カスタムらしい作り込みの車両で カタナに手を入れる可能性を高める・ACサンクチュアリー

いわゆるカタナ世代、ZやCB-FにNinja等の’70〜’80年代車に現代17インチタイヤを履いて楽しめるような手を入れたコンプリートカスタム車、RCM(Radical Construction Manufacture)を製作するACサンクチュアリー。カタナを元にした新作RCM-644は、純正回帰傾向が増えたカタナにカスタムらしさを改めて吹き込み、手を入れる魅力とその可能性を提示した。それらについて注目するとともにカスタムの現況を聞いてみた。

今作るカタナカスタムの見本となるような車両を

基本としている前後17インチ仕様を初めとして倒立フロントフォークやフルカスタムペイントなど、カタナ=GSX1100Sへの現代化&個性化提案とでも言うべき車両を手がけてきたACサンクチュアリー。’22年のRCM-500、’23年のRCM-588(番号は通算製作番号=シリアルナンバー)などはその一環で、前述のような個性化でも目を惹いた。カタナの動きはどうなっているのだろう。

「現状ではコンプリートのRCM製作オーダーを受けるのはやはり空冷Zが大半、Ninjaが続く感じで、カタナは年に1台程度で、Z900RSよりも少ないです。ただ、一般的なカスタムやエンジンのオーバーホール、キャブレターセッティングといった作業は日常的にあるという状態です。まだまだユーザーさんはいらっしゃる。

そんな中で、2~3年くらい前から急激な速さで純正のエンジン内部パーツがなくなってきた。おそらくカタナ系カスタムショップの皆さんも言われてきたでしょう。それで〝これはいけない〟と思って、1台分の純正パーツをストックするようにしていたんです」とサンクチュアリー・中村さん。RCM製作オーダーを受けた際にパーツを待たず、いつでも対応できるようにというストックだった。

RCM-644製作にあたり7N01材でサイレンサーステーを製作中の中村さん。

「それがカタナのオーダーがなかなかなかったのと、当店で良好なベース車両を所有していたのとで、〝ならば1台、クラフトマンシップRCMで作ろう〟と考えて製作に着手したんです。純正パーツはストックされたものがある。内燃機加工はDiNx(ディンクス)で精密に行える。それなら趣味趣向を思う通りに注ぎ込んで、バリバリのカスタムで作ろうと」

中村さんの声は弾む。クラフトマンシップはRCMのうち通常のオーダーとは別にサンクチュアリーに在庫/作り置きされる車両で、ここではデモンストレーション車の意味も込めて製作された。それが今回紹介するカタナ、RCM-644だ。

カスタムらしい作り込みを高い完成度と組み合わせるAC SANCTUARYのGSX1100S、RCM-644。各部の詳細はこちらのザ・グッドルッキンバイクページをチェック!

「ただ作るだけでなく、各部加工も最新のものを反映して、今カタナカスタムを作るならこうしたいというテーマも込めています。デモ用とはしていますが、パーツチョイスやそのカラー、17インチや鍛造ピストンなどを軸にしたスペックもカラーリングも、すべて私の趣味・趣向でやっています(笑)。

完成したら受けたというか、かなりの反響がありました。2月のノスタルジック2デイズ2025(パシフィコ横浜で開催された4輪旧車イベント)に展示したところ、注目度は抜群でした」

カタナと同世代の4輪ユーザーにも注目され、東京モーターサイクルショーでもBSバッテリーを扱う丸中洋行ブースで展示。そうしたデモンストレーションを行うのと並行して同店HPに販売告知(クラフトマンシップ車は販売が前提)したところ、すぐ〝ひと目惚れで〟と新オーナーが決まった。

「ありがたいことですね。今のカタナカスタムは車両を大事にしたい、純正のイメージを今後も保ちたいという気持ちを反映したのでしょう、ノーマルライクなものが多かった。それもいいけど、それだけに飽き足らない方がいらっしゃるということかと思います」

カタナを大事にしたいという気持ちは変わらない。ただ、仕立ての上で市場への逆振りを行い、眠っていた需要を掘り起こす。そんな1台と捉えていいだろう。

 

