポンジさえも現車的なもの。
カラーリングも'81年型AHM CB750Fレーサーを再現。テールライトのチャンピオンプラグ・ステッカーも同様だ。
エンジンは1062ccのCB1100Rノーマルに乾式クラッチを組み、現車モチーフのAHMロゴ入りジェネレーターカバーを装着。モチーフ車はバンク角を稼ぐなどの理由からオイルパンを浅くし、ドライサンプ仕様としていたが、ここでもそのように見えるような加工が施される。フレームは右ダウンチューブも一体化されたCB1100Rを元にピボット部などを当時風に加工。'81AHM・CB750Fレーサーでも右側ダウンチューブは溶接して一体化されていた。
キャブレターはやはり'81年型AHM・CB750Fレーサーでも使われたCRスペシャルφ31mm。マフラーはSSPファクトリー製チタンメガホンを組み合わせる。
マフラーのテールパイプのアールに沿うように曲げ具合が加工されたペダルを備えるステップ。こうした細かい点の造作にも注目したい。
フロントフォークはモチーフ車同様にホンダGL1100のφ39mm流用でフロントブレーキは当時に同じAP CP2696キャリパーに当時のワークスローターを装着する。
リヤもAPレーシング製2ピストンキャリパーを現車と同型状のサポートでマウントする。ディスクはサンスター製をチョイスした。
リヤショックはオーリンズで、スイングアームは純正鉄パイプを元に、下側に細めの丸パイプでトラスタイプの補強を加えている。スプロケットはisa。前後18インチの7本スポークホイールはマービックモーリスだ。