話題の#604レプリカを走らせる! 1986年デイトナ・スーパーバイクを 席捲した油冷機の夢が今、公道に蘇る・YOSHIMURA

GSX-R、油冷機、そしてヨシムラファンのアイコンのひとつに、ゼッケン604を付け辻本 聡さんのライドで1986年の デイトナ・スーパーバイクにスポット参戦したGSX-Rレーサーがある。2024年に創立70周年を迎えたヨシムラは、 同車をモチーフとした公道向けデモバイク、レーサーレプリカ“604”を発表。油冷GSX-R復刻プロジェクトのスタートもアナウンスした。 そして2024年11月16日に開かれたヨシムラミーティングでは、そのレーサーレプリカ#604への試乗が許された。 ヨシムラがこの2024年に改めて製作した油冷GSX-Rと、これからとは?

試乗開始から早々に 没頭できる理想のSS

「ん? これは失敗したのかも」。 試乗用の装備を整えて、ピットロードでヨシムラのスタッフによる暖気を眺めている最中、ふとそんな気持ちがよぎった。なぜなら、現役時代のゼッケンを踏襲する形で“604”と命名されたヨシムラのカスタムマシンは、’86年のデイトナ200で辻本聡さんが駆ったレーサーのレプリカなのである。となれば試乗はその辻本さん、あるいは、’80年代の同社でチーフメカを務めた、アサカワスピードの浅川邦夫さんあたりにお願いするべきじゃないのか。

▲YOSHIMURA GSX-R750 RACER REPLICA “604”/抜群の信頼感が得られるから 無心でライディングに没頭できる。

しかもテストの舞台は、ヨシムラミーティングが終了した直後の那須モータースポーツランド。会場には加藤陽平社長を筆頭とする同社のスタッフが大勢いる。そうした事情を試乗の直前に認識して、この仕事を受けたことを後悔した。

けれどコースインして数分後、ピットロードで抱いたそんな逡巡はすっかり消え去り、無心でライディングに没頭していた。もちろん、ずっと無心というわけにはいかないので、5周目からは各部の様子を探ったのだが、ヨシムラが手がけたこの604は、’80年代に生まれたレーサーレプリカの理想形、そして先鋭化が進んだ近年のモデルとは全く違う、スーパースポーツの理想形と言いたくなる素性を備えていたのだ。

 

事前予想を大幅に上回る 抜群の完成度に驚嘆した

まずはパワーユニットの印象から書けば、各気筒の爆発が徐々に整いながらレッドゾーンに向かってタコメーターの針が駆け上っていくフィーリングは、最高のひと言だ。もちろんスズキの油冷4気筒は、ノーマルでもその特性が味わえるけれど、吸排気系(マフラーはエキパイに筒状の連結管を設けたデュプレックスサイクロンだ)を変更した604は、迫力と速さが5割増しという感触なのである。

ナナハンレプリカで高回転域指向を追求すると、低回転域が物足りなくなることが珍しくないのだが、排気量を考えると小径だがきっちりセッティングが出たTMR-MJNφ32㎜キャブやデュアルスタックファンネルの効果なのだろう、このパワーユニットは全回転域がコントローラブルで、扱いづらさは微塵も感じなかった。

では車体はどうかと言うと、最初に感心させられたのは、ヨシムラの削り出しステム、オーリンズの前後ショック、JBマグタンホイール、ブレンボ/サンスターのブレーキ、ブリヂストンのラジアルタイヤ(BT-016PRO。ノーマルはバイアス)などを用いて、足まわりをフルカスタムしているのに、違和感が皆無だったこと。逆に言うなら604は現代のパーツをきっちり履きこなし、濃密な接地感や自由度の高い操安性を実現していて、だからこそ早い段階から無心でライディングに没頭できたのだと思う。

▲YOSHIMURA GSX-R750 RACER REPLICA “604”/現代の技術を投入して'80年代車ならではの資質を徹底的にブラッシュアップ!

