速さの可能性を探るために細かな部分まで詰めていく
基本的には改造無制限というJD-STERドラッグレース・プロオープンクラス。その2022年シーズン、5戦全戦を決勝ヒートまで進出した“2強”の一角が、田辺康彦さんがライドするこのZX-14R。もう10年以上トップの実力のこの車両、ルックスはノーマルにかなり近い。内容についてはどうなのだろう。
「エンジンはJEピストンで1441ccから1510ccに拡大されてて、キャリロコンロッドも組んでいます。シリンダーヘッドはバンス&ハインズで3Dポート加工をしてビッグバルブも入っています。カムはノーマルですけどそのままでもハイカム傾向。サブコンで燃料調整して後軸230ps、NOS(亜酸化窒素による過給)で100ps足しての330ps仕様になってます」
レッドモーター・中村さんはこの14Rの動力系スペックを教えてくれる。車体まわりはリヤをスイングアーム延長キット+ナイトロンショック、フロントはタイダウンによるローダウンという仕様で、田辺さんは’22年に優勝1回、2位4回をマークした。
「現状だと3-4-5速でNOSを噴いた(パワーを上乗せした)ときにリヤタイヤがスピンするようで、これは今後、コースの奥までラバーが乗ればいいなと思います(各車両が走ることでタイヤのゴムが路面に乗り、よりグリップが高まる。それがコースの後半路面にも乗るといいということ)。
田辺さんは自身でNOSのコントローラーを作って、プログラムもオリジナルで作るんです。走行中にバンバン噴くだけでなく、スタート時から(スロットル開度やエンジン回転数なども取って)細かくセットアップするようなこともできるので、もっと速くなるでしょう。
ZX-14RなのでNOSで大きな負荷がかかるクランク大端部のメタルは傷が入っていないかなどは、エンジンを下ろしてまめに確認するようにしています」
メンテナンスにも気を遣い、1/4マイル(約402.1m)をゼロスタートから毎回8.5〜8.4秒というタイムで走りきるこの14R、’22年最終戦では8.426秒を記録。灯火類もナンバーもあり、ミラーも付けて普通に公道走行できるのも特徴となっている。
ところでマフラー右下には金属塊が見えるが、これは何かと訪ねたところ中村さんはこう答えてくれた。
「おもりです。田辺さんは体重が軽いので、このおもりをアンダーカウルの前などに積んで、タイムロスになってしまうフロントアップを対策したり、タイムを上げるリヤトラクションの増加を狙うんです。重箱の隅をつつくようですけど、効果はあります」と。なるほど、重心も下げられる利点もある。速さの工夫がそこここにあるこの14R、中村さんは8秒前半やいずれの7秒入りも可能と見込んでいる。その時が来るのも、楽しみな1台なのだ。
Detailed Description詳細説明
外装やメーター、ハンドルや左右マスターは14Rの純正。シフトライトをメーター上側に追加、NOSのスイッチやレース時用の小さな右ミラーも加えている。
写真奥が進行方向。サイレンサー内側下に見える四角い物体はおもり。2〜5kgの重量をうまく使ってフロントアップ抑止やリヤトラクション増、重心低下を狙い、タイムにつなげている。JD-STERでは車重制限はないが、ライダー込みの規定重量を設けることが多いドラッグレースでは体重の軽いライダーが重量合わせにおもりを使う。それを積極的に活用する方法を反映しているのだ。
エンジンは2mmオーバーサイズのφ86mmJE鍛造ピストンによる1510cc仕様で、ボーリングと再めっきはアメリカで行っている。カムはZX-14R純正(それでもハイカム状態、と中村さん)でヘッドはバンスアンドハインズでフローベンチにかけながら3Dポート加工を行っている。
φ43mmインナーチューブの倒立フロントフォークやニッシン・ラジアルマウント4ピストンキャリパー、ペールディスクは14Rの純正を使う。なお、このプロオープンクラスのハヤブサやZX-14Rの定番としてBrock's タイダウンベルトでローダウンセッティングを施してある。
リヤショックはナイトロンR3で排気系はBrock's Performanceのステンレス製サイドワインダー。リヤブレーキはZX-14R純正だ。
スイングアームは14Rの純正をロアリングトイズ製エクステンション(チェーンプラーピース)で延長。それで空いたスペースに過給用のNOSボトル(青)を装着。エアシフターも備え、シルバーのボトルはシフター用。3.50-17/6.00-17サイズのホイールは純正を使う。