ニンジャ系エンジンのポイントをチューニング個体の経過から見る・トレーディングガレージ ナカガワ【後編】

現代的でいながらも比較的シンプルな構成を持つニンジャ系エンジンは、後継エンジンとの互換性も生かしたスープアップも狙える。そんなチューニングエンジンは、使用にともなってどう経過していくか、そしてどう考えればいいか。トレーディングガレージナカガワが手を入れたふたつのエンジンから、これからを生き抜くエンジン手法を知っていこう。後編は、通算で15万km、前回のオーバーホールからは3万5000kmを走ったA8ニンジャのエンジンの様子を確認した。前編のTOTレーサー用エンジンの解説はこちら!

ロスの低減と各部延命が今後のターゲットになる

後編で紹介するもう1基のエンジンはストリート用で、20年ほど前にノーマルから最初のオーバーホールを行い、’03年に外観リメイクと2回目のO/HでトレーディングガレージナカガワによるTGNメニューを施す。以後、走行距離を重ねて’12年にフルO/H、さらに3万5000kmを走って、今回通算4度目のO/Hタイミング。実に15万kmを走行したエンジンで、消耗品とシリンダー以外の各パーツもTGNメニュー化して17年間使われているという。

各パーツを眺めるとこちらも破損箇所はなく、とてもきれいな状態にある。コンロッドは鏡面加工が行われ、クランクはジャーナルにラッピング加工がされる(途中で追加)。ピストンや吸排気ポート、燃焼室に施された加工からは、これまで中川さんがニンジャエンジンに投入してきた手法の足跡も窺える。

▲︎可動パーツを主に、R-SHOT加工は特許も取得し応用範囲をさらに拡大/トレーディングガレージナカガワオリジナルの表面処理、R-SHOTは樹脂メディアの[D]、二硫化モリブデンメディアの[M]ともにこのほど特許を取得。この写真のようにクランクのギヤやウェブにも施せて、油膜保持やロス低減にかなり有利になる。クランクはジャーナル部をラッピング施工しているが、これもロス低減/スムーズ化に貢献してくれる。先のR-Shotは今後、エンジン内部パーツを主とした各部へ、応用の幅を広げていくはずだ。

「鏡面加工は表面のスムーズ化で、かかる応力を分散し、また発生する熱を反射させて熱効率を上げます。以前は多く行ってましたが最近はあまり施しません。それは、他の方法で同様の出力や耐久性が得られるようになったからです。

出力は、高めると言うよりもどれだけ失わないようにするかというように考えや捉え方が変わってきています。1224ccのZRXエンジンで200ps近く(前編に記述)というのも大筋は排気量や圧縮比などで、ある程度は読めるんです。それをどう無駄にしないか、熱や抵抗で削がれないようにするかなんです。そこがラッピングやR-SHOTなどで改善できた。時間や手間を他に振り向けられれば、作る効率も上がり、再現性も確保しやすくなる。

ベースについては今ならばGPZ-RでもZRXでも、同じと考えていいと思います。そのまま使うなら排気量や作りの多少の違い、対策などで違いはありますけど、好きな形、ニンジャエンジンの独特のヘッドの形とか、ZRXのフィン付きとかで選んで楽しむ方を優先していいですよ」

今回開けたエンジンのように、中川さんのやってきたことが出力や特性の面でも、耐久性の面でも安心できるということは分かっている。それが系列機に共通して使えるのだから、あとは好みだ。まだまだ深まるニンジャ系エンジンチューニング、次は何だろうか。

 

CASE2・15万kmを走り4度目のO/Hを受けるA8エンジン

CYLINDER-HEAD


2回目のオーバーホール時にTGNステージメニューが施されたエンジン、シリンダーヘッドはこのように燃焼室/排気ポートのカーボン堆積も少なく、バルブシートも良好な状態にある。吸気ポートもスムーズ加工がされていて、汚れも少ない。写真でよく分かるようにリメイク(外観再塗装)も劣化はない。

 

CYLINDER


ほとんど交換なしで使えてきた大物パーツのうち、シリンダーは8年前の3回目オーバーホール時点で交換されている。冷却水通路もきれいな状態、スリーブ内壁もきれいな状態でクロスハッチも残り、このまま再仕上げで使える。

 

PISTON


ピストンはワイセコ鍛造のφ75mmで、重量合わせやエッジ取り裏面を中心とした駄肉の削除など、中川さんが初期から配慮してきた加工の跡が明確に見られる。リングの固着やスカート部の異常な当たりはなく全体に良好だが、トップにわずかな吹き抜けが見られるものがあった分を対処する。

 

