2024年はGPZ900Rデビュー40周年記念! 著名コンストラクターに聞く“過去・現在・未来”【後編】

GPZ900Rがデビューして40周年となる2024年。この機会にアフターマーケットの皆で集まり、なにかできないか? そんなテーマで集まった、ブルドッカータゴス・田子敏幸、トレーディングガレージナカガワ・中川和彦、MCジェンマ・石田道彦の3氏のお話を伺う、その後編(前編はこちら)。今回はニンジャを維持し続けるための問題点と解決策に話題は移っていった。

進む純正部品の廃番にアフターマーケットでどう対応していくか

本企画の前編(こちら)では、3人それぞれのGPZ900Rに興味を持ったきっかけ、それぞれが過ごした’90年代のブーム時の、ニンジャ・カスタムの様子などに話の華が咲いた。純正部品流用が主体だった往時のカスタムが転換期を迎えたのは、アクティブが’04年に発売したGALE SPEEDを代表とする、アフターマーケットパーツでの車種専用品が台頭し始めたのが、そのきっかけだったとも。話の続きを聞こう。

▲中川和彦(NAKAGAWA KAZUHIKO)/ニンジャ・ZRX系に豊富なデータを持つトレーディングガレージナカガワの中川さん。近年は2車に限らず、独自の表面処理「R-Shot#M」で、廃番中古部品の延命に注力。

中川:もう発売から40年も経つというのに、数は少なくなったとはいえGPZ900Rの純正部品が出てくるのはありがたいことですね。けれど純正廃番が進んで、この先どうしていくか?

▲石田道彦(ISHIDA MICHIHIKO)/今回、一番の若手となったニンジャ専門ショップ・MC市ジェンマの石田さん。同店は昨夏、福山から大阪の八尾市に移転した。オリジナルフレーム加工サービス、「JCG-N」(こちらこちらの記事でご紹介!)に磨きをかける。

石田:これから新たにニンジャのショップを興したいっていう人だっているでしょうしね。僕だっておふたりよりずっと後釜ですから、MCジェンマの名前を知ってもらうために、どうしてもパフォーマンス重視でエンジンを作らざるを得ない。そうするとライフを犠牲にすることになるけれど、純正部品が枯渇しつつある今、お客さんを思えばなるべく最小限にとどめなければならない。性能は追いたいけれどエンジンを壊すわけにはいかない、そんなせめぎ合いの中で仕事をしています。

中川:エンジンといえば、これも今どきなのかもしれませんがインターネットでエンジンコンプリートが売られていたりするじゃないですか。結構、いい値段が付いていたりして、これってどうなの? とも思うのですが。

▲田子敏幸(TAGO TOSHIYUKI)/'23年に開店25周年を迎えた。田子さんの「タゴスは僕の趣味のお店」の言葉通り、自身のニンジャで試したことを、メンテやカスタム、そしてオリジナルパーツでユーザーに反映する。

田子:誰かが値段を上げると今度はそれが標準になる。ネットオークション、あるいはニンジャのエンジンに限った話ではないけれど。でも、ニンジャのマーケットでそうしたものが活用されているとするならば、やっぱり我々のようなショップの敷居が高いのかな。高い値段をふっかけられそうで相談しにくいのでしょうね。

中川:昨今の状況下でピストンを始めとしたアフターパーツの値段は上がる、ボーリングやシートカットもそうだし純正部品の価格上昇も眼が当てられないほど。

田子:でも、僕らの作業工賃も削れないしね(苦笑)。

中川:もちろん今だって35年以上経った前期型エンジンの作業が来る。ショップとしてはピカピカに直して返してあげたいじゃないですか。そうすればこの先、また何十年とニンジャを楽しみ続けてもらえるわけだから。

石田:お客さんも怖がらずに一度相談してもらえるといいですよね(笑)。ただ、その時は「どうしたいのか」を明確に教えてほしい。例えば思い入れのあるエンジンだから、予算はいくらかかってもいいからそのエンジンを直したいのか、あるいは今壊れている状況をなんとかしてほしいのか、同じことを言っているようでいて、実は作業の内容や使うパーツだって変わっていきますから。