それに加えて車体で印象的だったのは動きの軽さだ。そもそも初代GSX-R750は、同時代のライバル勢と比べれば圧倒的に軽かったのだけれど、変更点を考えると604の乾燥重量は160㎏台に収まっているはずなので、ノーマルは言うまでもなく、近年のスーパースポーツよりも軽い。

もちろん動きの軽さには、細身の前後18インチタイヤ(F:110/80ZR18・R:150/70ZR18。フロントはノーマルと同寸で、リヤは1サイズ太い)も効いているはずだ。極太の17インチが定番になった今のスーパースポーツではなかなか味わえない、ヒラヒラ軽快で、それでいてライダーを優しく導いてくれるかのようなハンドリングは、このタイヤだから実現できたのだろう。

というわけで、604の乗り味に大いに感動した一方で、’90年代以降のレーサーレプリカの進化の方向性に少しだけ疑問を抱かされた。サーキットにおける運動性能を考えれば、現代のスーパースポーツの姿は正解なのだけれど、僕を含めた一般的なライダーがスポーツバイクに求めているのは604のようなキャラクターなんじゃないかと。

そんなニーズに応えるため、現在のヨシムラでは604用として開発したスペシャルパーツに加えて、604をコンプリートマシンとして販売することも検討していると言う。それは非常に夢のある話だし、できることなら604が起爆剤になって、どこかの車両メーカーから並列4気筒+前後18インチ+超軽量なスポーツバイクが登場しないだろうかと、今回の試乗を終えて、夢想しているのだった。

 

当時のレーサーとは似て非なるレプリカ! YOSHIMURA GSX-R750 RACER REPLICA “604”

ノーマルをベースとする外装やマフラーは’86年に辻本さんが駆ったデイトナレーサーの雰囲気を再現する604だが、足まわりは当時のブランドにこだわらず、現代のヨシムラがベストと考えるパーツを使う。スクリーンは同社のウインドアーマーで、バックミラーはマジカルレーシング製。

この車両には超コンパクトなウィンカーなど補器類一式を装備するので、ゼッケンプレートを外せば公道走行も可能だ。

アルミ削り出しのステム604スペシャル。タコメーターはモトガジェット・クロノクラシックで、右にはヨシムラの油温/電圧計を設置してある。

アルミ削り出しのバックステップも604スペシャルだ。

シートはシングル仕様。レザーのグリップ力とウレタンの絶妙な硬さは、ライディング中にかなりの好感触を得た。

エンジン内はノーマルだが、パルサーカバーとスターターカバーは同社製に変更する。

溶接痕が美しいアルミ製オイルキャッチタンクは、ヨシムラが以前から販売しているユニバーサルタイプではなく、このマシンのために開発された604スペシャルだ。

オールチタンの排気系も604スペシャル。現代の基準で見るとサイレンサーは細身。

ヘッドパイプ後部とスイングアームピボット上部に施されたフレーム補強、スタンドフックとスタビライザーを追加したスイングアームも、’86年型デイトナレーサーに準じる構成を採る。

足まわりには、オーリンズ、JBマグタン、ブレンボ、サンスター、ブリヂストンなどの最新パーツを投入した。

 

デモ車×10台の試乗や トークショーを通して ヨシムラの魅力を実感!


ここ最近は11月の開催を定例としている、ヨシムラミーティングは2024年も大盛況だった。来場したギャラリーは、数多くの同社製パーツを装着したデモ車×10台の体験試乗に加えて、加藤陽平さんとEWCに参戦したスタッフ、吉村不二雄さんのトークショー、そして渥美心選手+GSX-R1000Rレーサー/604のデモランなどを、心から満喫したようだ。

【協力】ヨシムラジャパン 〒243-0303 神奈川県愛甲郡愛川町中津6748  https://www.yoshimura-jp.com/

 

※本企画はHeritage&Legends 2025年2月号に掲載された記事を再編集したものです。
バックナンバーの購入は、https://handlmag.official.ec/ で!

WRITER

Heritage&legends編集部

バイクライフを豊かにし、愛車との時間を楽しむため、バイクカスタム&メンテナンスのアイディアや情報を掲載する月刊誌・Heritage&legendsの編集部。編集部員はバイクのカスタムやメンテナンスに長年携わり知識豊富なメンバーが揃う。