CON-ROD


重量合わせを行ったコンロッドは、横面から小端部周囲にかけて鏡面加工されていたが、これもTGナカガワでかつて鋳肌に対しての応力を分散することで耐久性を上げるために必須としていたメニュー。今はクランク側のジャーナルラッピングなどでコンロッドへのストレスが減り、必須ではなくなっているが手法としては有効。状態も良好だ。

 

ROCKER ARM


︎GPZ900Rらしい2バルブ1ロッカーアーム(GPZ1000RXまで継続、ZX-10から1バルブ1ロッカー)は後期型のチップ鋳込み・強化タイプに変更されていた。同社オリジナルによるバイパスオイルライン等の使用等で良好な状態。

 

MISSION


クラッチバスケットがあることから、エンジン分解後取り出されたままと分かるミッション(写真は手前側が進行方向)。オイル管理も良く、TGナカガワ推奨のシルコリンオイルを使っていることからも状態は良好。ここに使うパーツ群も純正部品の廃番が進んでいるため、この良好な状態でR-SHOTを施工すれば先々も維持しやすくなるはずだ。

 

CRANK CASE


2回目のO/H時、TGNステージメニュー施工時にリメイク(外観再塗装)も行ったクランクケースはシリンダーヘッド同様に外観も美しい状態。内部のエッジバリ取り加工等も維持される(下写真、クランク軸受けの周部も面取りされている)。

 

CRANKSHAFT


クランクシャフトは直接の後継機、GPZ1000RX(ストロークはGPZ900Rに同じ55mm、クランクウェブ形状が異なる)を軽量加工/バランス取りした上で組んでいる。前回O/H時にジャーナルラッピングが施され、このようにきれいな状態を維持している。ここもオイル管理が効いている部分だという。

 

TGナカガワの用意するエンジンチューニングメニュー

▲︎GPZ900R Engine/2バルブ1ロッカーアーム、ノーマルで908ccのGPZ900Rエンジン。この個体はTGNステージ2[#972]メニュー(φ75×55mmの972cc)が施されたコンプリート販売エンジンで、売約済み。ポート加工ほかステージ1のオーバーホールメニューにプラスしてカム変更等も加えて高出力と耐久性を両立させ、幅広い条件で使えるような設定がされている。ZZR1100 Engine/1バルブ1ロッカーアームでシリンダーヘッドもコンパクト化したZZR。写真では隠れているがダウンドラフト(下向き吸気)で効率を高めたエンジンだ。エンジン前側のウォーターパイプも変更された。ここではフルオーバーホールを施した上で1108cc化(φ78mm×58mm)、カムも変更。なおこの2基を載せているのはケイファクトリー特製エンジンスタンドだ。GPZ1100 Engine/1バルブ1ロッカーアーム/1052ccのZZRエンジンをホリゾンタル(水平)吸気にしたといえるGPZ1100エンジン。この個体でもφ[純正値:76→]78×58mmの1108cc化を行い、バルブ/ミッション/クランクメタルなど内部パーツの多くにR-SHOT処理を施して、スムーズ化と高耐久性化を狙った。クランクにもジャーナルラッピングを施し、ヨシムラST-1カムも組む。

「TGNエンジンコンプリートメニュー」はGPZ-R系エンジンに用意されるチューニングメニュー。各部分で燃焼効率の向上やフリクションロスの低減、バランス取り等を行いレスポンスと過渡特性に優れた性能と、セキュリティ(耐久性)向上が図られる。現在4ステージの設定で、ステージ1(59万1800円)は920cc仕様(GPZ-Rの場合、以下同)でオーバーホールより1ランク上のポテンシャルを備えたストリート向け。ステージ2(62万5900円、ZX-10/11は5万5000円を追加)は972cc仕様で高出力を両立。ステージ3(83万1600円)はGPZ900RクランクにTGN1050キットを組み合わせて1050ccとするTGNお勧め仕様。ステージ4(105万3800円)はZRX1100クランク/コンロッド(1108cc仕様)+DAEGミッション(6速)。いずれもR-SHOTの追加設定(料金別)が自由に選べる。

 

■取材協力・トレーディングガレージ ナカガワ

※本企画はHeritage&Legends 2021年4月号に掲載されたものです。

「ニンジャ系エンジンのポイントをチューニング個体の経過から見る・トレーディングガレージ ナカガワ」前編はコチラ!

WRITER

Heritage&legends編集部

バイクライフを豊かにし、愛車との時間を楽しむため、バイクカスタム&メンテナンスのアイディアや情報を掲載する月刊誌・Heritage&legendsの編集部。編集部員はバイクのカスタムやメンテナンスに長年携わり知識豊富なメンバーが揃う。