新しい車体パーツは開発、エンジンパーツには期待

中村テイスト全開という仕立て。だがそれは、’90年代のカスタムを自らのZ1-Rで体験・体現し、旧車に最新17インチを履くディメンションの構築やそれに並行して起こるネガの潰し方、エンジン始め弱点を持つ部分への対策を施してきたこと。その上でカスタムらしいルックスやペイントを行ってきたことの経験がフルに盛り込まれたと考えていいはずだ。

そう考えればこのカタナは、今いい意味で大事な車両を作った、あるいは作ろうとしているカタナオーナーに改めて〝こういうこともできる〟という提案をしていると捉えていい。もちろん純正19/17インチもいいし、シルバーの純正色もいい。ただそれだけでなく、もう一歩踏み込んだ仕様も考えていい。そんな見本というわけだ。

あえてゴールドやクローム等の光系パーツは避けたという全体の色調も、熟成されつつもカスタムの心を失っていないと言えるし、この仕様にシルバーの純正色も合うなと思わせる自由度がある。いずれにしても、カタナに手を入れてきちんとさせるなら今だ。

鍛造ピストンを組んだエンジン。リヤカムチェーンガイドはオオノスピードの提供と、カタナに強いショップの協力も得た。

「クラフトマンシップRCMのカタナとしてはこれが最後になるでしょう。オーダーRCMについては受け付けできます。ただ、ベースはファイナルエディション(SY)で距離が少ないなら、となりそうです。それ以前のモデルだとエンジンの消耗の補修が難しいです。

可能性はゼロではないんですが、クラッチハウジングやミッション、カムチェーンガイドといった重要なパーツがないし、今入っているものも消耗の可能性が大きい。信頼できるリプロパーツが出てくればそれを使う手も考えていいのですが、テストした上で信頼できる結果が得られてから、なんですね。お客さんの車両でテストというわけにもいきませんし、ここはこれからの検討課題とは思います」

Zを主としたエンジン内部パーツ製作の経験が多くあるからこその考え。ただ、車体パーツは新しいものが出てくる。倒立/正立フロントフォーク用のオーリンズ・ステアリングダンパーKIT(P97)が4月発売だ。ほかにもRCM-644に使われたようなパーツでアップグレードを考えるのもいいだろう。ともあれ、パーツ動向に注目しておくのはこれからのカタナライフに重要ということだ。

 

独創性も高かったカタナコンプリートの作例

GSX1000S/RCM-500

アメリカのDiazさんがずっと所有していたGSX1000Sを元に、現代モデルのスタイルやシングルシートに前後17インチの足まわり等のオーダーを反映した、500番目RCM。カーボン×メタル感のある外装等、細部までの作り込みは’22年の東京モーターサイクルショー・EK CHAINブースでの展示(下写真)でも見ることが出来た。各部の詳細はこちらのザ・グッドルッキンバイクページをチェック!

 

GSX1000S/RCM-584

’23年に台湾・CH MOTOのオーダーで作られた1000カタナ。前後17インチ/倒立フォーク/ウェルドクラフトマフラーを使うことを前提にフレームは17インチ最適化してエンジンはDiNxで加工しての1135。カラーリングは往年のスズキワークスを感じさせるライトブルーでペイントし、今こういうカタナがあると楽しいを具体化した。各部の詳細はこちらのザ・グッドルッキンバイクページをチェック!

 

【協力】

ACサンクチュアリー(SANCTUARY本店) TEL04-7199-9712 〒277-0902千葉県柏市大井554-1 http://www.ac-sanctuary.co.jp

 

※本企画はHeritage&Legends 2025年5月号に掲載された記事を再編集したものです。
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WRITER

Heritage&legends編集部

バイクライフを豊かにし、愛車との時間を楽しむため、バイクカスタム&メンテナンスのアイディアや情報を掲載する月刊誌・Heritage&legendsの編集部。編集部員はバイクのカスタムやメンテナンスに長年携わり知識豊富なメンバーが揃う。