中川:そう。僕らの思いとは別の次元がある。本当はお客さんなりの考えがあるけれど、予算が出し切れなかったり。調子よく気持ちよく、心すく加速ができて「ああ、ニンジャって本当はこうだったな」ってお客さんに満足してもらうのが理想だけれどね。でも、例えば一度で直せなくてもその順番を一緒に考えられる。二度手間になってお客さんの負担が増えないメニューを組むことも、僕らプロショップの仕事なんです。安いからといつまで使えるか分からない中古パーツをネットオークションで買うより、よほど安全・安心が手に入るって考えてもらえるといいのですが。

▲座談会でも話題となったスペックエンジニアリングが販売する「純正オーバーサイズピストンキット」(写真内右。左は純正ピストン)。'16年の販売スタートからすでに8年目。多くの車両に組み込まれている実績もある。

中川:ここにいないショップさんの話をするのも恐縮なんですが、スペックエンジニアリングの瀬尾さんが開発したオリジナルのφ73mmピストン(※編注・スペックエンジニアリングで純正オーバーサイズピストンキットとして販売中)、あれってすごくいいですよ。たまたま分析機でプロファイルを計測する機会があったんですが、重心のバランスがいい。ウチでクランクをラッピングしてクランクメタルとそのピストンにR-SHOT#Mをかけて馴染みを良くして組んで走らせてみたらすごくいいんです。ウチでメニュー化しているワンランク上の972㏄(φ75mm)仕様も顔負けってぐらいです(笑)。ただしスペックエンジニアリングのものは鋳造ピストンですから、ハイパフォーマンスチューニングには向かないでしょう。でも、ストリートで使うにはもってこい。価格もリーズナブルだし。

田子:コストパフォーマンスがいいんだね。上手に使えるといいね。

H&L:ニンジャに乗っている読者の興味には廃番となった純正部品。中でもプロショップが困っているものは何だろうというのもあると思うのですが。この辺りはどうですか。

田子:いやもう、困っているものばかりですよ(笑)

石田:特にカムチェーンスライダー(チエンガイド)ですね。これはホンダのCB-Fあたりに始まり、カワサキではゼファーでも同じように問題になりますが、アフターマーケットで作り直そうにも作れない。耐久性を担保できませんから。今は状態のいいヤツをストックして使い回しているけれど、いつまで続けられるか分からない。

中川:金属パーツはR-SHOT#Mでなんとか再生もできたりするけれど樹脂パーツはね(苦笑)。

田子:あとミッションだね。

中川:現在でもシフトフォークだけ、まだ純正部品として出てくるみたいですけれど、あとは全滅(廃番)になってますね。

田子:中川さんはそうしたニンジャの部品再生では先駆だろうけど、なにかアイデアはないですか?

中川:ウチではR-SHOT#Mをかけてミッションまわりも商品化するんですけれど、手元にある3〜4台分の中古エンジンをバラして、上手くいって2台分が確保できるかといったところです。それだっていつまで続けられるか……。

田子:そうしたらもう有志でお金を出し合って製品化するしかないのかな(笑)。ブルドックさんやACサンクチュアリーさんがZ用に作っているものみたいにドラムまでセットにしたいところだけど、高価になってしまうからニンジャの場合、そこまでユーザーが付いてこられるかどうか。まずはギヤだけでも作るのがいいのかな。

石田:シフトドラムは中川さんにR-SHOT#Mをかけてもらって凌ぐって感じでしょうか(笑)。なんとか実現できるといいですね。ウチではZZRやZRX用へのエンジン自体のスワップも対応策としてお勧めしていますが、それもDAEGのパーツが廃番になったら同じことが起こります。善後策は早く考えなければ。

 

ニンジャ生誕40年となる2024年に専門ショップとして考える施策は

H&L:話は変わりますが、40周年ということで、この’24年に特にニンジャ向けに進める施策はありますか。

▲ブルドッカータゴスが勧めているオリジナルの3層式ラジエーター。車両側要加工のため、同店で作業を受け付ける。

田子:40周年で特別に、ということはないかな。ウチは淡々といつも通りの業務を続けるだけです(笑)。ただし、ここに来て夏場が異常に気温が高いじゃないですか。ニンジャに限らずのことでしょうが、水冷エンジンでは水回りの水温上昇対策は積極的にお勧めしようと思っています。ニンジャ向けならウチがオリジナルで販売する3層ラジエーターの装着だったり、そこまで行かなくてもウォーターポンプやパイプ類の見直し、そしてサーモスタットを60℃で開くタイプ(純正は82℃)にしたり。経年劣化したラジエーターキャップをクールテック製に変えるだけでも効果が出ますので、相談してもらえれば。あとは経年劣化したメインハーネスも要注意点としてお話しします。そうそう、周囲にはちょっとしたニンジャブームが来ていまして(笑)、ミーティングがあれば参加したいっていう人、結構いますよ。

