
1200系めっきシリンダーの弱点を補い長寿&スムーズ化も考えたハイパフォーマンスシリンダー登場・トリニティガレージ ナカガワ
1200シリンダーの今後を切り拓くTGN新作HPC
▲TGナカガワ代表の中川和彦さん。ニンジャ系エンジンにはチューニングを施しながら耐久性も高めるという作業を行い、各種技法も常々考えている。
「名称は『TGN HPC#1164』『TGN HPC#1224』。ZRX1200R/DAEGとZZR1200のシリンダーに新しい道筋を付けることができるかと思います」。トリニティガレージナカガワ(以下TGナカガワ)の中川さんはこう言うとともに、新しいシリンダーを取り出す。
▲TGN High Performance Cylinder #1224/#1164/純正に置き換えた上ですぐ使える加工済み新シリンダーのTGナカガワのHPC=ハイパフォーマンスシリンダー。ぱっと見は純正のようだがスリーブ相当部は鉄製で、すぐに使えるようにホーニングまで行われて納められる。実用新案・特許出願済み。
「HPCはハイパフォーマンスシリンダーの略で、2タイプを用意しました。#1164は先の3車種純正の1164cc仕様で、φ79mmピストン用。#1224はZRXをスープアップする時の定番、φ81mmピストンによる1224cc仕様。
これで1200系純正そのままのスペックを楽しみ続けたいというオーナーさんにも、元気のいいエンジンがほしい、レースに使いたいというライダーにも安心感が高められると思います」
▲外観は純正、スリーブ相当部は別ものになっているTGNハイパフォーマンスシリンダー。
TGN HPC#1224の外観は純正に同じ。最大の特徴は、シリンダーブロックの内側に特殊スチールを結合させることによって、スリーブ部分が鉄製になっていることだ。GPZ900R~ZZR1100、ZRX1100のような別体鋳鉄スリーブはめ込み+Oリングでもなく、ZRX1200/DAEG、ZZR1200のアルミ+めっき内壁とも異なる。
▲写真はいずれも#1224(φ81mmピストン用)のもの。シリンダー下に突き出たスリーブ相当部の光り具合からも純正との違いが分かる。
これによってシリンダー自体の強度を大きく高めるとともに、HPCのスリーブ部は鋳鉄同様にホーニングできることになる。ここが重要だ。前述のように1200系純正ではアルミ製シリンダーブロックの内側にそのままスリーブ穴が掘られ、内壁をめっき処理して使っているから、基本的にはボーリング/ボア拡大しない、つまりチューニング/スープアップにおいては純正排気量のままで高圧縮化する等の手段が採られてきた。
▲使用ピストンに合わせてホーニングされクロスハッチも切られるシリンダー内壁(写真は見本の状態)。
ボア拡大は不可能なのでなく、硬度のあるめっきをシリンダー内壁から剥離させた上で拡大し、改めて純正同等のめっきを施す。φ79mmからφ81mmにする1224cc化は従来、この手法を採ってきた。
ここに新しい選択肢を作るのが、TGN・HPCということになる。ただTGナカガワがあえて作るのだから、それだけに終わらないはずだ。そのあたりを聞いていこう。
▲磁石を付けると落ちないことからも鉄製だと分かる。
再現性と精度を高めてより長くニンジャ系を楽しむ
「車両の生産終了から時間が経って、状態のいいシリンダーも減ってきているんです。めっきシリンダーだから保つだろうとかOリングがないから水が漏れないだろうとかは、通用しません。当社でもTOTハーキュリーズに1224cc仕様のZRXエンジンを積んだGPZ900Rを走らせていますが、水漏れはありました。エンジン内では、シリンダーブロックも相当揺すられて動いているんです。それで内壁に見えないようなクラックが入って、実際に水圧検査してみるとシリンダー内に冷却水がにじむように漏れてくる。そうなると交換一択でした。
