8耐で培われたノウハウも詰め込んだZRX用スイングアーム
ZRX1100登場後すぐに作れたのは偶然だった
「これは野島氏(英俊さん/ノジマエンジニアリングの創設者)がZRX1100で鈴鹿8耐に出るって言った時に、ウイリーでテクニカルスポンサーとして作ったもの。寸法や仕様は野島氏が図面を描いて送ってくれた」ウイリー・富永保光さんの言う「これ」とは、下の写真のスイングアームだ。
▲ZRX1100登場後の1998年に同車を鈴鹿サンデーレースで走らせたノジマエンジニアリングが、その次の1999年に鈴鹿8耐参戦を決め、その際にウイリーがテクニカルスポンサーとして製作したスイングアーム。オリジナル目の字断面アルミ材製で2本サス仕様だった。
▲各部の寸法や仕様はノジマエンジニアリングの野島さんからのオーダー通り。左端、ベアリングが埋設されるのは当時のCB1300SFのようなダブルプロリンクサスも試すためだった。その右、リヤショックマウント位置を変えるためのスロット(溝)とセレーション(1mm刻み)も設ける。耐久レースでのピット作業用に車体をスタンドで持ち上げるためのスタンドフック、またリヤタイヤ交換時にホイール着脱を短時間で済ませるクイックリリースも追加。下側スタビも特徴的だった。
この年はツインショック仕様での参戦。オリジナル目の字断面材を使うウイリースイングアームの特徴に加え、下部にはスタビライザー、上側にはショックマウント移動用セレーションとスロット、さらに耐久レース用のクイックリリースなどが加わる。
▲後軸出力185psに対してノジマ製クロモリフレームやウイリースイングアームの剛性は確認された。写真は1999年、オートポリスを走ったノジマZRX。前出のスイングアーム写真はこの車両に装着されたそのものだ。
スズカ8耐前哨戦の鈴鹿200kmロードレースで、ノジマZRXはNK1クラス(750㏄以上の鉄フレームネイキッド・市販車。800㏄以上市販車のX-Formulaクラスと合わせてフレーム/エンジンとも改造自由)のレコード、2分14秒8をマーク。本番の8耐では70台中32番目で予選通過、総合19位まで順位を上げるも、残り50分、158周を回ったところでリタイヤ。パワーは後軸185psあった。
「その後〝翌年はモノサスで出る〞と聞いて、〝今度はBIG目の字でスタビなしで作ったらどうですか?〞と話した。それでBIG目の字、スタビなし、モノサスという仕様に決まった」
1999年の8耐に現れた新たなノジマZRX=NJレーサーはモノサス化され、スタビなしのすっきりしたスイングアームを装着。アクスルもφ25mmに大径化した。決勝では一時13位まで浮上、ネイキッド最速の2分13秒8も記録する。狙いは当たっていた。ZRXにも、スイングアームを作ったウイリーにも耳目は集まった。
▲2000年8耐での写真。モノサス化し、スイングアームは母材がビッグ目の字に変わりスタビライザーを廃したシンプルなストレートルックとなった。リヤアクスルもこの時に大径化した。
「目の字スイングアームの信頼性を広めてもらったと思いますよ。あれだけ走れて。野島氏はそこからストリート用NJシリーズを作ることになり、良かったかな」そう言う富永さん。
ところで富永さん/ウイリーがZRX用スイングアームを手がけるのには、このノジマ8耐車以前の邂逅があった。1997年のことだ。
「1100が発売されてほどなくして、アサカワスピードの浅川さんがZRXをオートポリスの走行会に持ってきて走った。その時に新しいバイクだからって乗せてもらったら、前後ともふにゃふにゃして〝何だこれ〞って思った。
浅川さんはそのまま関東に帰ることになって、じゃあ車体をしっかりさせたいからウチでスイングアーム作ろうってバイクは預かったんです。会社に戻ってからすぐ採寸して、材料を切って曲げて作って、スイングアームはできた。
▲1997年、オートポリスでのアサカワスピードZRX1100。ブラック仕様のスイングアームが装着されるが、これもウイリー製。スタンダード長だが、この前に30mmロングなども試されていた。
この時に一緒に、右ダウンチューブもクロモリで作って、それらを付けたバイクを船便で送り返したんです。それが最初。それが当時の雑誌・ロードライダー誌面に載って、お客さんからのオーダーも来た。だからこの時に乗せてもらってなかったら、ZRXのスイングアームもクロモリダウンチューブも、作るのはもっと後だったかも」
下の写真は当時装着していたもののうちのひとつの写真だ。
▲このスイングアームはZRX1100発売(1996年12月)からそう遅くない1997年に、この車両(ノーマル時代)にオートポリスで乗った富永さんが同車用に作ったもの。金属メーカーにオリジナル形状の5角目の字断面アルミ材を特注し、ハンドメイドで作られるウイリー製スイングアーム。そのZRX用初期モデル。後発のビッグ目の字を見慣れた目にはややスリムにも見える。リヤサス位置はアジャスタブルでエンド部は今の製品より短い。今ではNCマシニングも進化し、それを生かした形状に変わっている。
「この時はエンド部も今のものより短くて、今はすっと伸びた形になってます。リヤサス位置はこの時はアジャスタブル。
ZRXのスイングアームは、今でも1100用でビッグでない目の字のオーダーも来ます。いいベースを手に入れて、仕立て直すんでしょう。1200もDAEG用も、エンジンカバーなどのビレットパーツと合わせて人気が高いままです。それにしても、あの時1100に乗れたから、その後のGTフレームなども作れたし、あれはありがたかった」
▲ウイリーでフレーム各部を補強したGTフレーム仕様のZRX1200R。
しゃきっとした走り味を作り、カスタム車で重要なルックスも所有感も満たしてくれる。そんなウイリーのスイングアームとZRXには、こんな関係があったのだ。
※本企画はHeritage&Legends 2020年9月号に掲載されたものです。
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