4バルブ1850cc直4と2代目ボディが最速へのカギに
世界最大のドラッグレース団体、NHRA(National Hot Rod Associasion)。うち、全米を転戦するChamping Worldシリーズには、バイクのクラス=PSM(プロストック・モーターサイクル)がある。市販車のシルエットを崩さない形状のボディと、認可を受けた市販車がベースのエンジンを組み合わせている。あくまでもストックとつながっていること。そしてその2021年の最新トレンドが、ハヤブサだ。と言っても注目の第3世代でなく、アメリカでもなじみの深い第2世代。
そのポテンシャルはと言えば、0→1/4マイル(約402.1m)のタイム(ET=Erapsed Time)が6.742秒。1/4マイル地点での到達速度は200mph≒320km/hオーバー。ゼロスタートからたった400m先で、これだけのタイムと速度を叩き出すのだ。
主なパートを見ていこう。シャシーはクロモリ鋼管によるダブルクレードルで、リヤサスはリジッドという、専用のいわゆるローリングシャシー。タイヤは強大なパワーを受け止めるドラッグスリックで、リヤは26.0/10.0-15サイズ。ざっと25cm幅で66cm径、ホイール径は15インチ。空気圧は1気圧に満たない。このあたりの車体構成の基本は、長いこと大きな変化はない。
気になるエンジンは、日本製4気筒と、アメリカ製空冷V型2気筒が指定/認可されているうちの、スズキ。もう少し踏み込めば、NHRAのPSM用エンジンサプライヤ-のひとつ、バンスアンドハインズ・レーシング(Vance&Hines Racing)が製作し、’21年2月に発表したもの。4バルブで空冷の1850cc、シリンダーとシリンダーヘッドは総削り出しでクランクも削り出し。ただクランクケースは、前述の規定によって、ハヤブサの遠い先祖に当たる、GS1150(北米名。他地域ではGSX1150E等)を使っている。これがストックたる理由のひとつ。
腰上は長らく2バルブ基本、燃料供給にFIが認可されたのも、4気筒勢にはここ10年ほどの話。’19年に直4エンジンの1850cc・4バルブ化が認められて、エンジンサプライヤーがテストを重ね、’21年の第3世代ハヤブサ登場に合わせるかのようなタイミングで出てきたのだ。肝腎の出力は従来比40ps増の公称400ps。
外観も同様にNHRAの認可による、ストックシルエット。FRPまたはCFRPによる一体形カウル。こちらはエンジンと同じメーカーならOKで、スズキだとGSX-RシリーズやTL1000Rが使われてきた。もし第3世代ハヤブサがもう少し早く発表され、そのデザインをPSM用一体型にアレンジできていれば、そちらを使ったかも知れない。そんなタイミングで、このPSM用新4バルブエンジンとハヤブサは現れたのだ。
この新エンジン、ハヤブサボディ/バンスアンドハインズレーシング/アンジェル・サンペイとのコンビネーションはシーズン前半を終えて未勝利ながら、決勝ヒートにも進んでいる。エンジンだけ見るならば、これまで4気筒では未達成だった終速200mph≒320km/hに到達し、2勝を挙げている。データが揃い、熟成進んだ後半には、新しいトレンドのもっと強い姿を見ることになるだろう。
Detailed Description詳細説明
'02~'04年のPSM・3年連続チャンピオンをスズキで獲得し、引退・復帰を経て'20年にも1勝したアンジェル・サンペイ(旧姓シーリング)とハヤブサは最強・盤石のコンビネーション。PSMでの200mph超はこれまで2160ccV2で5人のみが記録、4気筒では彼女が初となった。アンジェル・サンペイはこの2021年、新スポンサーのMISSIONを付け、ハヤブサボディ(ジェリー・サボワのW.A.R.レーシングによる新作)とこのスズキ・4バルブ1850cc/FIとの組み合わせで参戦中。勝利まであと一歩だ。
エンジンはバンスアンドハインズ製「VHIL 1850 4V」。サイドにそれを示す4Vの文字を刻んだ新しい4バルブヘッドは、'20年にNHRAが認可したスズキ用で、従来の2バルブに代わるもの。クランクケースはGS1150純正だが、腰上や内部パーツはフルに変わっている。
シリンダーヘッドはNCマシニングによる総削り出しで、ヘッドカバー、シリンダーも同様。空冷、そしてバルブ駆動が現行GSX-R1000に同じフィンガーフォロワーロッカーアーム式という点は歴代ハヤブサとは異なるが、スズキ4気筒というベースは共通だ。
400psの出力に耐えるようにクランクシャフトも9ピーススチール削り出し+溶接組み立て。形状はGS1150ベースでベアリング支持による。