▲写真はZRX1200のエンジン。
通常使用でもめっきが減ったり剥がれたりしますし、それでも同じくシリンダーブロックごと交換か、再めっきとなります。純正シリンダーもまだ手に入ってこれはありがたいのですが、使うにはそのままではなくて今までと同じ精度、内容を再現するために測定、ホーニング加工するという作業は必須になり、手間は増えます。
一方で再めっきは、現状では海外での処理がメインになっていて、どうしてもコストと時間がかかります。それら、つまり使う方の手間と時間、コストを何とか解決したいと考えて、これしかないとHPCに辿り着いたんです」
▲イラスト左はGPZ900R~ZZR1100/ZRX1100、右がZRX1200・DAEG/ZZR1200。GPZ900R~はアルミ製シリンダーブロック+鋳鉄スリーブだが、ZRX1200/ZZR1200ではシリンダーブロックがスリーブ部も兼ねていて、スリーブ内壁はめっき処理してピストン(リング)摺動に対応する。消耗に対しては交換か再めっきだが、TGナカガワのHPCは両者の良さを備える。
中川さんによればこのシリンダー=HPCは冒頭のように2タイプを用意するとのこと。『TGN HPC #1164』は純正φ79mmボアで、『TGN HPC #1224』はφ81mmボア用。オーダー時に使うピストンを指定すれば、ピストンの特性、純正めっきとの内壁処理の違いによる張りなどを合わせたピストンリングも用意して販売される。どちらも手持ちの純正シリンダーを下取りして、価格は純正の10%程度プラスとなる税込み20万9000円(税別19万円あたり)を予定しているという。
ピストンクリアランス過多などで使用不可になったシリンダーも下取りされるし、代わりにすぐ使えるシリンダーが手に入る。このメリットは1200系のオーナーだけでなく、例えばGPZ900Rで1200エンジンを積んでいるような場合にも享受できる。アルミブロックに特殊スチールを結合するという発想による新作、ニンジャ系の性能を高め、維持するのは間違いないし、ここからの発展性にも期待がかかってくる。
R-Shot#M処理とでニンジャ系をより長寿に
シリンダーだけでなく、TGナカガワではもっと広くニンジャ系への長寿化/高質化(と言っていいだろう)メニューが揃えられる。発表から8年が経ち、TGナカガワの主軸業務のひとつに発展した『R-Shot#M処理』は引き続き注目の作業だ。対象物の表面に二硫化モリブデンを混入した担体粒子=メディアを高速で打ち付け=ショットして対象物の表面強度を高め、かつ摺動抵抗を減らす手法。対象物の寸法を維持してくれる特徴もあり、長期定着性も確認されている。下写真のピストンはR-Shot#M処理を受けているが、測定して許容範囲内にある中古ピストンに処理を施し、TOTハーキュリーズを走ったそのもの。カーボンを除いて清掃すると写真のように処理直後にすら見える。今後も再使用できることの証明で、メリットは多く大きい。
▲TOTハーキュリーズに参戦する#11堀江 昭さんのGPZ900R/ZRX1200エンジン換装車で使ってきたピストン。カーボンを除いて洗浄されているとはいえ輝きに驚かされる。
ここから紹介する2台の車両はそんなR-Shot#Mの良さを実走でも味わってきたものだ。ZRX1200Rはピストン/ピストンピン、クランクメタルにバルブ、ミッション、そしてオイルポンプにもとほぼすべての可動パーツにR-Shot#Mを施したもの。排気量は1224ccだ。
▲TRINITY GARAGE NAKAGAWA ZRX1200R/フルR-Shot#Mで高出力をスムーズに生かし軽量&強化された車体を自在に楽しむ。各部の詳細はこちらのザ・グッドルッキンバイクページをチェック!