▲MC.ジェンマがストックする中古ミッションパーツ群。ニンジャ専門ショップはどこも同様の悩みを抱えている。

石田:なんと言ってもデビュー40周年ですから、なにかカタチを残したいですよね。ニンジャに関係の深いショップの皆さんにお声がけして、まだぼんやりとしたカタチも見えませんが、イベントができるといいですよね。

ウチの施策としては、ようやくショップが落ち着いてきましたので、オリジナルパーツを広く展開していきたいと考えています。まだカタチになっていないので具体的には言えませんが、ニンジャにお乗りの皆さんがお困りになる、エンジンまわりの純正置換パーツに手を付けています。

▲T.G.ナカガワのR-SHOT#Mが施工されたピストン。そのオリジナル表面処理は表面硬度を高め滑らかにしつつ耐摩耗性も向上。中古パーツの再生にも効果がある。エンジンパーツのほか、キャブのスライドバルブにも施工可能。

中川:ウチはまずR-SHOT#Mの適応パーツをさらに充実させるのが第一ですかね。ニンジャ向けのカムシャフトをラッピング+R-SHOT#Mでリビルドするサービスをスタートしましたが、これを1日も早く軌道に乗せて、オーナーの皆さんのお役に立ちたい。

あと、シリンダーヘッドカバーを加工してそのセンターよりオイルを取り入れ、直接オイルをカムとロッカーアームの間に噴射するDOS-Rも、発表して8〜9年の時間が経ちましたから、そろそろリメイクしたいと考えているんですよ。こちらも楽しみにお待ちいただきたいサービスです。

 

この後、3者はニンジャのデビュー40周年を記念した、アフターマーケットでのイベントをカタチにする方法について、大いに盛り上がることとなった。具体化したならもちろん、H&Lでも紹介していきたい。ニンジャ・ファンは吉報を楽しみに待っていてほしい。

 

【編集部追記】

この座談会の後、MCジェンマ・石田さんの声がけを皮切りに、ニンジャ系有力ショップが集まり開かれるGPZ900Rのデビュー40周年イベント“NINJA 40th FESTIVAL”が8月25日(日)に、茨城県の筑波サーキット・コース1000で開かれることとなった。

当日はニンジャに関わる著名パーツメーカーやショップが出展。コースを利用したコンテンツや、ギャラリー向けには楽しいステージイベントなども開く予定という。

参加はGPZ900R、Ninjaと名の付くバイク、そしてニンジャに興味があれば誰でも。入場無料(別途要駐車料。2輪:500円、4輪:1000円)。詳細は公式Xで随時更新中。

●公式Xアカウント=https://x.com/NINJA40TH_FES

 

「2024年はGPZ900Rデビュー40周年記念! 著名コンストラクターに聞く“過去・現在・未来”」の前編はこちらをチェック!

 

【協力】

ブルドッカータゴス TEL0270-75-4772 〒372-0825群馬県伊勢崎市戸谷塚町42-1 https://www.bd-tagos.net/

トレーディングガレージナカガワ TEL0545-71-3032 〒419-0205静岡県富士市天間1928-7 http://www.tg-nakagawa.co.jp/

MCジェンマ TEL072-940-6544 〒51-0815大阪府八尾市宮町6-9-2 https://www.mcgemma.com/

※本企画はHeritage&Legends 2024年3月号に掲載された記事を再編集したものです。
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WRITER

Heritage&legends編集部

バイクライフを豊かにし、愛車との時間を楽しむため、バイクカスタム&メンテナンスのアイディアや情報を掲載する月刊誌・Heritage&legendsの編集部。編集部員はバイクのカスタムやメンテナンスに長年携わり知識豊富なメンバーが揃う。