「ポート加工も行って、出力は190PS近辺とパワーも出ていますが、過渡特性も良くなっています。スムーズに吹けて、下がるときもスムーズ。そうした特性の良さを気に入って施す方も増えました。バルブに施すとバルブガイドの減りが抑えられますし、オイルポンプも傷がなくなり、スムーズになる。先のTOT車のように、寸法復元性があって微細な傷は消せるんですね。
このZRXでは車体の方も当社で確立したような補強(キャブレター後部のループ内側補強、リヤエンド左右接続など)を施し、各部軽量化もしてあって、存分に良さを楽しまれています」という密度の高さにも注目したい。
もう1台のGPZ900Rも、ピストンやクランクメタルはじめ、エンジン内稼働部にフルにR-Shot#Mが施されている。
▲TRINITY GARAGE NAKAGAWA GPZ900R/Ninjaらしさをきっちり維持しながら1078ccエンジンを軸に高レベルに仕立てる。
「ニンジャクランク(55mmストローク)のままφ79mmピストンを組み合わせた1078ccで、TGNステージIIIプラスのメニューです。少し価格は高いのですが、φ78mmの1050ともにお勧めのパッケージです。
こちらも車体側は17インチ化+きっちり補強などを行って、スムーズ&パワフルさを楽しめる。その上でニンジャらしいニンジャに仕上がっていると思います」。オーナーも大絶賛だという。
車両のらしさを損なわずに出力や剛性感を引き上げ、かつエンジンの過渡特性も今流に高める。
▲HPCとR-Shot#M処理ピストンの組み合わせ販売も検討中。シリンダーとピストンの双方が高耐久になり、作動もスムーズになることで高性能で長く乗れるニンジャ系エンジンが実現できる。R-Shot#Mはどのエンジンにも施工できるし、HPCも応用がありそうだ。
今回紹介したHPCにも、R-Shot#M処理済みピストンとのセット販売が予定されている。この双方によって、今まで消耗してダメだと思われていたピストン、シリンダーが、適正クリアランスに再生され、活用される。シリンダーは割れず水漏れなく、剛性も上がる。各パーツは極度に摩耗したものは除くとしても、多くがR-Shot#Mで再生され、ライフが伸ばせて安定性も増す。
確かに生産終了からの時間経過で廃番になる製品は増えるだろう。でも、そこに新しいものを加える、あるいは今あるものを寸法復元し、かつ消耗を抑えながら使えるなら、ニンジャシリーズはまだ楽しめる。
「大事なニンジャをより長く、高性能を維持できることを第一に考えた結果です」と言う中川さん。HPCもR-Shot#Mも、もちろんTGナカガワのエンジン作業にも、引き続き注目したいのだ。
生産終了から10年近く経つシリンダーを解析し必要なものをプラス
ZRX1200R STD 1164cc/φ79mm
ZRX1200純正シリンダー。下に突き出たスリーブ相当部(下写真)もシリンダーブロックと一体のアルミ製で内壁はめっき。めっき剥がれや摩耗、ゆがみから来るスリーブ内壁割れもある。
ZRX1200R Mod. 1224cc/φ81mm
TGナカガワでHPCを作るにあたり内部構造や寸法検討のために#1と#4各気筒の中央でカットしたシリンダー。純正より2mm大径のφ81mmピストンを入れるため気筒間の壁が薄くなっていることが分かる。下写真で冷却水通路の形状やスリーブ相当部の肉厚も分かる。
TGN HPC#1224 1224cc/φ81mm
TGナカガワHPC #1224。上面も平滑に面研仕上げされる。上2点とシリンダーボア以外の違いは、HPCではスリーブ相当部が鉄ということだ。
表面硬度と摺動性を高めパーツ寿命を延ばすR-Shot#Mも
TOTハーキュリーズに参戦する#11堀江 昭さんのGPZ900R/ZRX1200エンジン換装車で使ってきたピストン。JE製φ81mm鍛造品(写真下のように裏側に打刻がある)で、使用後に計測して使用範囲内のため清掃後にR-Shot#Mを施し再組み立てしさらにTOTで4レース走ったもの。そのエンジンをバラした際にカーボン除去等を行っただけだが、トップもリング部も本体及びR-Shot#Mの摩耗は見られない。R-Shot#M処理以前にあった複数の細かい傷も最初の処理で消えていて、それも維持されている。
【協力】トリニティガレージ ナカガワ TEL0545-71-3032 〒419-0205静岡県富士市天間1928-7 http://www.tg-nakagawa.co.jp
※本企画はHeritage&Legends 2025年3月号に掲載された記事を再編集したものです。
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